軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

78話 役割

白い物を口の中に入れると、広がる甘味。

「美味しい。……すごく美味しい」

優しい甘さに、自然と笑顔になる。

ボロルダさんは、私の様子を見て頭をぐりぐりっと撫でてくる。

そう言えば、これを買って来てくれたのはボロルダさんだった。

「ボロルダさん、美味しいです。ありがとうございます」

「ハハハ、本当にアイビーはいい子だな。それはミルパと言ってミルクを使用したお菓子なんだ」

ミルクのお菓子なのか、これ。

もう一口、ミルパを食べる。

やっぱりふんわりした甘さに、ついつい笑顔が浮かんでしまう。

前の私は、お菓子と言う物を食べたことがあるのかな?

お菓子と聞いて、すごく懐かしさを感じたけど。

それにしても、美味しい。

これからの事を思うと気が重いけど、ちょっとした幸せだ。

食器など汚れた物を、ヌーガさんとロークリークさんが片付けてくれたので、その横でお茶を用意する。

全員が、もう一度席に戻り、ゆっくりとお茶を飲む。

「そろそろ話を始めないか?」

マールリークさんの言葉に少し緊張する。

ギルドに報告に行ったボロルダさんが「そうだな」と言って後から参加した4人に視線を向ける。

「お前たちはどうする? 無理ならそれは仕方がないと考えている」

主語が無いためちょっと迷うけど、おそらく組織と戦うか、もしくは話を信じるかって事かな?

彼らがどのように判断したのか、少し緊張する。

「信じたくないと言う気持ち……声は大丈夫か?」

「マジックアイテムを使用しているから、周りには聞こえていない」

「なら大丈夫だな。気持ち的には信じたくないが、仲間が見たモノや経験からの判断は信じる。事実から逃げるような事はしない。一緒に戦うよ」

ロークリークさんの言葉に、他の3人が頷く。

この短時間で覚悟を決めた彼らをすごいと感じた。

私だったら、きっとかなり悩むと思う。

この判断力が上位冒険者なのだろうか?

すごいな。

「で、ギルマスは何て言っていた?」

ヌーガさんの言葉に、ボロルダさんへ視線が集まる。

「何か思う事があったのかもな。緑の風について話しても驚くことは無かった。それとアイビーについて話した。囮の件も含めてな。『危険だが、よろしく頼む』って言っていた。今ギルマスと会うのは、こちらの動きがばれるから出来ないが、すべてが終わったら挨拶したいって」

「アイビー、本当にいいのか?」

ヌーガさんの顔が、少し怖くなっている。

少し一緒にいたから分かる、これは心配してくれている顔だ。

「はい。大丈夫です」

私は力が無いため、基本逃げる事を前提に旅をしている。

狙われたら逃げる、それも必要だけど話を聞く限り逃げ切れる自信が無い。

ならば、飛び込んでいくだけ。

今回は、信じられる人が8人も目の前にいる。

だから、大丈夫。

「それで囮って、アイビーに何をさせるんだ?」

「狙われているのが分かっていて、1人で行動させるのは不自然だよな」

ラットルアさんの疑問に、セイゼルクさんが答える。

確かに此処にいる8人の性格を知っているミーラさん達は、私が1人で行動すれば疑問に思うだろう。

「確かにな。あいつらは俺達の性格を知っている。間違いなく何か感じるだろうな」

ボロルダさんも思う事は一緒の様だ。

「とりあえず、俺達は緑の風の奴らの行動をチェックするか。商人が来ている以上、何か行動を起こす可能性もある。……もしかしたら他の裏切り者と接触する可能性もある。ギルマスも、もう一度冒険者全員を調べ直すと言っていた」

