作品タイトル不明
番外編 ジナルさんとプラフさん
玄関を開けると、プラフが焦った表情で立っているのが見えた。
それほど時間が経ったわけではないが、ギルマスや補佐達に何かあったのか?
「どうした? 急変でもしたのか?」
「いえ、それは大丈夫です。なかなか戻って来なかったので、何か問題が起きたのかと思いまして……」
プラフの様子に首を傾げる。
かなり不安そうだな?
あっもしかして、治療方法が見つかったのに「待った」を掛けたから、治療に協力する気がないと思われたのか?
魔石の所有者については話せないから「少し用事がある」とだけ言って出たもんな。
「あの……」
「あぁ、用事は済んだ。治療を始めようか」
あからさまにホッとした表情のプラフに、済まなく思う。
「行こう」
早急に治療して安心させるのが一番だな。
「はい」
極秘で治療が行われている場所に向かいながら、密かに周りの気配を探る。
やはり、いるな。
プラフには必ず見張りがついている。
今日は、2人? いや、3人か?
多いな。
昨日は1人だったから、トルラフギルマスが治った事が外に漏れている可能性があるな。
治療が行われている場所は、ギルマスたちが持っていた隠れ家の1つだ。
中に入れる者は、限られている。
医者と補助員、後はプラフの補佐をしている冒険者ギルドの職員1人だ。
プラフを合わせると全員で4人。
この中に情報を漏らしている者がいるという事か。
「それにしても……下手だな」
見張り役の3人は、動きだけで考えれば素人ではない。
だが、見張りをするには技術が足りていない。
町や村では、気配を消そうとするのは逆効果だ。
俺のように気配に鋭いと、逆にそういうのは目立つ。
気配を小さくする時に、どうしても気配が不自然な揺れ方をするからな。
マジックアイテムを使って完全に気配を消すなら目立たないだろうが、どんなに技術を磨いても気配を完全に消す事は出来ない。
だから村や町では、周りの気配に自分の気配を紛れ込ませるのが一番いい方法だ。
まぁ、これはかなり難しいけどな。
難しいはずなんだけど、アイビーが少し出来るんだよな。
まだ、完璧には出来てないけど。
どうやって覚えたのか、ドルイドも知らないと言っていたな。
バレないようにそっと見張り役の1人を見る。
見た目は村人風に変装しているな。
それだったら下手に気配を隠そうとせずに、堂々としていた方がバレないんだけどな。
まぁ、バレているのを知られるともっと面倒な事になるから今は無視だな。
それに、俺の仲間がいるはずだ。
奴が見張り役の身元を調べてくれるだろう。
「ジナルさん?」
「どうした?」
「何か必要な物でもありましたか?」
「いや、大丈夫だ」
隣を歩くプラフをちらりと見る。
時々、異様に鋭い時があるよな。
こいつが、敵なのか味方なのかいまいちわからない。
「あの、せん――」
「ここでする話ではないな」
誰が聞いてるか分からない所で「洗脳」についての話は止めてくれ。
焦ったじゃないか。
「すみません。俺は大丈夫だと聞いたんですが怖くて」
プラフを見ると、顔色が悪い。
これが演技には見えないんだよな。
でも、洗脳されていなかった事が気になる。
ドルイドもその点を気にしているからな。
「ん?」
ドルイド?
今、何かが気になったな。
……なんだ?
ドルイドで思い出すのは……あっ、スキルだ。
特殊なスキルが原因で上位冒険者にならなかった。
もしかして、プラフは洗脳に掛からないスキルでも持っているのか?
突飛な考えだが、ありえない事も無いよな。
大通りから3回角を曲がると、目的の場所が視界に入る。
ここなら周りに人がいないし、訊いても大丈夫かな?
隠れ家に行ってしまうと、医者が確実にいるからな。
それよりも、どう訊けば話してくれるかな?
