軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

761話 過去の絵

「「おはようございます」」

「おはようございます」

えっ?

食堂に入ると、笑顔でテーブルに着いているクラさんがいた。

昨日、マルチャさんへ伝言をお願いしたので今日も会う約束をしていたけど、まさか既にいるとは思わなかった。

「クラ。早いな」

お父さんが、驚いた表情でクラさんを見る。

「うん。じいが『暇だから今日でも大丈夫』って」

「そうか。ありがとう」

お父さんのお礼に、嬉しそうな表情を見せるクラさん。

それを見たシャンシャさんが、とても嬉しそうな表情で笑っていた。

「クラ。朝ごはんまだでしょう? 一緒に食べるの?」

シャンシャさんが、パンが入ったカゴをクラさんの前に置きながら聞く。

「うん。いい?」

クラさんが返事をしながらお父さんを見る。

それに笑顔で頷いたお父さんは、クラさんの向かい側に座った。

私もお父さんの隣に座る。

「すぐに持って来るから、待っててね」

シャンシャさんが持って来てくれた朝食は、野菜がいっぱい入ったスープにじゃぼと六の実の炒め物。

どちらも優しい味付けで、おいしい。

「おはよう」

バンガルさんの声に視線を向けると、顔色が悪く苦痛の表情をしたバンガルさんがいた。

「大丈――」

「また飲み過ぎたの?」

心配になって声を掛けたが、途中でシャンシャさんの声に遮られてしまう。

というか、飲み過ぎ?

バンガルさんを見ると、シャンシャさんから視線を逸らしている。

どうやら正解のようだ。

「はぁ、あれほど飲み過ぎないように注意したのに」

シャンシャさんの言葉に、バンガルさんが頭を掻く。

「つい?」

バンガルさんの言葉に、シャンシャさんが笑顔になる。

ただし、その笑顔はどこか怖い。

「ごめんなさい」

バンガルさんが謝ると、シャンシャさんが「仕方ないわね。待ってて」と言いながら食堂の奥へ入って行く。

少しすると、食堂に独特の香りが漂ってきた。

「これ、二日酔いに効く薬草の香りだ」

「そうだな」

お父さんに何度か作った事があるので分かった。

初めて作った時は濃く作り過ぎて、お父さんは顔を引きつらせていたよね。

「二日酔いに効くから、これを飲んで。今日はゆっくりするように」

食堂に戻って来たシャンシャさんの手には、少し大きめのコップ。

きっと薬草茶だろう。

「はい。ありがとう」

バンガルさんの方が年上なんだけど、シャンシャさんの方がしっかりしているよね。

朝食を食べ終わって少し休憩してから、ソラ達を連れて宿を出る。

雪がちらちら降っている空は、どこかどんよりしている。

クラさんに案内してもらいながらマルチャさん宅へ向かう途中、自警団員とすれ違った。

彼等の表情を見て、首を傾げる。

どこか張り詰めた表情をしているような気がする。

「何かあったのかな?」

お父さんを見ると、自警団員の方をチラッと見たお父さんが頷いた。

「たぶん、そうだろう」

お父さんの態度に、少し違和感を覚える。

何処がと聞かれると難しいが、なんだろう。

あっ、いつもなら情報を集めようと周りに気を配るのに、今はそれがない。

関わらないように、引いた感じかな?

「お父さん、どうしたの?」

「んっ?」

お父さんが少し戸惑った様子で私を見る。

でもすぐに、なんでもない表情で私の頭を撫でた。

「大丈夫だよ」

やっぱり、違う。

いつもなら隠してしまう感情が表に出ている。

どうしたんだろう?

