軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十七、飛頭蛮 中編

「さて、どーすんの?」

他人事のような 天祐(ティンユウ) 。

「どーすると言われましても、ちゃんと使えるところを見せるんじゃないんですか?」

猫猫(マオマオ) は中庭を見る。

李白(リハク) は夜の見回りのため、眠ってもらうことにした。代わりに、邸の見取り図を貰っている。

なお、やぶ医者を言いくるめて、出かけているので早めに終わらせなければならない。

「俺は鋏。どの紙を切れと言われないと、切らないの。後ろからなんでもぶっ刺せばいいんならそれでいいけど」

「……」

猫猫たちに信頼されていないことを根に持っているようだ。

(しかし、こいつだものなあ)

どこか倫理観というのが希薄に見えるのだ。

「とりあえず、くだんの妖怪が出た場所に向かいましょうか」

「へいよ」

最初の場所は、よく浮かんだ面が見えると言う中庭だ。

「あの木や、建物の上に目撃情報が偏っています」

猫猫はちらっと邸の見取り図を見る。別邸とはいえ、けっこうな広さだ。

「ほー」

天祐が木と建物を交互に見る。

「どこか気になったところは?」

「別にー。 娘娘(ニャンニャン) はどーよ?」

天祐は猫猫への呼び方はこれだ。

「私としては、二つほど」

まず木を見る。

「西都の他のところに生えている木とは少し違いますね。他の木より大きく背が高い」

「それが何なの?」

「気になりません? 植物は種類が違えば、どんな薬ができるか違います。もう少し近づかないとわかりませんけど」

「うん、それが今のところなんの関係があるの?」

面白みのない性格だと猫猫はつまらない顔をする。

「っで、もう一つは?」

「もう一つは、木と建物に見えるというのは『面』みたいです」

「そりゃあ、面が出るって言ってたからな」

「ええ。『面』または『顔』が出ると。でも、『頭』とは言われていないんですよ」

猫猫は一つ気になったのは、『面』という証言と『頭』という証言がわかれているということだ。

「『面』と『頭』、平面と立体ってことでいいのか?」

天祐はなんだかんだで頭はいい。惜しいところをついてくる。

「それはどうかわかりませんが、ちょっと気になりまして。あの木を調べてみようと思います」

「どーぞ。なんかやることある?」

鋏が働く気になったようだ。

「ええ、では」

猫猫は懐から手ぬぐいを取り出すと、地面に落ちていた石を包む。

「これを上手くあの木に引っかけてください」

「無茶言うなぁ」

と言いつつ、天祐は綺麗な形で振りかぶって手ぬぐいを木に引っかけた。これで、堂々と木登りができる。

猫猫はてくてくと木の下に入る。木は、広葉樹で高さは 二丈(ろくめーとる) ほど。

「これは 金木犀(きんもくせい) か」

猫猫は近くで確認する。香りの強い小さな花を咲かせる木だ。桂花陳酒や花茶に使われる。

猫猫は木に手をかけて、「うわっ」と声を上げる。

「うわ、汚ね」

(うるさい)

猫猫の手には鳥の糞がついていた。半乾きの糞だ。木の幹になすりつけようとして止まる。

「えっ? なに匂い嗅いでんの?」

天祐がひいている。

「えっ? なに棒でかき回してるの?」

天祐が白い目で見る。

「えっ? つまむ? 箸みたいに糞の中身つまむ?」

天祐が半歩下がる。

猫猫とて好きでやっているわけじゃない。ただ、動物の糞には色んな情報が含まれている。

「この鳥は、虫を主に食べているみたいですね」

「虫くらい食べるだろ」

「他に、たぶん鼠か何かの小動物の毛も混じっています」

「鼠を食う? 鷹(たか) か 鳶(とんび) あたりか?」

虫はともかく小動物を食べるとすれば、ある程度大きさがある鳥になる。

「ええ。でも……」

猫猫は周りを見る。この邸は緑が多く水も豊富なので、鳥はちらほら集まっているが、少なくとも鼠を食べるような大きさの鳥はいない。また、そんな鳥がいたら小鳥は逃げてしまう。

少なくとも今の時間にはいないようだ。

猫猫は考えつつ、次に建物を見る。

「あの建物、屋根には上れませんよね?」

「屋根ねえ。もっかい手ぬぐい投げる?」

「届きます?」

「無理っぽい」

特に解決案も無さそうなので一度戻るか、と思っていたら猫猫の視界の端で何かが動いた気がした。

何だろうと見た先には特に何もなく、屋根の下の透かし飾りが見える。

「……やっぱり、屋根登りたいですね」

「えー、無理だろー」

「なんとかしましょう。 梯子(はしご) を」

「んなこと言われても庭師に聞くしかねえよなあ」

興味がだいぶ薄れてきたのか、天祐にやる気はない。

(たしか庭師といえば)

