作品タイトル不明
582話 変?
お父さんの隣に座ると、向かいに座っているジナルさんがお茶を出してくれた。
「ありがとうございます」
「もうじき夕食だし、おやつは食べてきたみたいだから、お菓子を出すのは止めておくな」
頷くと、なぜかジナルさんに頭を撫でられた。
なぜ?
「冒険者たちの様子は?」
「ホルが駆けつけて落ち着かせたと連絡が来たから、もう大丈夫だと思うが、怪我人が多数出てるらしい」
ジナルさんの説明にお父さんがため息を吐く。
確かにこんな時に怪我人が出るのは困るよね。
暴走した魔物がいる以上、ポーションだってこれからの事を考えて無駄には出来ない。
「酷い怪我なのか?」
「剣で刺されている者もいるらしい」
「最悪な状況だな」
お父さんがため息を吐くと、ジナルさんもため息を吐いた。
「死者が出なかっただけ良しとするか。それより、会えたのか?」
会えた?
ジナルさんは誰かに会う予定だったのかな?
ジナルさんを見ると、なぜか寒気を感じさせる笑顔を浮かべている。
「怖いな。何かあったのか?」
「あぁ。ここで活動している仲間にクスリを盛った奴がいる。体内に入ったのは1回で、発見が早くてすぐに対処が出来たから、軽い中毒症状で済んだみたいだ」
盛った?
「クスリはいつ盛られたんだ?」
「それが本人達にはさっぱり分からないそうだ。仲間たちが集まる場所に帰ってきた時に、体質的にクスリと合わなかった者がいたみたいで、痙攣をおこして倒れたんだ。すぐに医者を呼んで調べたら、クスリの痕跡が体内から見つかって、クスリを盛られた事に気付いたらしい」
痙攣をおこしたって事は拒絶反応かな?
もし体質に合わない人がいなかったら、気付くのが遅くなって中毒症状が重くなった可能性もある。
殺すため?
クスリで?
時間が掛かり過ぎるか。
だったら、何のために?
「そうか。倒れた者も無事なのか?」
「何とか。同じ建物に医者が居てくれて良かったよ」
それは運がいいな。
「ジナルの仲間は、麻薬組織を調べていたのか?」
「あぁ。ここ1ヶ月は他の調査は全て止めて、麻薬組織の調査に集中していたらしい」
「という事は、麻薬組織に動きがばれたから、クスリを盛られたという可能性もあるな」
中毒患者にして調べられないようにするという事?
……ちょっと無理があるんじゃないかな?
「それが、変なんだ」
変?
「クスリを盛られた仲間は3人なんだが、彼らは後方支援で直接的には麻薬組織の調査はしていないんだ。もし麻薬組織に調べている事が知られたんなら、実際に調べている者達が無事なのはおかしい」
わざわざ後方支援の人を狙う必要はないよね。
警告?
いや、組織の事が外に漏れたら困るんだから、忠告なんてせずにすぐに始末しに来られそう。
となると……狙った理由が分からないな。
「それと、3人以外にもクスリを盛られた者達が見つかっている」
「他にも?」
不思議そうなお父さんにジナルさんが頷く。
「あぁ。分かっているだけで、仲間以外に10人。仲間達と面識がある者は1人だけだった」
「そうか。仲間3人とクスリを盛られた10人に、なにか共通点はあるのか?」
ジナルさんが首を横に振ると、お父さんの眉間に皺が寄る。
「仲間たちが調べたんだが、狙われるような共通点は無かったそうだ。各々を詳しく調べても、1人以外は普通の村人でクスリで狙われるような存在じゃなかったと判断された」
1人以外?
「クスリを盛られた者の中には、前日にこの村に到着した商人もいたらしい」
そうなると……無差別?
麻薬組織の者が無差別で?
