軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 麒麟

「いじめ……」

高順(ガオシュン) は信じられない顔をする。

それはそうだ。上級妃に対して侍女が、そのようなことするなどあってはならない。ありえないのだ。

「信じられないようですね」

むこうが知りたがらないようなら、 猫猫(マオマオ) も話そうとは思わない。

憶測でものをいうのは好きではない。

しかし、侍女がなぜ器に触れたのか説明するには、それを話す必要がある。

下手なごまかしを入れるより正直に意見を述べることにした。

「聞かせてもらえますか?」

「わかりました。これはあくまで私の憶測であることを前もって言っておきます」

「問題ありません」

まず、 里樹(リーシュ) 妃の特殊な立場から述べる。

幼いながら先帝の妃となり、そしてすぐに出家する羽目になる。

多くの女は、夫に妻は身を 以(も) って尽くすよう教育される。育ちがいいものほどそれが 顕著(けんちょ) だ。

たとえ政略とはいえ里樹妃が、亡くなった夫の息子のもとに嫁ぐなど不徳も 甚(はなは) だしいということである。

「里樹妃の園遊会の衣をみましたか?」

「……」

「空気、読めてませんでしたよね」

しかし、お付のものは皆、白に準ずる衣を着ていた。

「普通なら、侍女は妃にまともな衣装をすすめるなり、もしくは合わせて準ずる衣を着るなりするはずです。でもあれは、まるで里樹妃が道化にしか見えなかった」

侍女は主を立てるものである。それは、 紅娘(ホンニャン) が他の侍女に言い聞かせている言葉である。それは、園遊会の際、 桜花(インファ) のいった言葉でも如実にわかる。

そのように考えれば、里樹妃の衣装のことで侍女同士がもめていた件も違う見方が出てくる。

(ふがいない里樹妃の侍女たちを淑妃の侍女たちがいさめていた)

年若い里樹妃は、侍女におだてられて似合うからとあの衣装をつけたに違いない。

何の疑いもなく。

後宮内では、周りは皆が敵、信じられるのはまわりの侍女たちだけだというのに。

「それだけでなく、食事を入れ替えて里樹妃を困らせようとしたと」

高順が確かめるようにたずねる。

「ええ。結果として命拾いをしましたけど」

河豚(ふぐ) の毒は、しばらくたたねば効果はない。

つまり、入れ替えていなければ、毒見が無事だと思い口にしていただろう。時間は十分にある。

「いやなやり方です」

(憶測はそこまでにして)

器を再び手に取り、指をさす。

「これは多分、毒をまぜたものの指のあとでしょう。ふちを押さえて毒を混ぜいれたのかと」

食器のふちに触れてはいけない。それも、紅娘の教えである。やんごとなきかたの唇が触れる場所を指で汚してはならないからだ。

「私の見解は以上です」

高順は顎をさすって銀食器を見ていた。

「ひとつ聞いてよいですか」

「何でしょう?」

食器を包み、高順に渡す。

「なんで、あの侍女をかばおうとしたのですか?」

怪訝に見る猫猫に対し、高順は興味本位です、と付け加えた。

「妃に比べたら侍女の命など軽くたやすいものです」

ましてや、毒見役ならば。

高順は、いわんとしたことがわかったらしく軽く 頷(うなづ) く。

「 壬氏(ジンシ) さまにはうまく説明します」

「ありがとうございます」

高順が退出したのを見送ると、猫猫はどすんと椅子に腰かけた。

「そうだよね。お礼はしないとね」

(せっかく取り換えてくれたんだから)

やっぱり、飲み込んでおけばよかったなあ、と思いながら。

○●○

「以上で終了です」

高順の報告を聞き、壬氏は髪をかきあげた。

机には書類が重ねられ、判を待っている。

「いつ聞いてもおまえの物言いはうまいなあ」

「そうでしょうか」

精悍な従者はにべもなく言う。

「どう考えても内部犯だよな」

「状況からはそうなります」

頭が痛くなる。

思考を放棄したい。

なにせ、昨日から眠る暇もない。

着替えもできていない。

地団太(じだんだ) を踏みたくなる。

「 素(す) が出てきていますよ」

普段の笑顔はなく、年相応に不貞腐れていた。

それが高順にははっきりわかるらしい。

「誰もいないからよくないか?」

「私がいます」

「そこはおまけで」

「だめです」

軽口を聞いてみるが、生真面目なこの男には通用しない。

生まれたときから面倒をみられるのも厄介なものである。

「 簪(かんざし) 、さしたままです」

「ああ、いけね」

「隠れていたので、気づくものはいないかと」

深くささった簪を引き抜くと、匠の透かし細工が現れる。

鹿とも馬とも言い難い伝説の動物は 麒麟(きりん) といった。

「頼むわ、保管」

無造作にそれを投げつける。

「大切にしてください。大事なものなのですから」

「わかってるよ」

「わかってません」

お小言を言い終えると、十六年来の世話役は執務室をあとにした。

壬氏は、子どもの顔のまま、机に突っ伏した。

仕事はたくさん残っている。

はやく暇を作らねば。

「やるか」

大きく背伸びをして筆をとる。

暇人になるために、仕事を終わらせなければならなかった。