軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

619話 アルスさんの思い

ウルさんがアルスさんから聞いた話をガルスさん達にすると、ガルスさんがため息を吐いた。

その音に、アルスさんの肩がびくりと震えたのが分かった。

「アルス、何か言いたい事は?」

ガルスさんの言葉に、アルスさんが首を横に振った。

えっ?

後悔しているように見えるんだけど、謝らないの?

「アルス?」

「無いから」

え~、泣きそうなのに?

お父さんを見ると、苦笑している。

もしかしてアルスさんの態度の理由に気付いているんだろうか?

もう一度アルスさんを見る。

意地になって謝らないという雰囲気ではない。

どちらかと言うと、我慢しているように見える。

「言っておくが、これぐらいの事で嫌って離れたりしないからな」

ガルスさんの言葉に、顔を上げてガルスさんを見つめるアルスさん。

何か言おうと口を開いたが、そのまま閉じて俯いてしまった。

アルスさんはガルスさん達から離れたかったの?

どうして……あっ、大切だからか。

アルスさんは今まで、家族も守ってくれた元冒険者の人も教会に殺されてきた。

教会の恐ろしさを知っているから、ガルスさん達を守るために離れようとしたんだ。

あれ?

それで夢の話をガルスさん達に言わずに、私達にしたの?

呆れさせるため?

それとも、怒らせるため?

ガルスさん達とはまだ少ししか関わっていないけど、それぐらいでは離れないと思うけどな。

それに「ガルス達に言い忘れた」と言った時のアルスさんの表情に嘘は感じられなかったんだけど。

……アルスさんは、何がしたかったんだろう?

「まったく。話したのがウルさんやドルイドさんだからよかったけど……はぁ」

うわぁ。

ガルスさん、すっごく疲れた表情をしてるな。

「……」

「アルス、俺達に内緒で彼らと接触を持ったのは、夢の話をするためじゃないだろう。アルスの事だ、『内緒でこの村から連れ出してほしい』とでも、お願いするつもりだったんじゃないのか?」

えっ?