「1人は、狙われても当然の人物だったのか?」
お父さんの言葉に、ジナルさんが苦笑する。
「いや、商業ギルドが抱える鑑定士だ。結果が思わしくなかった者達の、逆恨みもあるかと思ってな」
鑑定士か。
確かに、持っていた物が思ったより価値が無かったりすると、恨む人もいるよね。
「他に考えられるのは……俺たちがまだ調べきれていない何かがあるか。もしくは……」
「目くらまし?」
誰か特定の人を狙っている事を知られないために、無差別にクスリを盛ったとか?
でも、この考えは怖いな。
「アイビーが言ったように、目くらましもあり得ると思っている。あとは何かの実験台にされたとかかな」
実験台?
クスリで実験?
無差別より怖いな……。
「ジナル。アイビーを怖がらせるなよ」
「あっ、悪い」
「いえ、怖がってはいないので」
ただ、人を実験台に出来る人がいると思ったら悲しくなっただけ。
「そうだ、噂はどうだった?」
ジナルさんがお茶を入れ直して、お父さんと私の前に置く。
ほんのり甘いお茶は、気持ちを落ち着かせてくれるなぁ。
「ありがとうございます」
「ありがとう。両ギルマスの噂が多くなっているみたいだ。姿が見えなくなってから少し経つからな。しかも今は、暴走した魔物の事があって不穏な状況だ。二人の姿が見えない事で、村民の不安が増しているようだ」
「そうか。俺が聞いた噂も冒険者ギルドのギルマスの事だったな。そういえば、商業ギルドのギルマスについてはあまり聞かなかったな」
確かに商業ギルドのギルマスさんの噂より、冒険者ギルドのギルマスさんの噂の方が多かったな。
「暴走した魔物の不安から、冒険者ギルドの噂が多くなっているんだろう」
今は助けてくれる人の情報の方が、気になるという事か。
「あとは、中位冒険者以上の全員が村から出ていったことを怪しんでる噂があったな」
「その噂か。プラフが決定する前に、既に決められていたらしい。どうも、この村から強い冒険者を追い出したかった者達がいるようだ」
追い出したかった者達?
暴走した魔物が暴れているのに?
それって、この村の人達を危険にさらしてもいいと思っている人がいるって事?
「理由は?」
「まだ証拠は無いが、金が絡んでいるみたいなんだ」
ジナルさんの返答に、嫌悪感を見せるお父さん。
「麻薬組織から、金をもらっている可能性があるという事か?」
「そうだ」
ジナルさんの言葉に、眉間に皺が寄るのが分かる。
お金欲しさに、村の人を危険にさらしているという事か、許せないな。
まさか、森にゴミを放置したのはその人達なんじゃ。
暴走した魔物を誕生させて、冒険者をその対処に向かわせるために……。
いや、それは考え過ぎだよね。
だって、一歩間違えれば村を失う事になるし……まさかね。
「そういえば、アイビーが面白い噂を聞いてきた」
「えっ、私?」
ジナルさんが私を見る。
えっと、どの噂だろう。
「あっ、教会がお茶会を開いて村の人を招いているという話?」
お父さんを見ると、頷いたので合っているようだ。
「教会でお茶会?」
「はい、40代ぐらいの女性たちが話してました。『マシンさんが教会から招待されたらしいわよ』と」
「教会に招待ね」
怪しそうな表情をするジナルさん。
その気持ちはすごく分かるな。
「その人達の話から、お茶会は有名みたいで、招待されると自慢できるようです」
私だったら、拒否反応を起こしそう。
「ドルイドは怪しいと思っているのか?」
「あぁ」
私もお父さんと同じ意見だな。
私が知っている教会の事を考えると、なにか利益があるからお茶会を開いているのだと思う。
でも、その利益が何かは分からないけど。
「なんだと思う?」
「さぁな。ただ、クスリ関係ではないかと思っている」
やっぱりお父さんも、クスリと教会は繋がっていると思っているのか。
お茶会でクスリを盛る?
……バレる可能性が大きいから、違うな。