作品タイトル不明
770話 教会の石
「ウル、違う世界の記憶を持っている事と無効化の魔法を解除する事は、どうつながるんだ?」
お父さんの質問にウルさんが私を見る。
「えっと……」
どうしたんだろう?
私を見ているという事は、私が悲しむ内容なのだろうか?
「なんでも、違う世界の記憶を持っている者はこの世界で生まれた者達に掛けられている制限魔法から外れるらしい。だから、無効化の魔法を解除する事が出来るそうだ」
んっ?
この世界で生まれた人には、制限魔法が掛かっているの?
で、私はその制限魔法に掛かっていない。
「私がこの世界で生まれていないから? えっ、私はこの世界で生まれましたよ」
「あ~、それが人として生まれる事では無くて、魂の話らしい」
「魂」
魂の生まれた場所か。
前世がある以上は、確かにこの世界では生まれていないんだろうな。
私の魂が生まれた場所は……死んだ人が地面から出て来る世界になるの?
それは……ちょっと衝撃かもしれない。
私は死んでから大人しかったのかな?
もしかしてあの前世の記憶みたいに地面から……そ、それはちょっと。
「アイビー、大丈夫か? えっと、魂の生まれが違っても気にする事は無いと思うぞ」
ウルさんの言葉に首を傾げる。
なんだかおかしな心配をされているような気がする。
「大丈夫です。気にしていないので」
地面から這い出てきたかどうかは気になるけど。
「誰が、この世界で生れた魂に制限魔法を掛けたんだ?」
「この世界に、無効化の魔法を掛けた者達らしい。魔法陣を二度とこの世界で使わせないためにだと聞いた」
ウルさんの言葉に、お父さんが困惑した表情をした。
「ジナル達のいる組織が出した答えだから信じたい。でも、さすがに想像を超える内容だから……少し混乱している。魂の生まれた場所と言われてもな」
それは、そうだろうな。
魂とか、この世界に掛かっている無効化の魔法とか。
しかも魔法陣がこの世界を破壊するもので、私が破壊するきっかけとなる魔法陣を使えるようにする?
あり得ない。
どうなにお願いされたって、たとえ殺すと言われたって嫌だ。
「あのウルさん。無効化の魔法を解除するという事ですが、教会の者達は私に何をさせるつもりなんですか?」
「光の森にある教会。ようやく場所が特定されたんだが、そこに無効化の魔法を掛ける時に使われた石があるらしい」
光の森。
お父さんが「この世界の始まりの場所とも言われているところ」だと言った場所だ。
そして、私が行こうとしていた場所だよね。
お父さんを見ると、頷いた。
「その石には力が籠められていて、その力を使ってアイビーに魔法陣を発動させるつもりみたいだ」
私に魔法陣を使わせる事が目的なんだ。
でも、それが無効化の魔法を解除する事になるのかな?
「石から力を使う事に意味があるのか? それとも魔法陣の方か?」
ウルさんの視線が私からお父さんに移る。
「魔法陣の方だ。見えないが空は無効化の魔法陣で覆われているらしい。その魔法陣に、石の力で魔法陣を発動させ傷を付けてきた。そして、あと少しで魔法陣を崩壊できるそうだ。あっ、石の力で魔法陣を発動させて、どうして空に掛かる魔法陣に傷が付くのかは聞かないでくれ。それに関しては、教えてもらえなかったから」
言えない理由があるという事なんだろうな。
「俺達の組織は、ずっとその石を壊すために探していたんだ。だが、なかなかその石のありかが分からなかった。教会の化け物が隠している事も考えて調査していたんだが、まさか光の森だとは思わなかったんだ」
「場所が分かったのに、壊しに行かないのか?」
お父さんの言葉に、ウルさんが首を横に振る。
「『光の森には不思議な力があって、選ばれた人が1度だけ入る事が出来て、夢を叶えてくれる』。ドルイドは聞いた事があるだろう?」
「あぁ」
あっそれも、お父さんから聞いた。
「その力という物は本当にあって、入れないんだ。だから俺達の組織も、あそこに石があるとは思わなかった。というか、入れなかったから調べようがなかったんだけどな。教会の連中が光の森に弾かれているのを見た事があったから、教会の化け物が入れるとは思わなかった」
調べる事も出来ず、壊す事も出来ない場所か。
「不思議な力は、魔法陣で入れる人間を制限しているから。選ばれた人は、違う世界の記憶を持っている者。そして夢を叶えてくれるのは、魔法陣を発動させるため」
なるほど。
「そして1度だけというのは、魔法陣を発動させた者は死ぬからだ」
「えっ?」
死ぬ?
