軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十七、会談と行き違い

理人(リビト) 国の特使たちは 壬氏(ジンシ) を値踏みするように見ていた。一見、丁寧な態度ではあったが、後宮で散々値踏みをされてきた壬氏が見破るに容易いものだった。

国力の差は 茘(リー) のほうが何倍、何十倍も大きい。しかし、背後に強大な同盟国があることが慢心を生んでいる。また、茘よりも体格が大きく毛深い者が多いのが特徴だろうか。

なので護衛には背が高く屈強な者を選んだ。 李白(リハク) あたりなら機転が利き、ある程度信用できたのだが、夜の護衛のために仮眠中であったこと、例の第四王子らしき者の診察に行った際に同伴したのでやめておいた。

最近はだいぶ成長した 馬閃(バセン) だったが背丈はまだ発展途上であり、髭もない童顔のため護衛ではなく文官の格好をさせる。本人は不本意だったようだが、相手を油断させるためと言い訳を言って納得してもらった。

会談の場所は、公所でも本邸でもなく西都一の高級飯店だと言われる店を貸し切り、 飛龍(フェイロン) とその叔父、 玉袁(ギョクエン) の次男立会いの下、行われた。陸孫は公務が残っているからと辞退、せっかくなので一緒に来てもらいたかったのに面倒くさいことはしないらしい。

念のため、 虎狼(フーラン) と 雀(チュエ) 、 馬良(バリョウ) も李白と同じ理由ではずした。馬良と雀はああ見えて語学に堪能なので、通訳としていてもらいたかったが仕方ない。

外交はそれだけ面倒臭い。言いがかりのつけ合いで、友好国でもないのなら忖度する義理はない。

しかし、壬氏は己の面が交渉の場面で役に立つものと知っている。案内された部屋で、特使たちと対面すると一瞬、固まったようになった。そして、まじまじと右頬の傷を見て残念そうなため息をついた。

莫迦にされていると思うこともある形容だが、天女の如き微笑みを持つ天上人というのは、異国人にも通用するらしい。もし、性別が女ならさらに効果があると思われるが、それはそれでさらなる厄介ごとを引き寄せることになると壬氏はわかっている。たびたび、男でよかった、国が傾かずに済んだと言われるのだ。

こんな冗談みたいな容姿をくれるなら、もっと堅実な才能が欲しかったと壬氏はない物ねだりを何度しただろうか。

とはいえこの容姿に面倒をかけられたことも多ければ役に立ったことも多い。今回も利用できるのであれば、利用したいところだ。

会談の内容は意外なほど直球を投げられた。特使としてやってきたのは、茘人によく似た風貌の男だ。色彩は黄みを帯びた肌にこげ茶の髪と目をしている。ただ体毛の濃さと大きめの鼻と目は異国人の血を感じさせた。

『我が国の貴族が行方不明になっている。知らないか?』

そんな話だった。通訳が伝えているので、相手がどの程度壬氏に気を使った物言いかはわからない。

王族ではなく貴族、細かい年齢は伝えていないが大体予備知識と一致する。

『誘拐の可能性もある。もし情報があればすぐさま教えて欲しい』

見た目はいかにもその貴族とやらを心配している様子に見えた。伏せ気味のまつ毛や細かい手の震え。演技だとすれば大した役者だ。

ここに変人軍師がいればどんな役者であろうとも仮面を暴いてくれただろう。だが、外交という場面で彼を投入する勇気は壬氏にはない。それこそ、煙草をふかしながら火薬庫で談話するようなものだ。

壬氏はあらゆる可能性に配慮する必要がある。

「もし兄が何か問題を起こした場合、私も話に参加させてください」

神妙な面持ちでいう飛龍。

「甥っ子の不始末は俺にあります。我々に気遣わずに公平な判断をお願いします」

というのは玉袁の次男。

たとえ血縁だろうと処罰は受け入れるようだが、その公平というのは難しい。本来なら、はっきりした情報がないとできないものだ。

だが、優先順位をつけるとしたら、どれを一番にすべきだろうか。

仮に話の貴族を第四王子としておく。

特使の話が本当だと鵜呑みにするのなら、第四王子は誘拐され茘へと連れて行かれた。その際、 鴟梟(シキョウ) が手引きしたと考えるのが普通だろう。

いくらどら息子でも、他国の王族誘拐に関わっているのであれば擁護できない。関わり合いにならないほうがいい。もし何かあれば即座に切る準備さえしなければならない。

冷たいように聞こえるが、それが外交だ。他国との軋轢を生み、戦を始める火種を与える者を野放しにすると、その何十倍、何百倍の死者が出る。

ただ、特使の話が嘘だと話が違ってくる。

明確な情報がわからないまま決断を迫られることもある。壬氏としては、しばらく鴟梟への監視を怠らないように命令するほかない。場合によっては、本邸や公所への立ち入りを禁止せねばならない。

食事処なのに食事をしないまま話は終わる。しばらく宿にて滞在するという理人国の特使たち。

どのくらいいるのかわからないが、気を抜けない。

ただ、こういう時に限って面倒ごとはおこるものだ。

飯店を出て馬車へと乗り込む。

食べた気がしない食事を流し込むように水を貰う。馬閃の出番はなかったものの、動きづらい文官服が息苦しかったのか、軽く襟を緩めている。

馬車の戸を叩く者がいる。

「どうした?」

馬閃が目を細めて、窓から外を見る。

「伝令です」

蜜蝋で簡単に封をされた紙を渡される。馬良からだった。

「どういう内容ですか?」

「……なんとも時機が悪い」

壬氏は額をおさえる。

書面には本邸に鴟梟がやってきたこと、無理やり入ろうとして争いになったことが書かれてあった。

そして――。

「……」

「壬氏さま、顔色が悪いようですけど?」

「……あの莫迦やろう」

怪我をして逃げた鴟梟を 猫猫(マオマオ) が治療したことが書かれてあった。