軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

683話 まずい!

お父さんから渡された固形食を見る。

色がどす黒い緑色で、どう見ても食べ物には見えない。

お父さんから渡されない限り、絶対に口にしないだろうな。

「覚悟して食べた方が良いぞ」

お父さんの言葉に、苦笑してしまう。

見た目から味には期待していなかったけど、覚悟が必要なほどなのか。

洞窟内で料理をする事は、普通は無い。

その理由は、洞窟内では何が起こるのか予想できないため。

魔物除けを使用しても、薬草に耐性を持つ魔物が襲ってきたり、時には土の中から魔物が襲って来たりするらしい。

なので、洞窟内ではいつでも逃げられるようにしておく事が大切だと教わった。

「洞窟内でも料理をしていたけど、普通は干し肉と固形食、それと水が基本なんだ。今日は初心者用の洞窟だから2日分を用意したけど、洞窟内で迷子になった場合を考えて滞在予定の倍を用意しておくといいぞ」

洞窟内で迷子か。

考えただけで怖いよね。

「洞窟は、急に新しい道が出来たり、利用していた道が消えたりする。だから、どんなに慣れたと思った洞窟でも油断はするんじゃないぞ。油断すると死ぬ可能性が高くなる。10年間変わらなかった洞窟が、たった1日で様変わりしてその時に洞窟内にいた冒険者が全滅したという話も聞く。たとえ、小さな洞窟でも絶対に甘く見ないようにな」

「うん」

迷子にならないように注意しても、洞窟自体が変わってしまったら注意しようがないよね。

洞窟って、勉強すればするほど恐ろしい場所に感じるな。

まぁ、色々な恩恵を与えてくれる場所でもあるんだけど。

「食べないのか?」

お父さんの言葉に、手の中の固形食を見る。

「食べるよ」

食べ物は、食べ物なんだから大丈夫。

固形食を口に入れて、噛む。

ん?

硬いな。

あっ、口内の水分を全部取られそう。

んっ?

なにこれ、……凄くまずい!

「はい」

お父さんに渡された水を、一気に飲んで口の中の物をお腹に収める。

「はぁ、飲み込めたけど」

お父さんの言う覚悟の意味が分かった。

それにしても、野菜のえぐみなのかな?

凄い味を感じた。

「どうだった?」

「想像以上の味だった」

お父さんが楽しそうに笑うと、傍で様子を見ていたリーリアさんも笑い出した。

「アイビー、凄い表情になっているわよ」

それは、仕方ないよ。

口の中にまだ、固形食の味が残っているんだもん。

「1人、5個な」

これを、5個?

「どうして5個なの? 1個で十分だけど」

お父さんが笑って、残りの4個を渡してきた。

まぁ、受け取るけどさ。

「栄養面から1回5個と言われているんだ。あっ、1日量は15個な。それと干し肉が1回150g。これで冒険者に必要な物が補えるそうだ。体格のいい男性の場合は、もう少し必要だけどな」

1回5個で1日15個。

手の中の4個の固形食を見る。

これは間違いなく、1個目より2個目からの方が覚悟と勇気が必要な食べ物だよね。

「頑張って食べような。今日の夕飯だから」

分かっているけど、頷きたくない。

でも、今日は洞窟の勉強をしているんだから。

これも……勉強。

お父さんを見ると、固形食を食べてすぐに水を飲んでいる。

冒険者経験の長いお父さんでも、水で流し込むのか。

まぁ、この味ではそうなるよね。

……食べないと。

「う~」

唸っていてもどうしようもない。

これは、ご飯、ご飯。

いや、1日ぐらい食べなくても……駄目、駄目。

よしっ。

躊躇するとどんどん食べられなくなるから、一気に食べよう。

まずは1個。

うわ~、水。

2個……うげっ、水。

3個、水、水。

4個……噛めない。

水!

「食べた!」

「凄い食べ方ね」

リーリアさんが私の食べ方を見て、苦笑している。

「リーリアさんは普通に食べられるんですね。凄いです」

「ん~、慣れね」

慣れ?

「私達、この固形食をよく食べてきたから」

そうなんだ。

この味に慣れているのか。

「アイビー、干し肉も食べろよ」

「うん」

あっ、干し肉が凄く美味しい。

干し肉をここまで美味しく感じるのは、固形食のお陰かな?

