作品タイトル不明
723話 豪快な家族?
「アイビー」
あれ?
お父さんの声が聞こえる……んっ?
もしかして寝過ぎた!?
「うわっ」
「あっ」
目の前には、体を後ろに引いたお父さんの姿。
いきなり起き上がったから、ぶつかりかけたみたい。
「お父さん、ごめん。大丈夫?」
ぶつからなくて、良かった。
「大丈夫だ。おはよう。2人して、良く寝ていたな」
「おはよう。ふふっ、寝過ぎたね」
完全に寝過ごしたね。
窓から外を見ると、星が見える。
「どうする? とりあえず、食堂に行ってみるか?」
夕飯の時間は17時から21時で、今は21時を過ぎてしまっている。
だから、食堂が閉まっている可能性がある。
「行こうか。夕飯のお願いしていたのに行かなかったから、謝らないと駄目だし」
既に閉まっていたら、明日だね。
「そうだな」
ソラ達のポーションを用意して、部屋の鍵をしっかり締めてから1階の食堂に向かう。
「灯りが点いているな」
お父さんの言う通り食堂にはまだ灯りが点いているし、誰かの気配もする。
一瞬、バトアさんかもしれないと思ったが、気配が違う。
「すみません」
お父さんと食堂に入ると、何か作業をしている女性がいた。
「あら、起きたの?」
手を止めてこちらを見た女性は、お父さんと私を見て笑みを見せた。
「すみません。寝過ぎてしまって」
「いえいえ、大丈夫ですよ。夕飯はどうしますか?」
なんだか、凄く明るい女性だな。
明るいオレンジの髪と笑顔が凄く似合っている。
「時間外ですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。宿に到着した日は、疲れから寝てしまう人も多いんです。だから、それも考えた夕飯を準備しているんです」
そうなんだ。
「ありがとうございます。頂きます」
「座って待っていて。あっ、私はこの宿の店主バトアの妻でシャンシャよ。冬の間は泊まるんですよね?」
「はい。その予定です。俺はドルイドで、娘のアイビーです」
「よろしくお願いします」
「あらら、可愛らしい。よろしくね、アイビーちゃん」
またちゃん呼びだ。
「バトア、バトア。ご飯2人分、持って来て~」
シャンシャさんが奥に向かって叫ぶと、奥から声が聞こえた。
「来たか? すぐに温めるから待っていてくれ」
「すまない。ありがとう」
バトアさんは、私達を見るとすぐに奥に戻っていく。
それに首を傾げながら、傍にある椅子に座る。
「顔色は問題ないみたいだけど、体調は大丈夫か?」
バトアさんが夕飯をテーブルに置きながら、お父さんと私に聞く。
「大丈夫だ。アイビーは?」
「私も大丈夫です」
「それなら良かった。一応、疲れが出ると消化不良を起こしたりするから、今日は消化のいい物を用意した」
この宿は、至れり尽くせりだ。
「そうなのか、うまそうだ。ありがとう」
「ありがとうございます」
テーブルの上には……んっ?
グラタン?
えっ、グラタン?
「これはじゃぼをすりつぶして、細かい肉と層にして最後は焦げ目をつけているんだ」
じゃぼは、冬の根野菜だ。
ほくほくした食感が凄く好きなんだよね。
「美味しそうです。いただきます」
「いただきます」
スプーンで、じゃぼをすくうと中から細かく切った肉が出て来た。
あっ、結構な肉の量だ。
これならお父さんも満足するね。
というか、凄い湯気。
これはもの凄く熱いのでは?
ちょっと冷ましてから……美味しい。
「美味しいです」
「凄く熱いけど、確かにうまいな」
お父さんの言葉に、何度も頷く。
じゃぼのほくほく感に、お肉はジュワ~。
器がちょっと大きくて、いっぱい入っていたから食べきれるか心配だったけど、これは絶対に完食できる!
「この村のじゃぼは、ここ数年でかなり人気が出たんだ。最近では、春になったら冬に収穫したじゃぼを王都から買い付けに来るぐらいだ」
買い付けに来ると言う事は、じゃぼはこの村の名産になるのかな?
