作品タイトル不明
597話 魔法陣とソル
ウルさんから受け取った紙に、檻の床に描かれている魔法陣を書いていく。
お父さんとウルさんは、この空間から繋がっている場所を調査中だ。
私も一緒に行こうと思ったが、「行かないほうがいい」とお父さんに止められた。
ウルさんも同じ意見だったので、調査に行く場所に何かあると考えたのかもしれない。
「これで、合ってるかな?」
魔法陣の文字や記号を間違って書いたら大変なので、何度も見直す。
3回見直して、間違いがない事を確かめる。
「よしっ、完成」
魔法陣を書き写した檻とは別の檻に行き、床に描かれた魔法陣を見る。
怖い物だけど、魔法陣自体はどこか綺麗だ。
「ん? ……あれ?」
手に持っていた紙に書かれた魔法陣の文字と、今目の前にある檻の床に描かれた魔法陣の文字を見比べる。
ほとんど同じだが、数か所違う文字が書かれている。
3回も見直したのに、間違えたのかな?
魔法陣を書き写した檻に戻り、床と紙を見比べる。
「同じだ」
もしかして、檻ごとに魔法陣が違うとか?
先ほどとは違う檻の魔法陣を見る。
手に持った紙に書かれた魔法陣と、床の魔法陣を見比べる。
どうやらこっちは、使われている記号が違うようだ。
「嫌な予感がする」
残りの2個の檻を見る。
ため息を吐くと、残りの檻に書かれている魔法陣を詳しく見ていく。
「あ~やっぱり、全部違う! 終わったと思ったのに~! ……はぁ」
叫んでいても仕方ないので、残っている紙に残りの4つの魔法陣を書き写していく。
書き終えると、間違いがないか確認する。
「終わった~」
あれ?
そういえば、2人とも遅いな。
何かあったのかな?
見に行こうかな?
いや、待っていた方がいいか。
「悪い。待たせた」
お父さんの声に振り向くと、疲れた表情をした2人がいた。
「お帰り、魔法陣は5つ全て書き写したよ」
「ありがとう。ん? 5つ全て?」
不思議そうな表情をするウルさんに、頷く。
「5つの檻に描かれていた魔法陣は、少しずつ全部違ったんです」
「えっ、そうなのか?」
ウルさんに紙を渡すと、眉間に皺を寄せながら確認している。
異なる場所にはそれぞれ印を入れたので、分かりやすくなっているはずだけど、どうかな?
「分かりやすいな、ありがとう。このままジナルに丸投げしよう」
えっ!
私の驚いた表情に、ウルさんが笑う。
「ジナルの方が魔法陣については詳しいから。俺は全然なんだよ」
そうだったんだ。
ジナルさんの仲間だから、魔法陣にもある程度詳しいものだと思っていたな。
「ウル、魔法陣を消していくか?」
お父さんの言葉に、肩から提げているバッグを見る。
魔法陣を消すならソルに協力をお願いしないと。
「それなんだけどなぁ」
ウルさんが迷うような表情で洞窟内を見渡す。
それに首を傾げる。
魔法陣を消したら駄目なんだろうか?
ラビネラのためにも、消していった方がいいと思うけど。
「消したら、侵入者があったと思われるだろ? とはいえ、ラビネラをこのままにしておくのも嫌だし」
実際に侵入して魔法陣を消そうとしてるからね。
これが、敵にばれたら……確かに、面倒な事になりそう。
何かいい方法は無いかな。
私達が魔法陣を消したと思わせないで、ラビネラも逃がす事が出来て……。
そういえば、暴走した魔物がここに帰って来る予定だったんだよね。
「あっ、暴走した魔物が暴れた事にしたらどうでしょう。ラビネラが逃げてもおかしくないし、檻が壊れて魔法陣が何かに擦れてしまっても……」
あの魔法陣は何で書かれているんだろう?
