作品タイトル不明
832話 速いね
「すご~い! 木の魔物も速いね、お父さん!」
サーペントさんは、凄く速い。
だけど、木の魔物も負けていないみたいだ!
「アイビー、落ちないようにな」
「うん。大丈夫」
サーペントさんと違って、魔法で体が固定されていないため少し辛いけどね。
「お父さん」
「どうした?」
「木が、木の魔物を避けてるよね?」
さすがにサーペントと木の魔物が村道を駆けるのは駄目だろうと、村道から外れて森の中を移動している。
そこで心配だったのが、木々の存在。
●サーペントさんは体を器用にくねらせて移動するけど、木の魔物はどうするのかちょっとだけ心配だった。
私は、なぎ倒して移動したからね。
それが実際に乗って走っていると、木々が木の魔物を避けていた。
最初は見間違いかと思ったけど、何度も何度も同じ光景を見るので見間違いではないみたいだ。
「邪魔な木々があると、木の魔物から微かに魔力が外に流れているから魔法だと思う」
魔法で木々を避けているという事?
それは、凄いな。
あれ?
「木の魔物から、魔力が流れてる?」
「あぁ。森に流れる魔力とかなり似ているから、分かりづらいけどな。でも木の魔物と触れている部分で、感じられると思うぞ」
それなら、私も木の魔物に触れているから感じられるはずだよね?
抱き付いている手に、意識を集中する。
しばらく木の魔物の魔力を探ってみるが、残念ながら分からない。
木々が木の魔物を避けているから、魔力が放出されているはずなのに。
「悔しいな」
もう少し挑戦してみよう。
……駄目だ!
全く、分からない。
「ドルイド、アイビー」
サーペントさんに乗っているジナルさんが、少し木の魔物に近付く。
「疲れていないか?」
「大丈夫だ。アイビーは?」
「大丈夫。心配してくれて、ありがとう」
私の答えに、笑みを浮かべるジナルさん。
「良かった。あと少し先に行ったら休憩しようか」
移動を始めてから数時間。
そろそろお昼の時間になる。
「分かった」
お父さんが、チラッとジナルさんの後ろを見る。
そこには、意識を失っている刺客達の姿がある。
「問題は?」
「大丈夫だ」
刺客達の後ろに座っているセイゼルクさんの言葉に、お父さんが頷く。
それに首を傾げてしまう。
「お父さん、何が心配なの?」
刺客達は奴隷の輪の力でずっと眠っているから、問題が起きるとは思えない。
「捕まって数日たつと、自殺を図る者がいるんだ。有名な刺客や大物を狙った場合は、特に要注意なんだ」
「自殺?」
「あぁ、契約でそう命令されているんだ」
なるほど。
証拠隠滅の為か。
「ジナル。右側に開けている場所があるぞ」
シファルさんの声に右側を見ると、サーペントさん達も一緒に休憩できるような開けた場所が見えた。
「いいな。あそこにしよう。サーペント、頼む」
「ククククッ」
サーペントさんが、シファルさんが指した方向に曲がると速度を上げた。
それに釣られたように、木の魔物も移動する。
「うわっ」
急な方向の変化と速度が上がった事で、腕が木の魔物から離れてしまう。
が、すぐにお父さんが腕を掴んでくれた。
「お父さん、ありがとう」
落ちるかと思った。
「焦った~。はぁ、落ちなくて良かった。気を付けてくれ、アイビー」
ホッとしたお父さんの様子に、申し訳ない気持ちになる。
「うん、わかった。ごめんね」
心配を掛けてしまったな。
それに本当に怖かった。
気を引き締めよう。
「ぎゃっ?」
木の魔物が少し心配そうに鳴くので、ポンポンと幹を軽く叩く。
「大丈夫。落ちてないよ」
「ぎゃっ、ぎゃっ」
安心した様子で鳴く木の魔物は、もう少し速度を上げた。
「お昼にしようか」
開けた場所につくと、ジナルさんが全員に声を掛ける。
「凄いな、もう……ここは何処だ?」
ラットルアさんの言葉に、全員で笑ってしまう。
「おそらく、カシム町にかなり近い場所だと思う」
セイゼルクさんが地図を出すと、サーペントさんに見せている。
それに首を傾げるサーペントさん。
「無理か」
残念そうなセイゼルクさんに、ちょっと笑ってしまう。
「にゃうん」
地図を持っているセイゼルクさんの背を、シエルが軽く尻尾で叩く。
「んっ? 教えてくれるのか?」
「にゃうん」
地図を覗き込むセイゼルクさんとシエル。
その後ろからサーペントさん。
「面白い光景だな」
お父さんの言葉に、本当にと頷く。
「ここか!」
「クククッ」
あっ、分かったのかな?
セイゼルクさんの驚いた声と、サーペントさんの鳴き声が聞こえた。
「ジナル。そろそろ村道に戻った方がよさそうだ」
「えっ? そんなにカシム町に近いのか?」
「あぁ。サーペントが、あと3時間も走ればカシム町だぞ。その前に仲間と合流しないと駄目だろう?」
セイゼルクさんの言葉に、ジナルさんだけでなくお父さんも驚いている。
「本当に?」
ジナルさんが地図を確認すると、小さな驚きの声が聞こえた。
「まさか、この場所なのか?」
すぐには信じられないのか、ジナルさんがシエルを見た。
「にゃうん」
シエルの鳴き声に、頷くジナルさん。
「そうか、ここなのか。ありがとう」
そんなにカシム町に近いのかな?
あとでお父さんに場所を教えてもらおう。
「とりあえず、昼を食べようか」
「すぐにマジックバッグから出すね」
ジナルさんの言葉に、マジックバッグから色々な料理を取り出す。
カシム町に行ったら、作り置きの料理を新しくしたいからマジックバッグは空にしたいんだよね。
「これはまた、凄い……まとまりがないな」
「ごめんね。残った料理を出しているから」
残っている料理は、全て数が中途半端。
だから色々と種類を出したんだけど、確かにまとまりがない。
「まぁ、美味しければいいよ」
シファルさんが気に入ったお肉料理を取ると「いただきます」と言って食べ始めた。
それにつられて、皆が気に入った料理を食べ始める。
お父さんと並んで座ると、料理を食べながら地図を確認する、
「ここ?」
「そう」
思っていた以上にカシム町に近くで、驚いた。
あれ?
でも、もう少しかかるはずだったよね?
「近道をしていたみたいだ」
お父さんが、地図上である場所を指す。
そこには険しい崖の印があった。
「あっ、確かに崖を登ったね」
登ったのは、サーペントさんと木の魔物だったけど。
しかも、あっという間だったよね。
「そう。真っすぐカシム町に向かっているみたいだ」
なるほど、だからこんな短時間でカシム町の近くまでこれたんだ。
「これなら今日中に合流できそうだね」
「そうだな」
お父さんと野菜の炒め物を分け合っていると、ジナルさんから声が掛かった。
「どうした?」
「仲間と合流する時は、少し離れておいて欲しい。仲間は信用したいが、全ての者を知っているわけでは無いから」
「分かった」
仲間にも注意が必要なのか。
「安全だと分かったら合図を送るから。合図がなかったら、カシム町まで別行動をしよう」
「分かった。俺とアイビーだけか?」
「あぁ、『炎の剣』と一緒に行動している事は知られているからな」
そうか。
一緒にカシム町まで行けたらいいけどな。