バトアさんの説明に、頷きながら手を止めずに食べ続ける。
「ははっ。気に入ってくれてよかったよ」
お父さんと私の様子に、バトアさんが豪快に笑う。
シャンシャさんも嬉しそうに笑っている。
バトアさんは、正直見た目が結構怖め。
背が高いだけではなくて、目が細いので黙っていると少し怒っているように見える。
でも、話すと優しさがにじみ出ている感じ。
しかも豪快な笑い方を見ていると、こっちも笑みが浮かんでしまう。
「ここ、いいね」
お父さんにそっと言うと、お父さんも頷いた。
「そうだな」
「お替わりもあるぞ」
「えっ! いや、これで十分だよ」
お父さんの言葉に、バトアさんが首を傾げる。
「もっと食べないと、体力は回復しないぞ」
バトアさんの言葉にお父さんが苦笑する。
だって、お父さんの器は私の物の2倍だからね。
「バトアの基準で考えないの。普通は、それで十分よ」
「あっ。そうだったな、つい」
「もう、また『つい』なんだから」
バトアさんとシャンシャさんのやり取りに、ちょっと笑ってしまう。
そして部屋がやたら広かった原因と、ベッドが凄く大きかった原因が分かったような気がした。
「そうだ、部屋は大丈夫だったかしら? あの部屋、広いせいか温まりにくくて。魔石が切れたらすぐに言ってね。すぐに新しい物に換えるから」
十分に暖かかったけど。
でも、これから寒さが本格的になってくると、温まりにくいのかな?
「今日は、十分暖かかったですよ。そうだ、魔石ですが俺達が持っている物を使ってもいいかな?」
お父さんの言葉に、バトアさんもシャンシャさんも驚いた表情をした。
「それは、俺達としてはありがたいけどいいのか?」
魔石は高いからね。
「あぁ、問題ない」
「そうか。あっ、夕飯にモウの肉を多めに出すよ。魔石のお礼だ」
「それは、かなり嬉しいよ。ありがとう」
あっ、お父さんが凄い勢いで食いついた。
この食堂で夕飯を食べる回数が増えそうだな。
「「ごちそうさまでした」」
どうして、私の倍はあったのに食べ終わるのが同じなんだろう。
いつも思うけど、お父さんは早食いだよね。
「甘味もあるわよ。食べる?」
「えっ?」
答える前に、テーブルに置かれる丸い形をした甘味。
それを見て、首を傾げる。
今日、収穫した果実に似た色をしている。
「それは、森で育てている果実の果肉で作った甘味なの。薬として必要な所は種だけだから、果肉は甘味に使っているのよ」
そうなんだ。
美味しい果実なら、捨てるのは勿体ないもんね。
スプーンで、ぷるんとした甘味をすくって口に入れる。
ちょっと冷たくて、酸味と甘みが口に広がる。
「美味しいです」
シャンシャさんを見ると、嬉しそうに笑っている。
「あぁ、可愛い。私の娘にもこんな時期があったのよね~」
シャンシャさんとバトアさんの間には娘さんがいるんだ。
話し方から、娘さんはもう大きいのかな?
「今の姿からは、想像もできないな」
バトアさんに似て、背が高いのかな?
でもシャンシャさんに似たら、普通ぐらいだよね?
「そうねぇ。娘のバンシャは上位冒険者なの。なんて言うか……豪快な戦い方でね」
娘さんが上位冒険者なんだ。
しかも豪快な戦い方?
お父さんを見ると、首を傾げている。
「豪快とは?」
「えぇ、魔物を素手で殴るのよ。接近戦になるから剣を薦めてみたんだけど、合わないって」
合わないならしょうがないよね。
でも、素手?
「でもあれは違うわよ。だってあの時、言い換えたけど『楽しくて』って聞こえたもの!」
えっと、つまり……素手で魔物を殴るのが楽しくて?
「バトアの怪力をバンシャもしっかり受け継いでいるから、大丈夫だとは思うのよ? でも母親としては、もっと安全な戦い方があるような気がして」
うん、絶対にあると思う。
「でも、楽しそうに話す姿を見ていると、止めるのも違うかなって」
そうかな?
止めてもいいと思うんだけど。
「まぁ、本人が楽しいならそれが一番だ」
「そうね」
バトアさんの言葉にシャンシャさんが頷く。
2人が納得しているなら、それでいいのかな。