軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

627話 森で体力作り始めます!

翌日、森での体力作りが始まった。

オカンイ村の森はウルさんが詳しいという事で、歩く場所を決めたのは彼だ。

上がったり、下がったり出来るところを選んだと最初に言っていたので覚悟はしていたけど、想像以上だ。

「あと、もう少し!」

少し出っ張った岩を右手で掴み、足に力を入れて崖を蹴る。

身体が上に持ちあがるのを利用して、もう一段階上にある岩を左手で掴む。

ゆっくり、安全を確認しながら崖を登っていく。

最近は、サーペントさんに乗って、するするっと登ってしまう事が多かったので、自分の力だけではしんどい。

だけど楽しい。

私の身長の4倍ぐらいある崖を登り切り、両手を上にあげて伸ばす。

「気持ちいぃ」

「アイビーは思っていた以上に体力があるな。早歩きで2時間の後の崖登りはかなり辛いはずなんだけどな。まさか、簡単に登ってしまうとは」

ウルさんが何気に悔しそうにしているので、笑ってしまう。

私に合わせて崖を登っていたお父さんは、そんなウルさんの様子に呆れた表情を見せた。

「早歩きは、慣れてるんです」

1人で旅をしていた時は、早歩きをよくしていた。

森に不慣れだった時、知らない音が聞こえる度に歩く速度をあげてとりあえずその場所を離れていた。

今は、音の正体も分かるようになったので、びくびく森を歩く事も無くなった。

あの時は、小動物が枯れ葉の上を走る音にも、体を震わせていたな。

今思い返すと、ちょっと怖がり過ぎたかな。

「慣れか。大変な旅をしてきたことが分かるな」

大変か。

まぁ、そうかな。

「それにしても、まだ半分ぐらいだな」

ウルさんは、私が今登って来た崖の下を見る。

ガルスさん達が、崖を登るのに四苦八苦しているのが分かる。

3人の表情から、ほとんど体力も残っていない様子だ。

「ガルスさん達は、旅をしてたんですよね?」

想像以上に体力が無い。

どんな旅をしていたんだろう?

「あの3人は、ある意味運が良かったんだよ。占い師から貰ったお金で、かなり効果の高い魔物除けを買う事が出来たから」

魔物除け?

ウルさんの言葉に首を傾げる。

旅には必要だけど、体力が無い話とは関係ないような気がする。

「ガルス達は、その魔物除けを使って商人達の馬車に同乗させてもらって移動していたんだ」

えっ?

「『魔物除けは用意するから、馬車に乗せて欲しい』と交渉してたそうだ。商人にとって魔物除けは、大切な商品を守るのに必須アイテムだ。でも、効果の高い魔物除けは高額になって、手が出せない。それが、3人を馬車に乗せるだけで無料で使える。商売をしている者達にとって、かなり好条件だ。どうせ、向かう場所は同じだからな。ガルスは、馬車の大きさと積荷の量を見て交渉する相手を選んでいたみたいだ。たぶん彼は、乗せてくれる商人を見つけるのが上手いんだろうな」

なるほど。

つまりガルスさん達の旅は、馬車を使っていたのか。

「馬車か。ちょっと羨ましいかも」

「まぁ、確かに馬車は楽できるな。ただ、尻は痛くなるぞ。おっ、ようやく来たな」

ウルさんの視線を追うと、全身で息をしているガルスさんがいた。

その少し後に、ふらふらしたアルスさんとエバスさんの姿が見えた。

その表情から、かなり無理をしているのが分かる。

大丈夫かな?

「少し休憩していいぞ。それにしても、本当に体力がないな」

ウルさんの言葉に、ガルスさんが無言で頷く。

まだ、会話をする余裕はないようだ。

本当に辛そうだな。

「お水、飲みますか?」

マジックバッグからコップを3つ出して、冷水が出るマジックアイテムを使ってコップに水を満たす。

「どうぞ」

ガルスさん達に渡すと、3人とも無言で受け取ると勢いよく飲んだ。

「ありがとう」

ガルスさんの言葉に首を横に振る。

エバスさんとアルスさんは、まだ話す事は無理そうだ。

もう1杯ずつ、お水を渡す。

「今日は、もう無理じゃないか?」

お父さんが3人の様子を見て苦笑する。

「あ~、そうだな」

ウルさんは、ちょっと困った表情でガルスさん達を見る。

本当にここまで体力が無いとは、思わなかったんだろう。

「お前ら、よく王都からここまでこれたな」

「歩く、事は、それほど多く、なかったので。すみません」

ガルスさんの途切れ途切れの返答に、困った表情をしたウルさん。

おそらく、体力づくりの予定が大きく変わるんだろうな。

「それにしても、アイビーさんは、凄いですね。こんな崖も一気に登っていくから、驚きました」

ガルスさんが、今登って来た崖を覗き込む。

「アイビーは、登りやすい箇所を選んで登ってきてたからな」

「えっ、そうなんですか?」

ガルスさんが羨ましそうに私を見るけど、首を傾げてしまう。

気にしたことが無いけど、そうだったのかな?

「崖を登る事に慣れてくると、パッと見ただけで何処が登りやすい場所なのか分かるようになるんだよ」

ウルさんの言葉に、驚いた表情のガルスさん。

私もちょっと驚いてしまった。

「経験の積み重ねで自然と覚えるものだから、今のガルスには分からないと思うぞ。アイビーは無意識に選んでいるんだろう」

なるほど、無意識か。

でも、そうかもしれない。

今、登って来た崖も何となく、「ここだ!」と思って登って来たから。

あれは、経験を積んできたから出来る事なのか。

頑張った事が、形になるのは嬉しいなぁ。

「それだけ、崖を登っているって事ですよね」

ガルスさんの言葉に、確かにと頷く。

シエルの案内してくれる森の中は、どこに行くにしても大なり小なり崖がある。

そういえば、最初の頃は高低差の少ない崖だったけど、最近は結構高い崖にも挑戦してるな。

崖を登った先に何があるのか楽しみで、苦に感じた事が無いけど、他の人より多く崖に挑戦してるかも。

「アイビーの年で、崖を見ただけで登る場所が分かるのは凄いけどな。それと、ドルイドのそれ、マジックアイテムだよな?」

ウルさんが、お父さんの右腕の先に付けられた物を見る。

そこには、失った腕の先に付けて使うマジックアイテムが付けられている。

「片手で崖を登るのは大変だから、補助してくれる物を探したんだ。これは、岩に突き刺すと10秒間だけ抜けなくなるマジックアイテムだ。右腕も使えるようになるから、かなり重宝しているよ。まぁ、慣れるまでが大変だったけどな」

ウルさんが、お父さんが右腕から外したマジックアイテムを見る。

「こんなマジックアイテムがあるんだな」

「それ。使い道がないゴミアイテムだったんだよ」

ウルさんが、お父さんを見る。

「そうなのか?」

「考えてみろ。突き刺して抜けなくなるって、どんな場所で必要になるんだ? しかも抜けない時間はたったの10秒だけだぞ? 抜けなくなるのが数年とかだと、まだ使えそうな気もするけどな」

お父さんの言葉に、真剣に考えこむウルさん。

暫くすると首を横に振った。

「確かに、必要な場所はなさそうだな」

「そうだろ? 俺がこのマジックアイテムを見つけた店でも、ずっと売れ残っていてあと数日で処分する予定だったそうだ。まぁ、そのお陰でタダで譲り受けたんだけどな」

確かに、お店の処分品というカゴの中にあったもんね。

買うと言った私たちに、お店の人は本当に不思議そうにしていたっけ。

懐かしいな。