「よく食べてきたって、まさか固形食を日常食にしてないだろうな?」

お父さんの言葉に、アリラスさん達が視線を逸らす。

えっ、この固形食を日常で食べていたの?

「駄目だろう。確かに栄養は豊富だが、これは洞窟や食料不足で食べる非常食でもあるんだから」

お父さんが少し呆れた表情で3人を見る。

アリラスさんは、困った表情でお父さんを見ると頷く。

「3人とも料理が作れなくて、食費が凄く掛かったから固形食でいいかって」

いや、極端すぎるでしょう。

それに、料理が出来ない?

確かにリーリアさんが料理を作ると、いつ失敗するかドキドキするけど、アリラスさんもタンラスさんも私が料理を作っている時に、手伝ってくれたよね?

手際もよかったし、料理が作れないとは思わなかったけど。

「あっ、今は少し出来るようになったんだ。でも、前は全然駄目だったんだよ」

なるほど。

「固形食だけを食べていると体調を崩しやすくなるんだが、問題は無かったか?」

首を傾げてお父さんを見る。

「栄養が豊富なのに、体調を崩しやすくなるの?」

「そうなんだよ。栄養面だけを考えたら、充分なんだけど。なぜか、固形食だけだと健康を害するんだ」

不思議だな。

「で、どうだったんだ?」

お父さんがアリラスさん達を見る。

「風邪をひきやすくなりました」

「まったく。気を付けろよ」

アリラスさん達が頷くと、お父さんがお茶を入れるためにお湯を沸かした。

「あれ? お茶を入れるの?」

今日は、普通の洞窟の体験をするって言っていたよね?

お父さんを見ると、沸かしたお湯を見て困った表情をしていた。

もしかして、

「気付いたら、お湯を沸かしていた?」

「慣れって怖いな。まぁ……お茶がいる人」

無言で手を上げると、アリラスさん達も手を上げた。

「全員分だな」

夕飯で出たゴミを纏めて、マジックバッグに入れる。

魔力塊が、ゴミを吸収して魔物におかしな力が付いたら大変だからね。

「どうぞ」

掃除が終わると、お父さんが人数分のお茶を簡易テーブルに置いた。

「「「「いただきます」」」」

一口飲むと、お茶の温かさがじんわりと体に伝わっていく。

美味しい。

「ぷっぷぷ~」

「てっりゅりゅ~」

ソラとフレムの鳴き声に視線を向けると、少し離れた所で飛び跳ねている。

どうしたんだろう?

「ソラ、フレム、どうしたの?」

「ぷっぷぷ~」

「てっりゅりゅ~」

「ぺふっ」

えっ、ソルもいるの?

飛び跳ねている2匹で見えなかったが、ソルも一緒にいるようだ。

ズルズルズル。

「えっ?」

ズルズルズルズル、ズルズルズルズルズル。

「お父さん、この音は?」

「こっちに来るな。気を付けろ」

お父さんが立ち上がって剣を持つ。

アリラスさん達もお父さんの様子を見て、すぐに武器を構えた。

「アイビー、荷物は放置していいからソラ達を」

「うん。ソラ、フレム、ソル。こっちへ来て!」

「ぷっぷぷ~」

「てっりゅりゅ~」

「ぺふっ」

えっ?

いつもならすぐに戻って来てくれるのに来ない。

どうして?

離れた場所から全く動こうとしない3匹に、戸惑ってしまう。

その間も、ズルズルという何かを引きずる音が大きくなる。

「ソル! フレム! ソラ!」

どうしよう。

「にゃうん」

「ぎゃっ」

シエルとトロンの鳴き声に視線を向けると、寝そべっているシエルと、じっとこちらを向くトロンの姿があった。

「なんで落ち着いているの?」

私の言葉にお父さんが、ちらりとシエルとトロンを見る。

「大丈夫なのか?」

2匹の様子を見たお父さんが、戸惑った表情で私を見る。

「分からない。でも、シエルとトロンだけじゃなく、ソラ達も大丈夫と言ってるみたい」

大丈夫だから、声を掛けても戻って来ないのだと思う。

でも、音がどんどん近付いてくるから、不安だ。