作品タイトル不明
599話 食べるの?
「ごめんな、手伝わせてしまって」
ウルさんが、箱の中から方向がバラバラの紙の束を出すと、縦と横を揃える。
綺麗に揃った紙の束は、彼が持ってきたマジックバッグに次々と入れられていく。
私は、箱の中からぐちゃぐちゃに丸まった紙を出して、少しでも綺麗になるように伸ばしていく。
「いえ、大丈夫です」
綺麗に伸ばした紙がある程度溜まると、ウルさんのマジックバッグに入れる。
始めた時は、箱の中身はいっぱいだったが、そろそろ底が見え始めた。
あと少し、頑張ろう。
「こっちの中身も移していくか?」
お父さんが洞窟の出入り口に隠しておいた、年配の男性の荷物を持ってくる。
「そうだな。箱もそうだがそのバッグを知っている者がいると厄介だ」
ウルさんがお父さんからバッグを受け取ると、中身を確認していく。
「マジックバッグだが、それほど容量は多くないようだ。なんでこんな中途半端なバッグを使っていたんだ?」
バッグの中身を全て出して、バッグを調べ出すウルさん。
確かにバッグから出された荷物はそれほど多くない。
移動するのが楽でいいけど。
「これで全部です」
ウルさんが持っていた大容量のマジックバッグに全て入れると、ウルさんに渡す。
「ありがとう」
ウルさんは蓋がしっかり締まっているのを確かめると、肩からそのマジックバッグを提げる。
「このマジックバッグ、持ち主登録が出来る機能が付いているみたいだ」
持ち主登録は確か登録された人しか、バッグの蓋を開けられなくなる機能だったよね?
普通に開けられたという事は、その機能を使ってなかったのか。
「登録される前でよかったな」
「そうだな」
お父さんの言葉に、しみじみ頷くウルさん。
本当に、その通りだよね。
登録されてしまっていたら、「何をしても開けられない」らしいから。
「それにしても、奴は凄いマジックバッグを持っていたな。これは、かなり高額で取引されているはずだ。教会からの、支給品か?」
ウルさんが不思議そうにマジックバッグを見る。
「そんな高額な物を支給するか? 持ち主登録ほど強力な機能ではないが、簡易版みたいな機能があっただろ? 確か……開閉登録という名前だったはずだ。そっちの機能が付いたマジックバッグだったら、支給される事もあるかもしれないが」
「そうだけど……奴のしていた研究が、絶対に表に出せない物だったとか」
「暴走した魔物を従わせる方法の資料か?」
お父さんの視線が、ウルさんが肩から提げているマジックバッグに向く。
「そう」
「まぁ、その可能性はあるな。あっ! ウル、最後の1匹が出ていったみたいだ」
お父さんが、走り去るラビネラを指す。
檻を確かめるが、確かに1匹も残っていない。
「よしっ、あとはシエルに頑張ってもらうだけだな」
「にゃうん!」
ウルさんの言葉に元気に答えるシエル。
えっ?
さっきまで寝てたのに、いつ起きたの?
