作品タイトル不明
843話 捨て場の管理人
ふわっと優しい香りに意識が浮上する。
「あさ?」
欠伸をしながら周りを見て、目の前の光景に驚いて飛び起きる。
「うわっ……あっ、レースかぁ」
寝ぼけていたせいか、目の前がピンク色に染まっているように見えてしまった。
でもその正体は、ベッドを囲うピンクのレース。
それを思い出して、小さく笑ってしまう。
「ぷっ?」
足元で聞こえたソラの鳴き声に視線を向けると、ソラとフレムが不思議そうに私を見ていた。
それに、ちょっと恥ずかしさを感じる。
「いつもと違う光景で驚いちゃったの。起こしちゃった? ごめんね」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
ソラとフレムは欠伸をしながら伸びをするとその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。
ソルを見ると、薄目を開けて私を見ていたが、気付くとその目が閉じていた。
まだ眠たいようだ。
「あれ? シエルは?」
「にゃっ?」
レースの外から鳴き声が聞こえる
そういえば、ベッドの上にいなかった。
「シエル、おはよう」
レースを避けてベッドから降りると足元を見る。
そこには優雅に寝ているシエルがいた。
「今日はそのままの姿なんだね」
「にゃうん」
ふわっと欠伸をするシエルは、起き上がって背を伸ばす。
起きるのかと思ったら、窓から光が入る場所に移動してまた眠ってしまった。
「疲れているのかな?」
まぁ、ここ数日はゆっくり出来るはずだから、このまま眠らせておけばいいよね。
ベッドのわきで軽く体を動かす。
「あっ!」
左右に振った腕がレースに絡まる。
「このレース、お昼間は開けておけないかな?」
レースを纏められる物が無いか周りを見ると、柱に紐が結ばれていた。
手に取って見ると、レースと同じ色の紐だという事が分かった。
「もしかしてレースを纏める紐かな?」
色が同じだし、きっとそうだよね。
「うわっ……あぁ」
後ろでお父さんの小さな声が聞こえた。
その反応が少し前の自分と一緒だったので、つい声を上げて笑ってしまう。
「なんだ? あぁ、アイビーか。おはよう」
驚いた表情のお父さんが、レースを避けてベッドから下りる。
「お父さん、おはよう。あっ」
うわっ、レースとお父さん。
もの凄く似合わない。
「何が言いたいのか分かるが、仕方ないんだ。それより朝からどうしたんだ?」
私の表情を見て、諦めた様子に笑うお父さん。
「ふふっ、確かに仕方無いよね。あのね、起きた時の反応が私と一緒だったから面白くて」
私の言葉にお父さんが笑う。
「見慣れていなから、驚くよな」
「うん。自分が何処にいるのか一瞬分からなかった」
私の言葉に、お父さんが楽しそうに笑う。
そして私の手元を見ると、お父さんが紐を探すように周りを見た。
「柱に結ばれてるよ」
紐を見つけたお父さんは、レースを軽く纏めると紐を結んだ。
「紐があるなら、昨日の夜に結べばよかった」
お父さんの眉間に皺が寄る。
そんなにレースの中で寝るのが嫌だったのかな?
私は、ちょっと楽しかったけど。
「さてと、着替えて朝ご飯に行こうか」
時間を見ると、いつもの起きる時間より2時間も遅い事に気付く。
「お父さん、急がないと」
食堂で皆が待っているかもしれない。
「いや、大丈夫だろう。今日は皆もゆっくりだよ」
「そう?」
それでも急いで顔を洗って、服を着替える。
部屋を出る前に、ソラ達のご飯をマジックバッグから取り出す。
「ぺふっ」
ソルの鳴き声に視線を向けると、既にマジックアイテムを食べていた。
ベッドの上で眠っているとおもったのになぁ。
いつ、起きたんだろう?
「旅の疲れは大丈夫そうだな」
皆の食べている姿を見ながらお父さんが呟く。
「うん。食べる早さも量もいつもと変わらないから、大丈夫だと思う」
皆のご飯を取り出したマジックバッグに視線を向ける。
「今日は捨て場に行けるかな? そろそろ皆のご飯を確保したいんだけど」
マジックアイテムと剣の入ったマジックバッグがあと1個に、ポーションの入ったマジックバッグは最後の1個に手を付けた。
これだと約5日分のご飯しかない。
「あっ、皆のご飯か。今日は朝食の後で、ロティス達と合流する予定だったよな?」
「うん」
捨て場に行くのは、ロティスさん達と別れた後かな。
「その時に、ロティスに相談してみるよ」
「えっ、相談?」
今まで相談なんてした事ないのにどうして?
「あっ、そうか。アイビーは知らないんだったな」
お父さんの言葉に首を傾げる。
「このカシム町は王都の隣にある町だけあって、住民が多いんだ。そして多くの商人や旅人、冒険者達が通り過ぎる町でもある」
「うん」
王都の隣、カシム町、カシス町、カシメ町を通らないとどの村や町にも行けないもんね。
あっ、覚悟があるなら森を突っ切る事は出来るかな。
まぁかなり危ないため、誰も挑戦しないみたいだけど。
「そのせいで、捨て場にはいつもゴミが溢れている」
人が多く集まるとゴミが増えるから、仕方ない事なんだろうな。
「カシム町が抱えているテイマーは、王都に比べると少ないが、今までの村や町に比べる多い。だから、ゴミについてはある程度対応できているんだが、問題は捨てる側だ」
「捨てる側?」
「そう。ゴミが多く集まるから、捨てる場所が色々決まっているんだ。その方がテイマー達も仕事がしやすいからな」
あぁ素材によって捨てる場所を決めているのか。
「捨て場についての決まりもあり、それを全員が守れば問題ないんだが」
あぁ、捨てる側に問題があると言うのは、捨てる場所や決まりを守らない者がいるという事か。
「この町の住人は、自分の町の事だから決まりは守る。でも、通り過ぎるだけの旅人や冒険者にとっては面倒な事と思うらしい」
「分けて捨てるだけなのに?」
「あと捨てる時間帯も決まっているんだ」
「でもそれだけなんでしょう?」
「そう。たったそれだけの事を守れない、冒険者や旅人がいるんだよ」
通り過ぎるだけなら、関係ないという考えなんだろうな。
もしくは自分だけならいいかという軽い気持ちか。
「住人と鉢合わせして、注意された事に腹を立てて怪我させたり、殺してしまったり」
「えっ? そこまで?」
私の言葉に頷くお父さん。
「色々あって、捨てを監視する管理人が置かれる事になったんだ」
「そうなんだ。あっ。24時間。つまりこっそり取りに行けないんだ」
「正解。だからロティスに相談して、ゴミを融通してもらえるか聞こうと思う」
それならお願いするしかないよね。
というか、この問題は王都でも同じだ。
「まぁ、ゴミを下さいと言って反対される事は無いだろう。対応出来ていると言っても、ゴミは年々増えているみたいだから」
「そうなの?」
「あぁ、王都から溢れた人が住み着いて、住人が増えているそうだ」
「そうなんだ」
住人が増えたらゴミも増えるか。
「ここからはゴミを拾うのもちょっと工夫が必要なんだね」
「まぁ、カシム町だったらロティスに。王都だったらフォロンダ様にお願いしたらいいだろう」
フォロンダ領主にゴミを下さいって言うの?
まぁ、すぐに対応してくれるような気がするけど。
「そろそろ朝ご飯に行こうか」
あっ、話し込んでいたから時間が。
「うん、行こう」
昨日は中途半端に食べたから、お腹が空いたなぁ。