作品タイトル不明
874話 警戒していた
ジナルさんは、調べ終わった魔物と残っていた骨を燃やした。
森では、亡くなった者を魔物から守るために燃やして弔う事がある。
今回は、それもあるが魔物に残された物を完全に消すためでもあるのだろう。
骨は、仲間と一緒の方が寂しくないからだと言っていた。
魔物を包み込む炎は見ていると悲しい気持ちになるけど、ホッとした。
これで、あの魔物はもう誰にも傷つけられる事はない。
魔物を調べ終えたジナルさん達は、かなり険しい表情をしていた。
きっと良くない何かを見つけたのだろう。
「水場は……駄目だな。少し離れた場所まで移動して、今日はそこに泊ろう」
ジナルさんの言葉に首を傾げる。
ロティスさん達と早く合流しなくていいのだろうか?
「今日の夜はゆっくりして、明日の朝からロティスの下に行こうと思う」
あぁよく見たら、ジナルさんはかなり疲れた表情をしている。
セイゼルクさん達もだ。
そんなに、悪い何かを見つけてしまったのだろうか?
「どっちの方向に向かう?」
お父さんの言葉に、ジナルさんがサーペントさんを見る。
「テントを張れる、少し開けば場所を探して欲しい。任せて良いか?」
「ククククッ」
彼の言葉にゆっくり頷いたサーペントさんは、上半身を持ち上げると周りと見る。
そして、ある方向に向かって移動を始めた。
「見つけたみたいだな」
ジナルさんがホッとした表情をした。
どこか、いつもと違う様子に少し不安を覚える。
「アイビー、行こうか」
お父さんが私を見る。
「うん。皆、行こう」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
ソラ達が私の周りに集まり、跳びはねる。
「あれ? シエルは?」
シエルの鳴き声が聞こえなかったので探すと、ラットルアさんの傍にいた。
その彼の腕の中には、眠っている魔物の子供がいる。
鳴き疲れたのか、周りが動き出しても起きる様子がない。
「ぐっすり寝ているよ」
ラットルアさんがシエルに魔物の子供を見せる。
「にゃうん」
シエルは満足したのか、私の下に来た。
「どうしたの?」
「にゃうん」
ん~、何がしたかったのか分からない。
でも雰囲気から、問題は無いと思う。
「行こうか」
「にゃうん」
サーペントさんに先導されて1時間。
小さな川が流れる開けた場所に出た。
「いい場所だな。ありがとう」
ジナルさんの言葉に、サーペントさんが満足気に頷く。
そんな1人と1匹に笑みが浮かぶ。
「どうしたんだ?」
「ジナルさんとサーペントさん。いい関係が築けているなって思って」
私の言葉にお父さんがジナルさん達に視線を向ける。
そして確かにと頷いた。
「不思議なものだな」
「何が?」
「テイマーのスキルを持っていないのに、あんな関係が築けるなんてさ」
「そうだね」
テイマーだけが魔物と良い関係を築ける。
それが、この世界の常識。
でもジナルさんとサーペントさんを見ていると「違う」と分かる。
それに、今のテイマーと魔物の関係を考えると、良い関係を築けていた者はいるの? と聞きたくなる。
「スキルとは、いったい何なんだろうな?」
お父さんの言葉に、光の森の教会で聞いた言葉を思い出す。
「ずっとフリーターで、お金に困ってたんだ。この世界では、全員が仕事に就けるようになって欲しい!」と願っていた。
「皆が仕事に就けるように」
「えっ?」
お父さんが不思議そうに私を見る。
「光の森の教会で聞いたの。きっと私のような存在が願ったんだと思う。『全員が仕事に就けるようになって欲しい』って。スキルは、仕事に就きやすくなるための物で、それ以上では無いのかもしれない」
人生が決まる物ではなく、ただ仕事に就くのに役立つだけ。
「なるほど。俺達はスキルに重きを置き過ぎているのかもな」
テントを張り、夕飯を軽く済ませる。
なんとなく、今日は夕飯をゆっくり作る気分になれなかった。
夕食後、皆で火を囲うんでゆっくり過ごす。
魔物の子供は、起きるとすぐに鳴きだしたが暫くすると鳴くのを止めた。
