作品タイトル不明
877話 合流予定の湖
「ロティスと合流したら、まずは昼だな。乗っているだけなのにお腹が空いた」
ラットルアさんの言葉に、シファルさんが笑う。
「ラットルアは、休憩時に必ず菓子を食べているもんな」
えっ、そうだったかな?
ん~、確かに食べているような。
今回の移動は、ずっと木の魔物とサーペントさんに乗っているから休憩が無いんだよね。
木の魔物もサーペントさんも「休憩する?」と聞いても、「いらない」と答えるから。
この子達は、疲れないのかな?
「そうかな?」
シファルさんの言葉に、ラットルアさんが不思議そうに首を傾げる。
そんな彼の様子に、セイゼルクさんが呆れた表情になった。
「無かったら、機嫌が悪くなったりするだろうが」
えっ、そうなの?
私は見た事が無いな。
「あれは違うよ。残しておいた物を、誰かが勝手に食べるからだろう?」
「俺だな」
ラットルアさんの言葉に、ヌーガさんが手をあげる。
まったく悪いと思っていない様子に、ラットルアさんの眉間に皺が寄る。
「時々だけど、俺もだね。それより、そろそろ目的の場所近くじゃない?」
シファルさんの言葉に、ジナルさんが周りを見回す。
ラットルアさんは、納得のいかない表情だ。
「木々が邪魔で見えないな。木の魔物、この近くに周りが見渡せる場所はあるかな?」
「ぎゃ!」
木の魔物とサーペントさんが、左に少し方向を変える。
そしてしばらくすると、小高い丘に着いた。
「確かに此処なら周りが見渡せるな。ありがとう」
ジナルさんが、木の魔物の幹をポンと撫でた。
すると、サーペントさんがジナルさんに顔を近付ける。
「クククク?」
何かを訴えるように鳴くサーペントさん。
その様子にジナルさんは笑みを見せると「サーペントもありがとう」と、首元を撫でた。
「ククククッ」
満足そうに鳴くサーペントさんに、つい笑ってしまう。
「見えた。合流予定の湖だ」
ジナルさんの声に視線を向けると、小さく湖が見えた。
まだ少し遠いので、ここからだと30分ぐらいは掛かるだろう。
「場所の確認は出来たな。行こうか」
セイゼルクさんの言葉に、サーペントさんと木の魔物が動き出す。
湖に向かって10分ぐらい。
急に、ぞわっとした不快感を覚えた。
「止まれ」
ジナルさんの声が聞こえた。
彼を見ると、険しい表情で進行方向を見ている。
きっと、さっきの不快感をジナルさんも感じたのだろう。
でも、あれは何だろう?
近くに小さな動物やこちらの様子を窺っている魔物の気配は感じるけど、それとは全く違う。
もっとドロッとしたような気持ち悪い感覚がした。
「気持ち悪いな。皆も感じたか?」
ジナルさんの言葉に全員が頷く。
「そうか。ロティス達の事が気になるな。このまま湖まで、ゆっくり行こうか」
木の魔物がジナルさんの言葉を受けて、ゆっくり進む。
木々の間から湖が見え始める頃に、不快感は消えた。
「消えたな」
セイゼルクさんの言葉に、険しい表情を見せるジナルさん。
「あぁ。不気味だな。待て! 人の気配がこっちに来る」
ジナルさんの言葉に、緊張が走る。
周りを探ると、近付く気配を見つけた。
複数の気配が重なっているため分かりにくい。
でも、最低30人はいそうだ。
「30人ぐらいか。というか、どうしてこんなに近付くまで気付かなかった?」
シファルさんの言う通り、かなり近付くまで気付けなかった。
おかしい。
「暗殺スキル持ちかもしれないな」
セイゼルクさんの言葉に、ジナルさん達の表情が険しくなる。
でも変だよね?
30人近くが暗殺スキル持ち?
あのスキルは珍しいと聞いたけど、違うのかな?