昨日、首を見たとか言っていた爺さんだ。

猫猫は庭師がいる小屋へと向かう。

「いきなり梯子を貸せとか言われてもね」

爺さんは面倒くさそうに対応する。昨日変な物を見たせいか、どこか活気がない。

「客人には親切にするよう言われているが、邸を掻きまわすのを手伝えとは言われておらんのだが」

「もっともな意見だねえ」

天祐も納得する。

(どっちの味方だよ)

天祐は全くあてにならない。

「この邸の屋根の隙間に、鳥が巣を作っているみたいなのですが」

「巣? そういや最近、糞が多いな」

「はい。鳥が巣を作るとなれば面倒ですし、片付けてしまおうかと。ついでにその卵が手に入ったら嬉しいのです。薬の材料にします」

「薬って。どんな鳥なのかわからないのにか?」

「ええ、卵は大体滋養にいいですから」

適当なことを述べる猫猫。

あともう一つ、付け加えておく。

「最近話題になっている化け物騒ぎ。原因がわかると思いますけど」

「ほ、本当か⁉」

「はい」

少なくとも半分は解決できると猫猫は思った。

庭師の爺さんはすぐさま梯子を用意してくれたが、思った以上に不安定なものだった。

「もしかして登るの俺?」

天祐が猫猫に確認する。

「その言い方だと登る気はないですよね」

「うん」

庭師の爺さんにそこまで頼む気はないので、猫猫は自分で登ることにする。しかし、大きな梯子をかけていると、わらわらと暇人な官や使用人たちが集まってきた。

「……」

生憎、猫猫の代わりに梯子に登るという者はおらず、ただの物見遊山だ。

ついでに言えば、元祖暇人もやってきていた。

壬氏である。お偉いさんの登場に、周りの者たちは三歩下がった。

壬氏はなんとも言えない顔をして、なにやら馬閃に言いつけている。馬閃は頷くと猫猫の元へ来る。

「梯子に登るようだが、私が替わる。何をすればいいのだ?」

「馬閃さまですか」

正直、馬閃が行くとなれば猫猫が登ったほうが早かったりする。馬閃のほうが運動能力は優れているが、とっさの判断で鈍りそうな気がしたからだ。それに――。

(莫迦力で何かやらかしそうだ)

「いえ、大丈夫です。私が行きます」

きっぱり猫猫が断るが、馬閃がひくわけがない。

「替わると言っている。何をすればいい?」

替わること前提なのだ。猫猫が折れるしかない。

「……おそらく、おそらくですが、屋根の隙間に鳥が巣を作っていると思います。鳥がいたら、捕まえていただけないでしょうか?」

「鳥か」

「はい、おそらく夜行性の鳥だと思います。眠っているところをゆっくりお願いします。手が届けばですけど」

「わかった」

ふんっと鼻息を荒くする馬閃。猫猫は逆に不安になる。

「馬閃さま。無駄な殺生は極楽にいけなくなるので、くびり殺さぬようにお願いしますね」

「くびり殺さぬよう……」

途端に声が小さくなった。

(不安だ)

やはり李白あたりを起こして替わってもらおうかと考えたが、屋根の隙間を見る。李白では到底入り込めなさそうだ。

「隙間の大きさから私がいったほうが良さそうですが」

「い、いや、私が行く。私にまかせておけ!」

猫猫は不安いっぱいになりながら、梯子を登っていく馬閃を見る。一つ僥倖と言えば、身体だけは丈夫なので梯子から落ちてもそうそう怪我の心配はないことくらいか。

馬閃は、梯子を登り、屋根の下の透かし細工の隙間をのぞき込む。親指と人差し指で丸を作った。

(鳥の巣はあるんだな)

透かし細工は取り外しができるようになっており、馬閃はゆっくり外す。紐を通し、地面まで下ろした。隙間から身をねじりこませて入る。

猫猫だけでなく、周りの皆もごくんと唾を飲み込む。

皆も静かにしていると思ったら、 雀(チュエ) がいつのまにかやってきて『お静かに』と書かれた板を周りに見せていた。

しばし何も反応が無かったが、がたがたと大きな音がした。

「逃がしたー」

馬閃の声が響く。

(おーーーい!!)

猫猫が慌てていると、雀が札を置いて梯子を登っていた。何をするかと思いきや、馬閃が入っていった隙間の前に待機し、飛び出てきた何かを網で捕まえた。

「……」

あまりの手際の良さに、猫猫も呆然としてしまう。

「捕ったーー」

大きく網を掲げる雀。大変誇らしげで、自慢げで、少々 苛(いら) っとする顔だった。

目立ちたがりな彼女は、美味しいところを逃さなかった。