とりあえず、直球勝負をしてみるか。
「プラフは特殊なスキルでも、持っているのか?」
「えっ? スキルですか?」
プラフの様子をじっと見つめると、戸惑っているのが分かった。
ただ焦っている様子は無い。
隠す必要があるスキルは持っていないのか?
「そう、スキル。人とは違うスキルを持っているのかと思ってな」
「どうして分かったんですか?」
冒険者ではないからか?
スキルに対して無防備だな。
それとも、そんなに気にするスキルじゃないのか?
「何となくだが。持っているのか?」
まさかこんなに簡単に分かるとは思わなかったな。
「何となくですか? ジナルさん程の冒険者になるとすごいんですね」
冒険者とは違う反応だよな。
「たまたま当たっただけだから。それで特殊なスキルは持っているのか?」
「えぇ、あるにはあるんですが、意味が分からないので特殊なのかも不明ですが」
意味が分からないスキル?
「『スルー』というスキルなんですが」
ん?
「するー?」
初めて聞くスキルだな。
「はい。こう書きます」
プラフが自分の掌に文字を書くのを見つめる。
新しい言葉の方で「スルー」か。
これのせいで洗脳から免れたのか?
しかし意味が分からないからな。
特殊なスキルを持っているドルイドだったら、分かるかな?
後で確かめてみるか。
「あの、これの意味が分かりますか?」
期待した表情を見せるプラフには悪いが、首を横に振る。
「いや、初めて見るから分からない」
「そうですか」
あっ、落ち込んでしまった。
スキルを持っていても、意味が分からなかったらどうする事も出来ないからな。
「失礼します。ジナルさんが治療に来てくれました」
隠れ家の玄関を開けて中に入ると、プラフは奥に向かって声を掛ける。
いや、俺が治療するわけじゃないんだが……。
「お邪魔します」
奥の部屋に向かおうとすると、外に仲間の気配を感じた。
来る予定になっていたが、早いな。
「プラフ。1人仲間が協力してくれると言っているんだが、ここに来てもらっていいか?」
「えっ? ジナルさんの仲間の方ですか?」
「あぁ、昨日たまたまこの村で会ったんだ。助けになるから、呼んだんだがいいか?」
プラフは少し考えるそぶりを見せたが頷いてくれた。
良かった。
「すぐに連れてくるよ」
「えっ? 近くに来ているんですか?」
「あぁ、気配を感じたから近くにいるはずだ」
「えっ、気配?」
驚いた声を出すプラフに笑みが浮かぶ。
「すぐに戻る」
建物から出ると、そのまま曲がり角まで歩く。
「どうだった?」
角に立っていた仲間のウルに、片手をあげる。
「3人とも、自警団の団員だ」
ウルの言葉にため息を吐く。
見張り役が自警団だとは。
「一緒に来てくれ」
「了解。で、プラフという奴はどっちなんだ?」
「不明。洗脳から逃れたのはスキルかとも思ったんだが……。『スルー』というスキルに聞き覚えは?」
「するー?」
ウルが首を横に振る。
無いか。
「それが洗脳と関係ありそうなのか?」
「もしかしたらという奴だ」
「なるほど。ところでジナル、そろそろ寝た方がいいんじゃないか?」
まさかウルにまで言われるとは。
そんなにひどい顔になっているんだろうか?
右手で顔を撫でる。
「魔石での治療中に寝るから、なにかあったらよろしく」
「分かった。それ以外の注意は?」
「医者と補助員の動きだな。どちらかが外に情報を漏らしているかもしれない」
俺の言葉に嫌そうな表情を見せたウル。
裏切りとか嫌いだからな。
「冒険者ギルドのギルマスはどうなんだ? 昨日治ったんだろう?」
「どうかな?」
建物の中にいる事は気配で分かったが、健康状態は会わない事には分からないからな。
まぁでも、ソルとフレムが作った魔石で治療されたんだ。
元気だろう。