「シエル、やる気だな」
お父さんがシエルを見ながら苦笑する。
それに、尻尾をいつもより激しく振って応えるシエル。
「暴れるから危険だな。アイビーは洞窟から出た方がいいだろう。ドルイドも一緒に行ってくれ。俺は壊れたところを確認してから出るよ」
「分かった。ソル、洞窟から出ようか」
「ぺふっ」
ソルは檻から出ると、私の足にぶつかるような勢いで跳んで来る。
「アイビーが良いみたいだな」
お父さんは笑って、檻の中に転がっているソルが作った魔石を拾いあげた。
「あれ?」
「どうしたの?」
お父さんが魔石を持ったまま、不思議そうな表情を見せる。
それを横目で確認しながらソルを抱き上げると、プルプルとソルが震える。
「おっと」
興奮が続いていて落ち着いていないようで、震え方がいつもより激しい。
落とさないようにしないと。
「この魔石、少しヒビが入ってないか?」
お父さんが気になる部分を私に向ける。
確かめるために魔石に顔を近付けると、本当に小さなヒビが入っていた。
「確かに細かいヒビが入ってるね」
もう少しよく見ようと近付くと、お父さんも見やすくなるように私の方へ魔石を寄せてくれる。
「ぺふっ。ぱくっ」
胸元にいたソルが、お父さんの手にパクつく。
「「えっ?」」
ソルがお父さんの手を離すと、魔石が無くなっていた。
「……食べた?」
困惑した表情のお父さんに、同じような表情で頷く。
ウルさんは、ソルを見て固まってしまっている。
「ぺふっ」
ソルは、お父さんと私を見上げてから、他の檻に落ちている魔石に視線を向ける。
「あの魔石も欲しいのか?」
「ぺふっ! ぺふっ!」
「くくっ。久しぶりに、驚かされたな。まぁ、魔石は洗脳するための魔力を集めてるから、魔力が好きなソルが食べるのも……ありと言えば、ありなんだろう」
お父さんが残りの魔石を集めると、嬉しそうにソルに見せる。
魔石を見たソルが、私の腕の中からぐっと体を伸ばす。
「ソル。今からここでシエルが大暴れする予定だから、外に出よう。魔石は外で食べれば良いから」
「ぺふっ」
ちょっと不服そうに鳴くソルに、苦笑が浮かぶ。
「ソルのためにも、とっとと洞窟から出るか。ウル、書類が入っているマジックバッグは持って行くよ」
「あっ、あぁ。驚いた」
お父さんがウルさんから紙の束が大量に入ったマジックバッグを受け取る。
「シエル、思う存分、暴れても大丈夫だからな。頑張れ!」
「にゃうん!」
シエルに手を振って広い空間を出ようとすると、後ろからガタガタという大きな音が聞こえた。
振り向くと、広い空間の出入り口から一番遠いところにある檻がゆっくりと傾いていくところだった。
「凄い、あんな大きな物が……」
シエルって力持ち。
「危険だな。行こう」
お父さんに促されて、急いで外へ向かう。
「ウルさんは大丈夫かな?」
残したくない物があるらしく、確実に壊れたところを見届けるという事で残ったけど、大丈夫かな?
洞窟の出入り口が見えてくると、いったん止まって外の様子を窺う。
気配は動物の気配と、弱い魔物の気配。
あとは……この洞窟からは離れているが、森の中に3人の気配があった。
洞窟の前で見かけた3人組だろうか?
「問題なさそうだな」
周辺に視線を向けていたお父さんが、洞窟を出るので後に続く。
外から洞窟の中を覗くと、小さく何かが倒れるような壊れるような音が聞こえてきた。
「暴走した魔物はこの周辺にはいないみたいだな」
「うん。動物や魔物の気配がしてるから、いないと思う」
「よかった。負ける気はしないが、1人で対応するのは大変だからな」
私は戦力にならないからね。
ソルが腕の中から、お父さんに向かって飛び跳ねる。
「魔石が欲しいのか? ほら」
「ぺふっ」
お父さんが、ソルの前に魔石を並べると嬉しそうにぷるぷると震える。
そして、一気に残りの4個を口に入れた。
「ゆっくり味わって食べたらいいのに」
「ぺふっ?」
ソルの不思議そうな表情に首を横に振る。
「なんでもないよ。美味しい?」
「ぺふっ、ぺふっ」
食べ終わると、「ふぅ」と息を吐き出すソル。
その満ち足りた表情に、笑みがこぼれる。
「ソルはいい表情をしているな」
お父さんが笑ってソルの頭を撫でると、満ち足りたのか欠伸をしたソル。
「食欲が満たされたら、次に睡眠欲か。自由だなぁ」
お父さんが笑って言うと、ソルが少し不服そうな鳴き声で抗議した。
その姿が可愛くて笑みがこぼれると、もっと拗ねた声で鳴かれてしまった。