近くに親がいないと気付いたのだろう。
少し周りを警戒した様子だったが、シエルが舐めると落ち着いてセイゼルクさんが用意した生肉を食べた。
それを見て全員がホッとした表情をしたので、皆で笑ってしまった。
「眠ったようだな」
ジナルさんが、セイゼルクさんの腕の中で眠る魔物の子供を見る。
「あぁ。俺達にはまだ警戒をしているが、シエルが落ち着かせてくれて食べる事も出来たし大丈夫だろう。ありがとう、シエル」
「にゃうん」
シエルがそっと魔物の子供を舐めると、「クル」と小さな鳴き声が聞こえた。
それに全員の顔に笑みが浮かぶ。
「こんな時に悪いが、ドルイド達に話しておきたい事がある」
ジナルさんがお父さんとラットルアさん、そして私に視線を向けた。
魔物を調べて分かった事かな。
「分かった。頼む」
お父さんの言葉に、ジナルさんの表情に影が差す。
「親の魔物には魔法陣が刻まれていた。それと魔法陣を刻んだ魔石も出てきた」
魔法陣。
「魔法陣を全て解読したわけではないが、知っている文字も複数あった。そこから考えて、気配を無くす魔法陣と洗脳の魔法陣だと考えている」
ジナルさんの言葉に、全員が難しい表情をした。
「フォロンダ様はずっと警戒していたんだ。不当なゴミで魔物は凶暴化する。そしてそうやって誕生した魔物は、だいたい気配が薄い。もしそれを人の手で作り出せる事になったら危険だと」
森の中で襲って来た魔物を思い出す。
気配が薄く、かなり近づかれるまで気付けなかった。
あれを人の手で作り出す?
「凶暴化はゴミに含まれている大量の魔力が原因だろう? 魔法陣で何をするんだ?」
お父さんの言葉に、ジナルさんが首を横に振る。
「それは、分からない。ただ、潰した研究所に残っていた資料から、気配を消す研究がされていた事は分かっている。成功はしていないが、ある程度は研究が進んでいた事も。でも、それ以上の成果が出たという報告書は見つからなかった。だから、まだ成功していないと思っていたんだ。でも、あの親の魔物は、気配が無かった」
そう、目の前にいるのに気配を全く感じなかった。
「もし成功体の研究資料が他の研究所に回っていたら、何処かに気配のない魔物がいるかもしれない」
お父さんとラットルアさんの顔色が悪くなる。
魔物と戦っている2人だから、その危険度合いがどれほどなのか正確に分かるんだろう。
「あと、ドルイドや俺が洗脳された事を覚えているか?」
ジナルさんの言葉に、ハタカ村を思い出す。
気付いたら洗脳されていた。
ソルがいてくれたお陰で洗脳から解けたけど、ソルがいなかったらおそらく死んでいた。
「あぁ、覚えている」
「あの洗脳は、人の体に刻まれた魔法陣で行われた。もし魔物に洗脳の魔法陣を刻んで村や町に放ったらどうなるか」
ジナルさんの言葉に、背筋が寒くなる。
「アイビーの状態から、ある程度まで成功していると考えていいだろう」
怖い。
ジナルさんが言うように、もっと影響力を与えられる魔法陣が完成していて。
その魔法陣を刻んだ魔物が村や町に放たれたら?
「最悪。数匹の魔物で町や村が滅ぶな」
ラットルアさんがため息を吐く。
「どこまでこの研究結果が広がっているのか。そこが問題だな」
お父さんの言葉にジナルさんが険しい表情で頷く。
暗殺者達が潰した研究所だけなら、問題ない。
でも、もし他の研究所に亡くなった魔物の結果が流れていたら?
「王都周辺の研究所を、なるべく早く調べる必要がある。ロティスの掴んだ情報も気になるが」
ジナルさんの言葉に首を傾げる。
警戒するのは王都周辺にある研究所だけだろうか?
「どうした?」
お父さんが私の様子に気付く。
「王都から離れた場所に研究所は無いの?」
私の言葉にジナルさんが視線を向ける。
「もちろん、ある。でもそちらは、フォロンダ様に仕える冒険者達がつぶしに回っている。奴等に任せておけば、1つ残らず見つけて潰してくれるから安心していい」
ジナルさん達とは別の冒険者が動いているのか。
それなら、安心なのかな。