軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

590話 枯れたカリョの花

「ただいま」

玄関から聞こえるフィーシェさんの声に、空になったお皿を見る。

ジナルさんとウルさんが来るのは明日の予定だったが、大きめのお肉でローストビーフに挑戦していたので、何とか2人分はあった。

でも、フィーシェさんの分はない。

それにフィーシェさんも、2日か3日は帰って来ないと聞いていたのだ。

どうしようかな?

旅用に作った物でもいいかな?

「やっぱりこの分かりにくい気配は、ウルだったか。どうしてここにウルがいるんだ?」

フィーシェさんが部屋に入ってきながら、ウルさんに片手をあげる。

それに応えるようにウルさんが、軽く片手をあげた。

「早かったな。ウルをドルイドたちに紹介したんだ。これからのために」

「そうなんだ。まぁ、ウルは役に立つからな」

ジナルさんの説明に納得するフィーシェさん。

役に立つとはどういう意味だろう?

何かウルさんは特別なのかな?

あっ、それよりご飯。

「フィーシェさん、お帰りなさい。えっと、旅用に作ったご飯でいいですか?」

お腹はどれくらい空いているかな?

「ん? あぁ大丈夫。昨日、『2、3日、夕飯は要らない』と言ったから、帰って来る途中で食べてきたんだ」

そうなんだ、よかった。

食べ過ぎたのにおやつまで食べちゃったから、少し動きたくなかったんだ。

やっぱりほどほどにしないと駄目だね。

「早く帰ってきたという事は、なにか問題でもあったのか? さすがにこんなに早くは終わらない任務だったと思うんだが」

ジナルさんが、お茶をフィーシェさんに渡す。

「ありがとう。いや、手に入れてきた」

フィーシェさんが持っていたマジックバッグから紙の束を取り出してジナルさんに渡す。

渡されたジナルさんが、少し驚いた表情をする。

「終わったのか? えっ? こんなに早く、教会に忍び込めたのか?」

そんな事をしていたんだ。

無事に帰って来てくれてよかった。

「あぁ、中に潜り込んでいる仲間とすぐに合流出来たからな。その書類は、その仲間が既に手に入れてくれていたんだ」

教会に、ジナルさん達の仲間がいるんだ。

前も思ったけど、ジナルさん達が所属している組織は大きいよね。

村や町には仲間がいるし、保護する宿なんかもある。

組織の上の人は、どんな人なんだろう?

きっと凄く聡明な人なんだろうな。

「彼らが? ちゃんと外部の犯行だと分かるようにしてきたか? 中にいる仲間が疑われたら、危険だ」

確かに裏切り者がいると分かったら、探すために酷い事をしそうだよね。

「それが教会は、4日前に分かったある事のお陰で人の出入りが今通常の3倍近くになっているんだ。出入りしている者達のチェックもかなり疎かになっている。今なら、何を盗んでもある程度は誤魔化せるだろう。それにその書類は複写した物だから、盗まれた事も気付かないはずだ」

フィーシェさんが、ものすごく楽しそうな表情を見せる。

「複写が出来たのか? という事は、教会内はかなり混乱しているんだな。いったい、何があったんだ?」

ジナルさんが不思議そうに訊くと、フィーシェさんが頷く。

「それが……くくっ」

何かを思い出したのか、フィーシェさんが急に笑い出す。

ジナルさんが、戸惑った表情をウルさんに向ける。

「俺の仲間からは何の情報も入ってきてないから、分からない」

ウルさんが肩を竦めると、ジナルさんの視線がフィーシェさんに戻る。

「笑っていないで説明してくれ」

「悪い。すごい面白い表情で、司教が教会内を走っていたのを思い出して……くくっ……」

司教というのは、教会で一番偉い人の事だよね?

その人が、面白い表情で教会の中を走っていたの?

想像が出来ないけど……ちょっと見てみたいかも。

「ふぅ、落ち着いた。えっと、何があったのかだったな。5日前に王都から、カリョの花を見に来た貴族がいた。なんと、あのハリバロウ伯爵だ」

あのハリバロウ伯爵?

