作品タイトル不明
665話 初心者用の洞窟
ミッケさん曰く「本当に易しい洞窟で初心者でも十分に楽しめる」とお薦めの洞窟の前で、お父さんが審査を受ける事になった。
「えっと、付き添いは冒険者ではないんですね。えっ? 本当に冒険者ではないんですか?」
洞窟前でお父さんを調べていた自警団員が、首を傾げる。
でも、そう思われてもしょうがないよね。
だって、どう見てもお父さんの着けているのは上位者が着ける冒険者専用の装備一式。
しかも、しっかり使い込まれているのが分かるのだから。
「元冒険者だ。今は、引退したんだ」
「あぁ、そういう事でしたか。こちらに手を翳してください」
自警団員が指した黒い玉の上に、お父さんが手を翳す。
が、特に何も反応は無い。
「問題ないみたいですね」
反応が無いから心配したけど、それでよかったのか。
「これは、何を調べているんだ?」
お父さんも知らないのか、不思議な表情で黒い玉を見ている。
「洞窟内にいる魔物より強いかどうかを調べられるんです。凄いマジックアイテムでしょう? 上位冒険者だけが入れる洞窟で、ドロップするレアアイテムなんです。まぁ、調べられるのはそれほど強くない魔物までなんですがね」
自警団員の説明に、アリラスさんもタンラスさんも興味深く黒い玉を見ている。
「こちらをどうぞ」
「ありがとう」
無事に洞窟に入る許可が下り、お父さんが許可証を受け取った。
これで、予定通り洞窟を楽しめる事が決まった。
オカンコ村で管理されている洞窟は、誰でも自己責任で入る事が出来る。
ただ初心者向けの5ヶ所の洞窟だけ、入る前に自警団員による審査がある。
審査には、洞窟に慣れた者が付き添いでいるかどうかが調べられる。
たとえ初心者向けでも洞窟内では何が起こるか分からないため、洞窟にまだ慣れていない冒険者達を守るために作られたオカンコ村独自のルールだ。
今回は、お父さんが付き添いとして審査を受けた。
自警団員にお礼を言って、洞窟に入る。
シエルが先頭にいない洞窟は初めてだ。
肩から提げている皆が入っているバッグをそっと撫でると、振動が伝わってきた。
それに笑みが浮かぶ。
昨日、洞窟に行く事が決まったのでソラ達皆に相談をした。
「私達が洞窟に行く時に、皆はどうする?」と。
もちろん洞窟内でもバッグから出られない事も、ちゃんと説明した。
ソラ達は少し考えたが、一緒に来てくれた。
いつも一緒にいるので、自分達だけ洞窟を楽しむのは申し訳ないけど嬉しい。
ただトロンは、部屋でお留守番をしている。
ずっと寝ていて、判断を確かめられなかったから仕方ない。
そろそろ、起きてもいい頃なんだけどな。
「アリラスが先頭でタンラスが後尾。リーリアは周りの気配に注意して」
「「「はい」」」
「リーリア、魔物の気配は?」
「えっと、前方に3体、その先に2体。まだ少し距離があるかな」
うん、確かに5体の魔物が前方にいる。
洞窟の奥に進むのなら、この5体は倒していくのかな?
