作品タイトル不明
602話 こんなところに
「テイマーですか? オカンイ村に、マジックアイテムを食べるスライムがいるなんて、聞いた事は無いですが」
ガルスさんが、疑わしそうにウルさんを見る。
聞いた事が無いのは当然だよね。
いないんだから。
ウルさんは、どうするんだろう?
「俺も最近知り合ったんだけど、知らないのは当然だ。テイマーである事は、かなり親しい者達にしか言っていないみたいだから」
ん?
それって、もしかして私の事かな?
「それは、隠しているという事ですか?」
ガルスさんの不思議そうな表情に、ウルさんは深刻そうに頷く。
「そう。俺が知り合ったテイマーのスライムは、食べる量が他のスライムよりかなり多いんだよ」
「それって、レアスライムですか?」
「そう。もし周りに知られたら、色々と面倒な事になるだろ?」
「面倒……」
あれ?
アルスさんが反応した。
「確かに、マジックアイテムを他のスライムより多く食べるなんて確実に狙われますね」
ゴミの問題が深刻化しているもんね。
「うん。本人はそれが嫌で、隠していると言っていたよ。たまたまスライムの事を知ったら、今の森は怖くて来れないから、マジックアイテムのゴミを持ってきてくれないかとお願いされたんだ」
「そうだったんですね、すみません。疑ってしまって」
ガルスさんが、申し訳なさそうな表情でウルさんを見る。
「いいよ。マジックアイテムを大量に詰め込んだマジックバッグを見つけたら、疑われて当然だから」
なんとかなったみたい、よかった。
「あの、どうして捨て場に居なかったんですか?」
あれ?
アルスさんにはまだ疑われているみたい。
ジナルさんが一緒の時は、ここまで疑わなかったのになぁ。
「あぁ、それはラビネラに襲われたからなんだが、ここに来た時にはいなかったか?」
ウルさんの言葉にガルスさん達が首を傾げる。
ラビネラが人を襲うなんて、想像できないのかもしれない。
ウルさんも、ラビネラの様子に戸惑っていたからね。
「あのラビネラに?」
ウルさんが頷くと、ガルスさんが神妙な表情で考え込む。
エバスさんが、「あっ」と小さく声をあげるとなぜか後ろを振り向いた。
「あの、大量の足跡……」
エバスさんがある方を指してガルスさんを見る。
「えっ?」
ガルスさんの戸惑った声に、エバスさんの眉間に皺が寄る。
「マジックバッグを見つけた後に、周辺を調べてたら見つけただろう? 小型動物の大量の足跡。あれを見たアルスが言ったじゃないか『群れにならないはずのラビネラの足跡がこんなに一ヵ所に集まるなんて珍しい』って。覚えてないのか?」
「えっと? あっ、そういえば言ってたような気が……」
「まさか、聞いてなかったのか?」
「俺は他にも隠したマジックバッグがあるかもしれないと、そっちを探すのに必死だったんだよ」
ガルスさんが少し大きくなった声で反論すると、エバスさんが首を横に振ってため息を吐いた。
「あの、ラビネラはどうなりましたか?」
アルスさんが心配そうな表情でウルさんを見る。
「悪い。ラビネラの事は分からない」
「えっ、どうして?」
「異常な行動の原因を探るために、討伐は止めてラビネラから離れて様子を見たんだが、甘かった。ラビネラが急に森の奥へすごい勢いで走って行ってしまったんだ。すぐに追いかけたが見失ってしまって。今まで探したんだが、見つける事が出来なかった。もう少ししたら暗くなるし、暴走した魔物がいる夜の森にはいたくない。それで諦めて村に戻る事にしたんだよ」
ウルさんの言葉にアルスさんが頭上を見る。
まだ明るいが、あと少ししたら暗くなってくる時間だ。
「そうだ、マジックバッグはそれだけだったか?」
ガルスさんがウルさんの言葉に悔しそうな表情を見せる。
「やっぱり、他にもマジックバッグはあるんですね」
探していたと言っていたから、見つけられなくて悔しいのかな?
「あと1つあるはずだ。持ってくるよ。ここで待っててくれ」
ウルさんが捨て場に向かって歩き出すと、ガルスさんが少し残念そうな表情を見せた。
「お願いしたらよかったのに」
「そこまで図々しく出来ないだろ」
ガルスさんがエバスさんの肩をポンと叩く。
ちょっと不貞腐れているような表情に見えるけど、何だろう?