ギルマスさんは、まだ冒険者の中に裏切り者がいると考えているのかもしれない。

緑の風の事を思えば、冒険者も警戒する必要がある。

「あの私が動けば、組織の見張り役とか動きませんか? 1人になる時を狙うにしても、見張っていないと分からないと思うのですが?」

「アイビーって本当に9歳? 時々それよりすごく年上に感じる事があるよ」

マールリークさんの言葉にどきりと心臓が跳ねる。

間違いなく、前の私の影響だよね。

でも、今の発言の何処がそう感じたのだろう。

特に、9歳が言ってもおかしくないような気がするけど。

……分からない。

「だったら俺も一緒にいるよ」

ラットルアさんが、私の頭に手を乗せて笑いかける。

囮なら1人の方が良いだろうが、確かに一緒にいた方が違和感が生まれないだろうな。

「そうだな、お前がアイビーを1人にするわけないだろうしな」

セイゼルクさんの言葉に、皆が頷く。

やはりラットルアさんは、かなり心配性で面倒見が良いのだろう。

話し合いの結果、数日私とラットルアさんは一緒に行動する事になった。

その間に私の見張り役を、探るそうだ。

後は緑の風の、特にトルトさんとマルマさんの行動を調べる事になった。

彼らは時々、姿が見えなくなることがあるらしい。

今までの説明では、森の中での強化特訓や2人だけで依頼をこなしているという事だったらしい。

それも、裏切り者だと考えると怪しい行動に見える。

「アイビー、ラットルアは上位冒険者で強い。だが1人でできる事には限界がある。もちろん影から俺達が援護するが」

「はい」

「もしも組織に捕まった時は命を守るために、奴らを刺激しない事。必ず助けに行くから」

「はい」

もしも捕まってしまったらと、何度も考えた。

助けてくれると信じている。

だが、組織がどれだけ巨大なのか分からない以上、絶対などありはしない。

……きっと、助けたくても助けられない事だってあるだろう。

それでも、信じる。

「お願いします」

「俺もよろしくね!」

ラットルアさんがギューッと抱きしめて……いきなり離した。

「ごめん。9歳だったな。……まだ7歳って印象が抜けなくて」

「……いえ、大丈夫です」

なるほど、7歳だと思っていたからか。

……幼い見た目に助けられたとはいえ、やはり成長が遅いのだと思い知らされるな。

悲しい。

「いない」

何処か悲壮感を漂わせた声に、視線を向けると

私のテントから出て来るリックベルトさんの姿が目に入る。

よかった、ソラを避難させておいて。

「リック。無断で人のテントに入るな!」

「まったく。リックベルトのその病気は何とかならないのか?」

「無理でしょうね。ギルマスに注意されても治りませんでしたから」

「皆ひどくないか? それにギルマスに注意ってあれは特訓と言う名の地獄だろ」

前にも何かあったらしい。

ギルマスさんの注意と言う言葉で、リックベルトさんの顔が青くなる。

それにしても、病気なのか。

そっか。

「アイビー、リックベルトのあれは病気ではないからな」

「えっ?だって、病気って」

シファルさんが肩をすくめる。

「病的……ん~異常なほど好きすぎるってことかな」

難しい。

なんとなく分かったような、分からないような。

とりあえず、リックベルトさんのあの可愛いモノ好きは度が過ぎているという事だろう。

「アイビー、ちょっとスライムを見せてもらえる?」

シファルさんの顔に興味津々という表情が浮かんでいる。

セイゼルクさんはギルマスさんには話さないが、仲間には話したいと言ってきたので許可したのだ。

どんな説明をしたのかは聞いていない。

「いいですけど」

リックベルトさんへ視線を向ける。

テントから出て来てから、ずっと私を見ている。

まったく視線がずれない。

……正直、怖い。

「あぁ、ちょっと待ってて」

シファルさんがリックベルトさんの首に腕を回すと、少し離れた場所に移動する。

小さな声のため、何を言っているのかは聞こえない。

なんだろう?

ボロルダさんがちらりと視線を向けたが、なぜかすごい勢いで元に戻した。

あれ?

ボロルダさんの顔色が、少し悪いような気がする。

「ボロルダさん、大丈夫ですか? 顔色が……」

「ハハハ、大丈夫だ。ちょっとね」

顔が何処となく引きつっているけど、本当に大丈夫なのかな?

「お待たせ」

シファルさんの声に視線を向けると、柔らかく笑うシファルさんと顔色が悪いリックベルトさんがいる。

……触れない方が良い事もある、絶対。

テントに戻り、シファルさんにソラを見せる。

「確かに、これはリックベルトのど真ん中だわ」

ソラはシファルさんの周りをピョンピョンと飛び跳ねている。

どうやらソラは、シファルさんが好きなようだ。

……リックベルトさん対策とか考えた方が良いよね、これ。