「薬物売買に手を染めている可能性があるとして調べられていたが、なかなか尻尾を掴めずにいたあいつだ。ジナルとウルは、もちろんよく知っているだろう? ドルイドはどうだ?」

フィーシェさんの視線がお父さんに向く。

「名前だけは知っている。裏の仕事の関係者からは、あまり関わらないほうがいいと言われている人物だ」

「関わらないほうがいい?」

ウルさんが、お父さんの言葉に首を傾げる。

「弱みに付け込んで、無理な仕事を無報酬でやらせる事があるらしい。ただ、どんな弱みなのか、その事で訴えられた事はないそうだ」

うわっ、最低な貴族だ。

ウルさんも嫌そうな表情をしてる。

「ハリバロウ伯爵は危険を察知するのがうまい。追い込んでも、なぜか逃げられるんだよ」

ジナルさんがため息を吐きながら首を横に振る。

「今回は大丈夫だと思うぞ。かなり重要な取引だったんだろうな。いつもなら、他の貴族を代わりに寄越すのに、本人が動いたんだから。それに、さっき渡した紙の束にハリバロウ伯爵のサインが入った証拠が入ってるから。あぁ、それは原本を持って来て、時間稼ぎで複写の方を置いてきたから」

フィーシェさんの言葉に、ジナルさんが紙の束をパラパラとめくる。

「あぁ、これか。契約書に取引記録? 王都に住む貴族に、かなりクスリを売っているみたいだな。知り合いの騎士にこの書類を渡したら、面白い事になりそうだ」

書類を見ながら、何かを企んでいるような笑みを見せるジナルさん。

今までの鬱憤とか色々晴らしそう。

まぁ、ハリバロウ伯爵という人は自業自得みたいな感じなので仕方ない。

「フィーシェ。ハリバロウ伯爵本人が教会に来たことが、教会が混乱した原因なのか?」

ん?

そう言えば、教会の司教が面白い表情で教会を走っていた原因を聞いていたんだっけ?

あれっ、違うような……あっ、フィーシェさんが教会内部にいる仲間と簡単に接触出来た原因を聞いていたんだった。

「いや、教会が混乱したのは、洞窟に咲き乱れている筈のカリョの花が1本も残っていなかったから」

「「「あっ」」」

ジナルさんとお父さんとウルさんが、同じ表情で私を見た。

いや、カリョの花を枯らしたのはトロンだからね!

「そう言えば、ドルイド、アイビー。カリョの花を枯らしたら、数日後には何も残さず消えると知っていたのか?」

「「えっ?」」

お父さんと私の声が重なる。

何も残さず消える?

「その表情は、2人とも知らなかったみたいだな。カリョの花を見に行ったハリバロウ伯爵が、凄い形相で教会に帰って来て『花が咲いた形跡さえないが、どういう事だ! 騙したのか!』と、怒鳴っていたのを仲間が聞いているんだ」

「カリョの花畑をトロンが枯らしたのは2回目なんだ。だからよく分かってはいないんだ」

お父さんが私を見るので、頷く。

前の時も、教会の関係者がかなり焦っていたのは知ってるけど、枯れた後のカリョの花畑がどうなっていたのかは知らない。

「花が咲いた痕跡がないか……朗報か?」

ジナルさんの言っている意味が分からず、彼を見る。

視線が合うと笑ってくれたが、なんだかその笑みが黒い。

何か思いついたみたいだ。

「花が咲いた痕跡さえなかったのは驚きだが、よかったかもしれない」

「『よかった』ですか?」

首を傾げると楽しそうにジナルさんが笑う。

「あぁ。花の咲いた痕跡がなければ、どんなに司教が花はあったと言っても全て嘘に見える。仲違いさせるのにとてもいい状態だ」

仲違いか。

ハリバロウ伯爵は実際に洞窟まで花を見に行ったみたいだから、花がない事は自身の目で確かめている。

司教が何を言ったとしても、全て嘘で誤魔化しているように見えるだろうな。

「さて、この機会をどう活かすかな」

ジナルさんとフィーシェさんが本格的な話を始めたので、お茶やお菓子の後片付けを始める。

これ以上は聞いても、協力できないしね。

「楽しそうだな」

呆れた表情のお父さんの視線の先には、教会関係者とハリバロウ伯爵をどう誘導して追い詰めるかを話し合っているジナルさんとフィーシェさん。

2人とも、すごく楽しそうだ。