「こっちには、気付いているだろうな」
「そうだろうな」
ラットルアさんの返答に、ジナルさんが溜息を吐く。
「暗殺スキルの種類に寄るけど、面倒くさいんだよな」
そうなんだ。
「アイビーとドルイド。あとヌーガは、ここで待機しておいてくれ」
「「「分かった」」」
お父さんと一緒に木の魔物から下りると、すぐにヌーガさんが傍に来た。
「奴等が動く前に、こちらから揺さぶりをかける。木の魔物と――」
「にゃうん」
シエルがジナルさんの声を遮ると、彼を見て鳴く。
「アイビーの護衛?」
ジナルさんの言葉に、首を横に振るシエル。
「それじゃ、俺達と一緒に行くのか?」
「にゃうん」
「分かった。アイビーには――」
「ぎゃ!」
「木の魔物が傍にいてくれ」
こういう時は、やっぱり私が足かせになってしまう。
戦えるようになりたいな。
「ぎゃ!」
満足気に葉っぱを揺らす木の魔物。
「ありがとう」の気持ちを込めて、ポンポンと幹を撫でた。
「俺とセイゼルクは、このまま正面から。シファルとラットルアは、左右から」
「「「了解」」」
ジナルさん達の雰囲気が鋭いものに変わる。
「行くぞ」
武器を手に、まっすぐ気配の下に走っていくジナルさんとセイゼルクさん。
右からは、シファルさんとシエル。
左からは、ラットルアさんとサーペントさんが向かった。
「大丈夫かな?」
「彼等は強いから、大丈夫だ。シエルとサーペントが凄くやる気みたいだしな」
お父さんの言葉に、頷く。
でも相手は、暗殺スキル持ちの可能性が高いんだよね?
「こっちにも来そうだな」
お父さんとヌーガさんが武器を手にする。
ドーン。
「あっ!」
ジナルさんが向かった方角から、爆発音がした。
その後、煙が上がった。
「ぶつかったな」
「うん」
あれ?
この気配はロティスさん?
それにフィロさんとガガトさんも。
「ロティス達が、奴等の近くにいるな」
ヌーガさんも彼女の気配に気付いたのか、神妙な表情をした。
「近くにいるな」
「あぁ」
お父さんの言葉にヌーガさんが頷く。
「アイビー!」
「うわっ」
バキッ
お父さんに腕を引かれ、抱きしめられる。
腕の中で顔を上げると、かなり険しい表情をしていた。
「がはっ」
んっ?
誰の声?
ドサッ。
音に視線を向けると、黒い服を着た男性が倒れていた。
周りには血が広がっていく。
「急に現れた。暗殺スキルだな」
「くそっ、面倒くさい」
ヌーガさんとお父さんは、周りを警戒しながらゆっくりと移動を始める。
「ぎゃ!」
ヒュッ。
木の魔物の鳴き声に視線を向けると、黒い服を着た2人の男性が大木に叩きつけられていた。
根っこを振り回しているので、武器はそれだろう。
「ぐわっ、何だ? 木の魔物?」
「くっそぉ。何故ここに? それに、どうして俺達を襲うんだ!」
胸を押さえながら立ち上がる男性2人。
木の魔物の登場に焦りを見せた。
バキバキバキ。
ヒュッ。
「「えっ?」」
木の魔物の根が、2人の男性に向かって地面から飛び出す。
「へぇ、そんな攻撃が出来るんだ」
木の魔物の攻撃に、お父さんが感心する。
ヌーガさんは驚いたのか、目を見開いていた。
ドサッ。
ドサッ。
根で胸を突かれた2人の男性が、地面に崩れ落ちる。
「あっ、話を聞かなくて良かったかな?」
「ぎゃ!」
ヌーガさんの言葉に、焦ったように鳴く木の魔物。
気持ちを表すように、根っこが右往左往している。
「大丈夫だろう。あっちに沢山いるみたいだし」
お父さんの言葉に、ヌーガさんが納得した表情をした。
「ぎゃぁ」
安心したように鳴く木の魔物に、お父さんがポンと幹を撫でた。
「それにしても、あっちは賑やかだな」
ははっ、そうだね。
さっきから聞いた事が無い男性と女性の叫び声が森に響いている。
ときどき聞こえる言葉は「サーペントが」とか「アダンダラがなぜ」とか。
「「「あっ」」」
こっちに走って来る黒い服を着た男性。
手には武器いや、えっと何?
「どうして……味方の首を持っているんだ?」
お父さんの言葉に私もヌーガさんも首を横に振る。
「あぁ、逃げて来たのか」
男性の後ろには、サーペントさん。
「うわ~、かっこいい」
サーペントさんは男性に追いつくと、足にかみつき振り回した。
男性から悲鳴が聞こえる。
「暗殺スキルに焦る必要は、全く無かったな」
「あははは。そうだな」
お父さんとヌーガさんが、のんびりジナルさんの気配がする方に向かう。
それにしても、皆暴れたね。
なぎ倒された木々に、砕かれた岩?
燃えた……色々な物。
人も燃えて……見なかった事にしよう。
「誰か生き残っているよな?」
「「……」」
お父さんの言葉に、ヌーガさんと木の魔物が視線を逸らす。
私も、そっとお父さんから視線を逸らした。