擦っても消えなかったら駄目だよね。
「なるほど、それはいいな」
ウルさんを見ると、頷いて周りを見回している。
でも、どうやるんだろう。
檻はかなり頑丈そうだ。
「にゃうん」
ん?
シエルの声に視線を向けると、どこか楽しそうに尻尾を振っている。
「どうしたの?」
「にゃうん!」
シエルの尻尾の振りが激しくなる。
……もしかして、暴走した魔物役とか?
「暴れたいの?」
「にゃうん!」
あっ、鳴き声が変わった。
「シエル、やる気だな」
お父さんの言葉に、「グルグルグル」と喉を鳴らすシエル。
ウルさんもそんなシエルを見て、にやりと人の悪そうな笑みを見せる。
……悪人に見えてしまうのは気のせいかな?
「とりあえず、檻の中に書かれている魔法陣を調べてみるよ」
ウルさんが、手に持っている物を私たちに振って見せる。
「鍵か?」
「そう。こういう研究所だと、持ち歩かずに檻の近くにあるんだよ」
そういうものなんだ。
覚えておこう。
ウルさんが、鍵を使って檻の扉を開く。
ラビネラの様子を見るが、まるで人形のようにじっとしている。
鍵を外す音にも、扉の開ける音にも反応しないので少し不気味だ。
「あっ、この魔法陣は消せるわ」
「「えっ?」」
ウルさんを見ると、魔法陣の一部を指で擦っていた。
お父さんが慌ててウルさんの腕を掴む。
「馬鹿か! 魔法陣の力を抑えてからじゃないと、何が起こるか分からないんだぞ」
そうだよね。
魔法陣に体の一部が触れただけで、発動する事があるから気を付けないと駄目だって……。
驚いた。
「あっ、悪い……魔法陣に慣れてなくて……」
ウルさんがばつの悪そうな表情で謝ると、お父さんがため息を吐く。
「まぁ普通は、魔法陣に触れる機会は全然ないからな」
普通は、そうだよね。
私、この魔法陣で何個目だっけ?
サーペントさんの洞窟に、村の外にあった石、あとハタカ村……多すぎる。
「だが、気を付けてくれ。魔法陣によっては、消そうとすると暴発することもあるらしいから」
「そうなのか。悪い」
ウルさんが小さく頭を下げる。
それは知らなかった。
「でも、擦っただけで消せると分かったのは幸運だな。アイビー、ソルに協力を頼めるか?」
「うん」
実はさっきから、バッグがもごもご動いていたんだよね。
ソラたちが入っているバッグの蓋を開ける。
すぐに、ぴょんとソルが飛び出してきた。
ソラたちも出てくるかと思ったが、起きてはいるが出ようとはしない。
それに首を傾げる。
いつもなら、飛び出して遊び出すのに。
「出ないの?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
ソラとフレムの答えに、ポンポンと2匹の頭を撫でるとバッグの蓋を閉める。
珍しい事もあるんだね。
「ぺふっ、ぺっふっ、ぺっふっ」
ん?
ソルの鳴き声がいつもと少し違うような気がする。
ソルを見ていると、檻に一直線に向かい、そのまま魔法陣の上に乗ってしまう。
「ぺっふ~」
魔法陣が光ると、ソルの体がぷるぷると震えだす。
前の魔法陣の対策時と異なる状態に、少し不安になってくる。
「大丈夫かな? 前回の時と違うよね?」
お父さんがソルの表情がよく見える場所に移動すると、苦笑した。
「問題ないと思うぞ。喜んでる」
えっ?
不思議に思いお父さんの隣に並んで檻の中にいるソルを見る。
魔法陣から出る光のせいで、よく見えない……あっ、本当に喜んでる。
「あの震えって、歓喜の震えとか?」
「そうかもな。ソルにとってはかなり美味しい魔力なんだろう」
良かった。
「ぺふぁっ」
1個目の魔法陣を食べ終わったみたい。
あっ、凄い満足そうな表情をしてる。