「アリラスは前方の魔物の動きに注意して、奥へ行こう」
アリラスさんがゆっくりと洞窟の奥を目指し歩き出すので付いて行く。
まだ先にいる魔物はこっちの動きに気付いていないのか、動かない。
と言っても、近付いているのですぐに気付くだろう。
今回アリラスさん達は、名前を変えた事でもう一度下位冒険者から始める事になってしまった。
これまでの実績が消えてしまったので勿体ないと感じたけど、アリラスさん達は全く気にしていなかった。
魔物除けで積んだ実績だから、一度やり直したかったそうだ。
「前方の魔物が気付いたみたい。3体、こっちに向かって来る」
リーリアさんの言葉に、アリラスさんが剣を構える。
姿を見せた3体の魔物は、あっという間にアリラスさんが倒した。
まぁ、そうだよね。
彼らは過去を捨てたから下位冒険者でしか登録できなかったけど、実力は中位冒険者だから。
初心者用の洞窟の魔物なら、簡単に倒せるだろう。
「アリラス。次は私が倒すからね!」
リーリアさんの言葉に、アリラスさんが首を横に振る。
「駄目なの?」
「俺が前にいるんだから、難しいだろう」
確かに、魔物が横を通っていく事になるからね。
「リーリアが先頭を歩いたら駄目なのか?」
タンラスさんがお父さんを見る。
「このレベルの洞窟なら問題ないだろう。次はリーリアが先頭になって、アリラスが真ん中で気配に注意してくれ」
順番を入れ替わって、洞窟の奥へ進む。
暫く歩くと魔物が2体現れたが、リーリアさんが問題なく倒した。
「リーリアさんも戦えたんですね」
「ちょっとだけね。3体いたら、危なかったかも」
それでも戦えるのは羨ましい。
私は全く駄目だから。
「アイビー。アイテムはちゃんと用意してあるか?」
お父さんの言葉に、手の中にあるアイテムを見せる。
これは、お父さんが洞窟に入るなら必要だと私のために選んでくれた武器だ。
私の力では魔物を倒す事が出来ないので、森の中ではすぐに激袋が使えるように準備している。
ただ洞窟の中で激袋を使うと、洞窟の大きさにもよるが使った側にも被害が出てしまう事がある。
そのため、洞窟内で激袋は使わないほうがいいらしい。
激袋の代わりにお父さんが用意してくれたのが、今手に持っている武器「雷球」だ。
これは、大型の魔物は倒せないけど、小さめの中型の魔物なら倒せるぐらいの力があると聞いた。
「投げる時は、気を付けろ」
「うん。分かった」
間違って、人にぶつけたら大変だからね。
人の場合は、防具を付けているから魔物のように死ぬ事は無いみたいだけど、それでも体に雷撃が走ったら痛いだろうから。
「分かれ道になっているけど、どっちに行く?」
アリラスさんの声に視線を向けると、道が左右に分かれていた。
「どちらに行きたい?」
お父さんがアリラスさん達を見る。
「そうだな。魔物の気配から選べば、右が安全だと思う。左には魔物の気配がある」
確かに、左の道の先には複数の魔物がいるのが気配から分かる。
でも、分かるのは少し先までで、その奥がどうなっているのか分からないから、右が安全だとは言えないと思うけどな。
「ここから分かる気配から行けば、右のほうが安全そうだな。でも、気配が分からない所に左より強い魔物がいる可能性もある」
やっぱりそうだよね。
「この場合は、気になる方の道を選ぶんだ」
えっ?
気になる方?
お父さんの説明に、アリラスさん達も驚いた表情をしている。
「洞窟内では勘や運も重要なんだ。道の奥に何がいるのか想像しても、正直時間の無駄だ。行ってみないと分からないからな」
確かに、ここで考えるのは無駄かな。
「こういう時は、自分の勘を信じるのもいいと思う。どうする?」
お父さんがアリラスさん達を見る。
3人は顔を見合わせると一度頷いて、一斉にある方向を指した。
「アリラスが右の道で、タンラスとリーリアが左の道か。左へ行くか」
お父さんの言葉に、少し不服そうにタンラスさんとリーリアさんを見るアリラスさん。
「お前らな、魔物がいる方をどうして選ぶんだ?」
左は複数の魔物がいる事は気配で分かっているからね。
「だって、左の魔物は間違いなく倒せるじゃない。何が出てくるのか分からない右の道より、分かっている方が安心じゃない?」
なるほど、そういう考え方もあるのか。
リーリアさんの言葉に、アリラスさんも少し考えて頷いた。
「確かにそうだな」
「まぁ、その後にすごい魔物が出てくる可能性も……この洞窟ではそれは無いのかな? 初心者用の洞窟だからね?」
そういえば、ここは初心者用の洞窟だった。
下位冒険者が倒せる魔物しか出ないか。
「そうだな。ただ、今までにも急に強い魔物が出た洞窟がある。気を引き締めろ」
お父さんの言葉に全員が頷くと、アリラスさんが先頭になって左の道へ進む。
左にいた魔物がすぐに動き出すのが気配で分かった。
そういえば、ここの魔物は小さな魔石をドロップするはずだよね。
まだ見てないけど、次ぐらいにはドロップしてくれるかな?