そんな話は全く出てないけど。

「お願いするつもりが、実際に言おうとしたら言えなくなって。とっさに夢の話をしてしまった。そんなところだろうな」

ガルスさんに続きエバスさんも、アルスさんの行動について推測する。

そうなの?っとアルスさんを見ると、耳が赤くなっている。

「俺達を呼べと言われて、そこで自分が危険な話をした事に気付いた。気付くのが遅いな」

ガルスさんが、呆れた表情で首を横に振る。

「本当だね。で、今度は何を思ったのか、ここで嫌われてしまおうと考えた。無駄なのに」

あっ、エバスさん笑ってる。

「全くだ」

ガルスさんとエバスさんが話を続けるたびに、アルスさんが小さくなっていく。

でも、顔を上げてみたらいいよ。

ガルスさん達、優しい表情をしてるから。

「嫌われる事を言おうとしたが言葉が出てこないところが、アルスだよな」

ガルスさんが、ポンとアルスさんの頭を撫でる。

「最近、考え過ぎて寝不足だろう? だからこんな無謀な行動を起こそうとするんだよ。あれほど、ちゃんと睡眠はとれと言ったのに」

エバスさんもアルスさんの肩をぽんぽんと撫でる。

「考え過ぎて自分で自分を追い詰めるんだから」

なんだか、ガルスさんもエバスさんも「しょうがないな」って感じだな。

「でもアルス。追い詰められた結果だとしても、俺達から無断で離れようとした事は悲しい」

エバスさんの言葉に、アルスさんがぱっと顔を上げる。

目が真っ赤になっている彼女に、エバスさんがポケットから布を取り出して目元にあてる。

「3人で話し合う時間が必要だな」

お父さんの言葉に、ウルさんが立ち上がる。

それに遅れないように急いで立つと、お父さん達と一緒に部屋を出る。

「落ち着いたら、契約をする事になるだろうから、書類を作っておくよ」

「ありがとう」

ウルさんが、調理場に戻るとマジックバッグから慣れ親しんだ紙を取り出した。

やっぱり、いつもの紙だ。

「一般的な契約内容でいいか? 追加するなら今のうちに言ってくれ」

「特にないな。アイビーは、どうだ?」

契約内容なんて、今まで考えた事ないな。

「私もないです」

ウルさんに言うと、「了解」と言って契約書の作成を始めた。

「一度部屋に戻るか。ソラたちの様子も気になるしな」

「うん」

部屋に戻り、皆の様子を見る。

特に、変化はない事にホッとする。

「しかし、占い師は厄介かもしれないな」

「えっ?」

お父さんが真剣な表情でソラを抱き上げる。

「夢で未来が見えるなんて、未来視とは違うのかもしれないが。厄介だ」

確かに、教会が捕まえている占い師の中に、アルスさんのような力を持つ者がいたら恐ろしい。

アルスさんの様子から、見たい未来は見られないみたいだけど。

「対策が難しいな」

いつ見られるかも分からないんだもんね。

「これは、考えてもどうにもならないね。その力を持っている人が、悪用しないように祈るしか」

「そうだな。はぁ」

アルスさんに話を聞いてから、ずっと考えていたんだろうな。

「そうだ! アルスさんの事、どうして気付いたの?」

ウルさんもお父さんも、アルスさんの様子がおかしいといつ気付いたんだろう?

「1人で俺達のところへ来た時だな」

ん? 1人?

それって、今じゃなくて、

「もしかして朝?」

「そう。アルスは、生い立ちのせいだろうな、他者への警戒心が強い。ガルス達も、アルスを1人にしないようにしているのが窺えた。なのに朝はガルス達を待たずに1人で俺たちのところへ来た。何か違和感を覚えたんだよ」

そうだったんだ。

私は、ガルスさん達が起きるのに手間取っているから、1人で早めに来たと思った。

「それだけだったら、まぁ特に気にはしなかったけど。さっきはガルス達を起こさずに1人で来ただろう? これはガルス達には聞かれたくない話でもあるのかなと思ったんだけど、話し出したのは夢の話だ。かなり言いづらい事なんだなって思ったんだ。まぁ、教会に見つかった後だから、予想はついたけどな」

「全然、気付かなかった」

そういえば、アルスさんはいつもガルスさんとエバスさんに守られる位置にいたな。

「アルスはきっと、ガルス達と本当に離れる事になるかもしれないと思ったら、言葉が出てこなかったんだろう。で、とっさに夢で見てたから、『一緒に旅を』と話してしまった。まぁ、後はその説明だな」

自分を誤魔化すために話した内容が、夢の内容だったのか。

「ガルスじゃないが、話したのが俺達でよかったよ」

それはそうだ。

「アルスさんのした事は、かなり危険な事だよね?」

「まぁな。でもたぶん、アイビーに夢の話をしたのは後ろめたい気持ちもあったんじゃないかな?」

「えっ?」

「アルスが言っていただろう? 『秘密を無断で見てしまったから』と。あれは本心だと思うぞ」

「うん、それは分かってる。アルスさんの表情が、本当に申し訳なさそうだったから」

「それに不安もあったんだろう。ガルスがアイビーのスライムを盗むと思っていたみたいだからな」

「あははっ、あれか」

「いろんな事が同時に起こったから、心労が重なったんだろう」

教会に見つかって、大切な人達から離れようと考えて、夢でスライムを盗むガルスさんを見て。

確かに、心労が溜まりそう。

「今頃、3人で泣いてるかもな。ガルス達も今回のアルスの行動で傷ついているからな」

ガルスさん、「悲しい」と言っていたもんね。

それにしても、

「本当に教会は余計な事をするよね。もう、とっとと教会関係者は全員捕まるか、この世界から消えればいいのに」

「教会なんて消えればいい」……ん?

あれ?

今の何?

周りを見回すが、お父さんがソラとフレムと遊んでいて、シエルの頭の上にはソルとトロン。

あっ、トロンが起きたみたい、ご飯をあげないと。

じゃなくて、気のせいかな?

なんだか、懐かしい声だったような気がしたけど。

「アイビー、どうした?」

「なんでも……。ちょっと懐かしい声が聞こえた気がして。違うかな。聞こえたんじゃなくて、思い出したのかな?」

「大丈夫か?」

お父さんの心配そうな表情に笑みを見せる。

「大丈夫。懐かしい感じだったから」

嫌な感じはなかった。

あっ、トロンのご飯だったね。