作品タイトル不明
586話 魔石の力
「お待たせして、ごめんなさい」
食事をしている部屋に入ると、ジナルさんが笑顔で手を振ってくれた。
それほど待たせずにすんだのかな?
「大丈夫。疲れているのに、起こしてごめんな」
首を振って、ジナルさんの前の席に座るとお父さんがお茶を出してくれた。
「ありがとう」
一口飲むと、ちょっとホッとする。
落ち着いた状態でジナルさんを見ると、少し困っている事に気付いた。
いつもはもっと上手に隠すのに、どうしたんだろう?
首を傾げて彼を見ていると、視線が合う。
「ははっ。俺もちょっと戸惑っててさ」
「どうしたんですか?」
ジナルさんをここまでおかしくさせる事が、昨日の夜中にあったという事だよね。
仲間の人達に何かがあったにしては、悲しんでいる様子は無い。
なんていうか、興奮を無理やり落ち着かせているような?
「えっと、まずはお礼をしないとな」
お礼?
「仲間は全員が洗脳状態だったが、無事に解けたから。魔石を貸してくれてありがとう」
「いえ、お役に立ててよかったです。というか全員だったんですか?」
「あぁ、全員が洗脳されてたよ。それと、魔石が洗脳を解いているのを見て分かったんだが、洗脳期間が長いと黒い線は長くなるみたいだ。一番下っ端の仲間が一番長くて、それ以外の奴らの倍の時間が掛かった」
「そうなんですね」
あの黒い線は何なんだろう?
体の中で何をしているんだろう?
「洗脳されていた者の中に、『心眼スキル』を持っている者がいるんだが、奴が『いきなり意識がはっきりしたと思ったら、不思議な空間で魔法陣の上に鎖で固定されていて動けなかった。魔法陣から黒い煙のような物が出て、描かれていた文字や模様が消えていくと鎖がボロボロになって、体が動いたと思ったら、ベッドで目を覚ました』と言っていた」
心眼スキルは確か「目に見えない真実を確かめる力」があるスキルだよね。
という事は、スキルを通して見たのかな?
「心眼スキルか。かなりレアなスキル持ちだな」
「そのせいで、命を狙われたがな」
ジナルさんがため息を吐くと、お父さんが苦笑する。
「知られたくない事が、全て知られる可能性があるからな。犯罪者には恐ろしいスキルだろう」
「だが、心眼スキルには欠点がある」
欠点?
もしかして、星の数によって部分的にしか真実が確かめられないとかかな?
部分的だと、間違った解釈をする事もありそうだな。
「『心眼スキルは、自分の意思では使えない』だったよな?」
「えっ?」
考えていた事とまったく違った欠点に、お父さんを凝視してしまう。
私の視線に気付いたのか、お父さんが頷く。
「心眼スキルは確かにすごいスキルだ。だが、自由に扱えないスキルでもあるんだ。聞いた話によれば、何もない時に急にスキルが動く事もあるらしい。まぁ、本当なのかは知らないが」
お父さんが、ジナルさんに視線を向ける。
「本当の事だ。そのせいで奴は、知らなくてもいい事を知ってしまって、一時期人間不信になりかけていたからな。すごいレアなスキルだが、厄介なスキルの1つだ」
困った表情で話すジナルさんにお父さんが頷く。
自由に扱えず勝手に動くスキル。
確かに厄介だ。
「それより、全員無事に元通りになったんで、今日からまた色々調べてくれているよ。それで、もしもの時のために魔石を置いて来てしまったんだが……」
「それは別に構いませんよ」
調べるという事は、洗脳した人物にまた近付く可能性がある。
せっかく洗脳から解けたのに、再度掛けられたら大変だ。
「あれ? もう1つの魔石は役に立ちました?」
中心部分が青く、周辺が綺麗な透明の魔石。
フレムが作った2個目の魔石は、どうしたんだろう?
「それについて、謝る事があるんだ」
ジナルさんが机の上に、魔石を置いた。
真ん中が青い魔石。
でも、私が知っている魔石とはその周辺が変わっていた。
昨日は確かに綺麗な透明だったのに、今はうっすら白く濁っている。
「何があったんですか?」
「昨日仲間の元からここに戻ろうとしたら、酷い顔色のプラフに会ったんだ」
ギルマス代理の仕事は大変なのかな?
「様子がおかしいから話を聞いたら、ギルマスの容態が一気に悪化して医者に「限界がきている」と判断されたと」
ギルマスさんが……。
「最後にどんな状態なのか確認したくて、ギルマスに会いに行ったんだ。かなり痩せて酷い状態だったよ。傷は膿んでいたしな」
酷いな。
麻薬中毒者はポーションが効きにくいけど、少しは効くはず。
なのにギルマスさんにはまったく効かない。
絶対におかしいよね。
「ギルマスに近付いた時に、その魔石が反応したんだ」
これ?
テーブルの上の魔石を見ていると、ジナルさんが魔石を手に取る。
「この魔石はズボンのポケットに入れていたんだが、ギルマスに近付いた瞬間に光と熱を発したんだ」
光と熱。
「ポケットから出すと、ギルマスに吸い寄せられるように手から転がった。今思い出しても不思議なんだ。しっかり握っていたはずなのに、なぜか手から落ちたんだ」
ジナルさんが魔石を何度か手で握って見せる。
それほど小さくない魔石。
というか、大きさから言えば握りやすいと言えるかもしれない。
それが、手から零れ落ちた?
「すぐに魔石を拾おうと思ったんだが、ギルマスを包み込むように魔石から柔らかい光が溢れて……。何が起きているのか、どうしていいのかわからずに、そのまま様子を見る事しか出来なかった」
それは、そうだろうな。
ギルマスさんに何が起こっているか分からない状態なんだから。
「20分くらい、光に包まれているギルマスを見ていたかな。光が消えて、ギルマスの様子を見ようと近づいたら、ギルマスと目が合ったんだ。くくっ、目が合った瞬間にすごい殺気を飛ばされたよ。どうやら敵だと思われたみたいで」
目覚めてすぐに殺気?
「あれは驚いたな。ほんの少し前まで意識が無かった筈なのにさ。まぁ、すぐにプラフが止めてくれて落ち着いたけど」
「もう大丈夫なんですか?」
ジナルさんの様子から、大丈夫のような気もするけど。
心配そうな表情でもしていたのか、安心させるようにジナルさんが私の頭をポンと撫でる。
「あぁ。その後、医者に確認させた。傷は完全に治っているし、クスリの中毒症状も収まっているそうだ」
「そうなんだ。よかったです」
これでプラフさんも安心だね。
そういえば、プラフさんは洗脳されていなかったのかな?
「あの、プラフさんは洗脳されてなかったんですか?」
「不思議な事に、洗脳されてなかったんだ。魔石を握らせてみたが、無反応だった」
「そうですか。よかったです」
冒険者ではなかったから、狙われなかったのかな?
でも、たとえそうでも今はギルマス代理だ。
狙われると思うんだけどな。
「話していたら、落ち着いたな」
えっ?
ジナルさんを見ると、何度か頷く姿が見えた。
「それでアイビーにお願いがあるんだ」
「はい」
何だろう?
「既に使っておいて申し訳ないが、ギルマスと同じ症状の者に魔石を使う許可が欲しいんだ」
「どうぞ」
それはもちろん、どんどん使ってください。
「……前々から思っていたが、少しは考えた方がいいぞ。有償にするとか、契約を交わすとか。無断で使ったんだから注意をするとか」