「待て。発動させた者が死ぬなら、その情報は正しいのか?」
「正しいらしい」
なぜかお父さんの質問にウルさんが笑う。
それに首を傾げる。
「ウル?」
訝し気にウルさんを呼ぶお父さん。
「いや、悪い。さっきから、俺がジナルにした質問と同じ事をドルイドが聞いてくるから。ちょっと面白くなってきて」
ウルさんも「俺もここに来る前に、聞いたんだ」と言っていた。
ジナルさんから話を聞いて、疑問に思った事をジナルさんに聞いたんだろうな。
で、それがお父さんと同じ内容だったと。
「まぁ、疑問に思う事は一緒だよな」
「そうだな」
ウルさんの言葉にお父さんが頷く。
「悪い、話が逸れたな。えっと、情報が正しいかなんだけど、それには記憶が関係している」
記憶?
「魔法陣を発動させて死んだ者達の中に、その時の記憶を微かに覚えて生まれてくる者達がいるそうだ」
「その時の記憶」という事は、死んだ原因を覚えているという事になる。
実際に経験してきた事だから、情報が正しいと分かるのか。
「記憶か。それについては、あるだろうな」
お父さんが私を見る。
私が前世の記憶と持っているから、受け止めやすいよね。
「そうだね」
「あっ、そうか。アイビーは前の記憶があるんだったな。それなら、死んだ時の記憶を持って生まれる者がいても、おかしくは無いのか」
ウルさんにとっては、凄く不思議な話なんだろうな。
「そうだな。その点については、俺も違和感を覚えないよ」
「ドルイドはアイビーの記憶については知っていたのか?」
ウルさんの質問にお父さんが、当然とばかりに頷く。
「知らないわけがないだろう?」
「そうか。俺としては、今回ジナルから聞いた話は本当に不思議な話だったよ。教会の化け物が魔法陣を自由に使える世界にするつもりだという事は知っていたけど、他の事はほとんど極秘にされていたからな」
ジナルさんがいる組織は、周りを凄く警戒しているように感じる。
それだけ魔法陣が危険な物だという事だよね。
「あっ、重要な事を言い忘れていた」
重要な事?
ウルさんが、お父さんと私を見る。
「俺達の組織には、フォロンダ領主がいるから。ほぼあの方がトップだから」
「「えっ」」
フォロンダ領主が、ジナルさんがいる組織のトップなの?
「普通の貴族ではないと思ったが、まさかあの組織の……んっ?」
お父さんの言葉に頷く。
確かに普通の貴族とは違った。
そういえば、魔法陣の事に凄く詳しかったよね。
そうか。
フォロンダ領主が……あれっ、ほぼ?
「ほぼトップというのは?」
お父さんの質問にウルさんが肩を竦める。
「言葉の通り。フォロンダ領主の上には誰かがいる。ただ、その誰なのかは不明。ジナルも知らないそうだ。まぁ、それが本当なのかは俺には判断できないけどな」
あのフォロンダ領主を動かせる人?
そんな人がいるの?
正直、フォロンダ領主は底の知れない人だと思っている。
私にはとても優しくしてくれたけど、どこか掴みどころのない人。
腹黒さが伺えるけど、それも計算されているような。
「フォロンダ領主を動かせる人がいるなんて、凄いな」
お父さんの感心した様子に、ウルさんも頷いている。
やはり、そう思わせる人だよね。