「ここ」

クラさんの言葉に、視線を向ける。

マルチャさんの家は、平屋のこじんまりした一軒家みたいだ。

「いらっしゃい」

クラさんが扉を叩くと、すぐにマルチャさんが迎えてくれた。

「寒かっただろう? 今晩辺りから、雪が本格的に降って来るみたいだからね」

そういえば、今日の夜から雪の降る量が増えるとシャンシャさんも言っていたな。

雪か。

雪が積もった道は、苦手なんだよね。

「ソラ達を連れて来たんですが、出してもいいでしょうか?」

部屋に入ってからマルチャさんに聞くと、彼は嬉しそうな表情になった。

「もちろんいいよ。ポポとミミも喜ぶからね」

バッグからソラ達を出すと、すぐにポポとミミの下へ飛び跳ねて行った。

少し様子を見てみるけど、楽しそうに遊びだしたので大丈夫だろう。

「どうぞ」

マルチャさんが、お茶をテーブルに置く。

「ありがとうございます。今日は、急にすみません」

お父さんがマルチャさんに頭を下げる。

それに彼は首を横に振る。

「いや。岩の絵を見たら、話を聞きに来るだろうと予想はしていたからね」

マルチャさんの言葉に首を傾げる。

「そうなんですか?」

お父さんが不思議そうにマルチャさんを見る。

「あぁ。私の勘は当たるんだよ」

マルチャさんが小さく笑う。

「では、あの絵が何を意味しているのか、話して貰えるんですか?」

お父さんの言葉に、マルチャさんが頷く。

「もちろん。あぁただ、あの絵については 伝聞(でんぶん) が混ざっているからね。そこは理解してね」

伝聞。

人から人へ言い伝わって来たという事か。

それだと話が少し変わっている可能性があるよね。

「あの岩に描かれた絵は、この村が出来るずっと昔からあそこにあったらしい」

この村が出来る前?

えっと、それだと誰があの絵を描いたの?

「誰が描いたのか、それは分からない。ただ、最初に見つけた者の話だと、あの岩の絵は光っていたらしい」

光っていた?

岩の絵が?

「それが本当なのかは分からない。ただ、そう伝わっているから。これについてはちょっと疑問があるけどね」

マルチャさんは、ありえないと思っているのかな?

「あの絵の意味だけど、『魔法陣から魔物達を守れ』という意味なんだよね。これについては、間違いないから」

魔法陣から魔物達を守れ?

木の魔物以外の魔物も?

「その意味はどうやって分かったんですか? 絵を描いた者は誰なのか分からないんですよね?」

お父さんの言葉に頷くと、マルチャさんはお茶を一口飲む。

「40年ぐらい前までは文字が残っていたから」

マルチャさんが、テーブルの上に1枚の紙を置く。

そこには、岩の絵が書き写されていた。

ただし、魔法陣の部分は何ヵ所か黒く塗りつぶされて発動しないようにされていた。

そして、その魔法陣の下に『魔法陣から魔物達を守れ』という文字があった。

お父さんが紙を手に取って見ると、眉間に皺を寄せた。

「この絵は、岩の絵をそのまま書き写したものですか?」

お父さんが、どうしてその質問をしたのか分からず首を傾げる。

「そう。その絵は、文字が消えかかっているのが分かった私の師匠が書いた物だよ。60年ぐらい前かな」

「この絵は、おかしいですよね?」

言葉の意味が分からず、お父さんが持っている絵を見る。

何処にもおかしな部分は無いけどな。

「そう。文字だよね」

文字?

紙に書かれていた文字を見る。

ん~、別に問題ないよね。

「文字が、今の文字なんだよね」

マルチャさんの言葉に、余計に混乱する。

「昔の文字はもっと複雑で、今の文字は簡素化したものなんだ」

私の様子に気付いたお父さんが、文字について教えてくれる。

そうなんだ。

「今使われている文字に統一されたのは、まだ100年ぐらい前。つまり、この絵が描かれた時は、まだこの文字は使われていないんだよね」

「えっ?」

どういう事?

えっと……この絵を描いた人はその当時の文字ではなく、今使っている文字を使って書いた。

……どうして、この文字を使うと知っていたの?

未来を見た?

「未来視スキル?」

お父さんの言葉に、マルチャさんが驚いた表情を見せた。

「まさかそのスキルがすぐに出てくるとはね。もしかして、そのスキルを持つ誰かを知っているのかい?」

マルチャさんの言葉に、お父さんが少し警戒したのが分かった。

「話せる事はない。ただそういうスキルがあるという事を知っているだけです」

お父さんの言葉に、マルチャさんがハッとした表情をした。

「ごめんね。この村を作った者達の中に、未来視スキルを持っている者がいたのでちょっと興味が出てしまったんだ。このスキルについては、聞くべきではないよね」

申し訳なさそうに謝るマルチャさんにお父さんが首を横に振る。

未来視のスキルを持った人がこの村を作ったんだ。

「この村を作ったのは、教会や貴族から逃げてきた者達なんだよね。彼等は、さまざまなスキルを持っていたそうだよ」

貴族は分からないけど、教会はそのさまざまなスキルを狙っていたんだろうな。