もしかして、隠し場所を見たかったのかな?
お願いしてみたらよかったのに。
「悪い、待たせた」
ウルさんが戻ってくると、全員で村に戻る事になった。
まぁ、この流れだとそうなるよね。
私達としては、足跡を見た彼らと戻る方がいいだろうし。
そういえば、お父さんが静かだな。
そっと隣を歩くお父さんを見る。
なんだか、周りを警戒しているような気がするな。
気配は……無いよね?
「3人に見張りが付いてる」
私の様子に気付いたのか、お父さんが顔を近付けると小声で教えてくれる。
見張り?
でも、気配は一切感じない。
そういえば、マジックアイテムで気配を消せるものがあったはず。
それを使ったの?
ガルスさん達3人を見張るために?
「おっ、見えてきた」
ウルさんの視線の先には、門の前で緊張感を漂わせている下位冒険者達。
朝の人達とは変わっているみたい。
「あっ、帰ってきた! 何かあったんですか? 全然帰ってこないし、森で大きな音がしたんで救助に向かうべきか話し合っていたところだったんです」
森に出ていく時に声を掛けてきた門番さんが、ウルさんを見ると慌てて駆け寄ってきた。
そしてお父さんと私を見ると、ホッとした表情を見せた。
どうやら心配をかけてしまったようで、申し訳ない。
あっ、騎士の人もホッとした表情をしている。
視線が合ったので、とりあえず小さく頭を下げる。
「大丈夫だ。ちょっと、群れになったラビネラに襲われて森に避難しただけだ」
「えっ。ラビネラに?」
門番さんの戸惑った表情に、ウルさんがポンと肩に手を乗せる。
「何があったのか詳しく話すから、休憩室に行こう。ガルス達も見た物を説明してほしいから一緒に来てくれ」
ウルさんの言葉に、門番さんとガルスさん達が頷く。
「ドルイドはどうする? 先に、村に戻っていてもいいぞ」
「いや、待っているよ。それほど時間もかからないだろう?」
「たぶん大丈夫だ。では、とっとと済ませるか」
ウルさん達が休憩室に行くのを見送ると、騎士が傍に来た。
「襲われたと聞こえたが、怪我はしなかったのか?」
あれ?
彼はこんな話し方だったかな?
あまり話した事はなかったけど、他の騎士の人達同様に丁寧というか硬いというか、そんな話し方だったと思うけど。
「えっ? あぁ、大丈夫だ」
お父さんも戸惑ったという事は、話し方が変わった?
「そうかよかった。ところで、ちょっと」
騎士がお父さんと私を、冒険者や門番のいない場所へそっと誘導する。
何だろう?
お父さんを見ると、少し警戒した様子が見えた。
「ここなら大丈夫だな。森の様子が変わったが、黙っていた方がいいか?」
えっ。
予想していなかった言葉に、驚いた表情で騎士を見る。
それはお父さんも一緒だったようで、騎士は私とお父さんを見て笑った。
「黙っていて悪かった。今日あたり、彼には言うつもりだったんだ。でも、その前に確認した方がいい事が起きたからな」
彼?
「ジナルだ。俺は彼が属している組織の工作員だ」
ジナルさんが属している組織は、本当に大きいよね。
でも、どうしてジナルさんは言ってくれなかったんだろう?
「あっ、ジナルは俺の事を知らないから」
「分かった。森については黙っていて欲しい。利用できそうなんだ」
教会の事は言わないのかな?
「分かった。詳しい説明は要らない。俺は騎士としてなら助けられるが、それ以外では動けないから」
組織としては動かないという事だよね。
「ホルは鋭いから気付いただろうから、黙っているように言っておくよ」
「それは助かるよ。騎士にもいるんだな。分かる者が」
お父さんの言葉に首を傾げる。
リーダーにもなれば、実力があるはずだよね?
「騎士のリーダーは金さえあればなれるという噂だ」
お父さんに呆れた表情を見せると、騎士が鼻で笑った。
「そうそう。だから弱っちい貴族の次男辺りが、実力で騎士になった者達の上でふんぞり返っているよ。まともな命令1つ出せないくせにな」
本当なんだ。
なんだか、思い描いていた騎士とは随分違うな。
フォロンダ領主が連れてきた騎士団の人達は、上位冒険者に負けないようなしっかりした体型の人達だったから、そんな人達ばかりだと思ってた。
なんだか、ちょっとがっかり。