軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

581話 お気に入り

「お帰り」

プラフさんから借りた隠れ家に入ると、ジナルさんがいた。

それ以外の人は、誰もいないのか気配を感じない。

「ジナルだけか?」

「あぁ、風呂を沸かしておいたから入るといいぞ。ん?それって『香りシリーズ』か?」

お父さんが持っているカゴを見て、ジナルさんが嬉しそうに笑みを見せる。

ジナルさんも、この店の甘味が好きなのかな?

「あぁ、とりあえず人数分は買ってきたから」

「それは嬉しいな。この村に来たら絶対に買うんだよ。というか、人数分かぁ」

「そうだけど。もしかしてジナル達だけじゃないのか? ここ使うの」

「ガルス達もここを使う事になったんだ。寝る時は、離れだけどな」

離れ?

ジナルさんが指す方を見ると、窓からこの建物より少し小さく見えるもう1つの建物が目に入った。

「そうなのか」

「ドルイド達が出ていったあとで決まったからな。悪いな。数が足りないなら、買ってくるけど」

「いや、大丈夫だ」

お父さんの言葉に首を傾げるジナルさん。

「いったい、何個買ってきたんだ?」

「最終的に何個だったかな? 1人全種類で……」

「はっ? まさか全種類を4人分買ったのか?」

「いや、5人分」

「5人分? アイビーが2個ずつ?」

「いえ、お父さんが2個ずつです」

当然というように頷いたお父さんに、ジナルさんが苦笑する。

「かなり気に入ったんだな」

「みたいです」

私がジナルさんに賛同すると、お父さんが肩を竦めた。

お肉と辛み以外に、ここまで気に入るのは本当に珍しい。

「そういえば、食材は買えたのか?」

「はい。トトムさんのお店で買えました」

「トトム? あぁ、あの店か。主人が気に入らないと売ってくれないんだよな。売ってくれても他の客より高かったり。アイビーの様子からいい買い物ができたみたいだし、主人に気に入られたな」

あっ、やっぱりトトムさんの判断で値段に違いがあるのか。

「プラフの紹介だから卸値でいいぞ」と言われた時に、まさかと思ったんだよね。

でも、本当にトトムさんの一存で値段が変わるんだ。

それでよく商売出来るな。

「不思議だろう?」

「はい」

私の表情を見て楽しそうに笑うジナルさん。

「主人の目利きが凄いらしい。あそこで買う商品に間違いはないと言われていて、周辺の飲食店や屋台は全てあの店を通して商品を購入するらしいから」

凄い信頼だな。

「そうだ、調理場はこの奥に広いのがあるから。あと、この建物の中にある物は何でも使っていいそうだ」

「分かった。アイビー、とりあえず食材を調理場に置いてから部屋を選ぶか」

「うん」

ジナルさんと別れて、教えてもらった調理場へ行く。

「凄い、広い」

調理場はかなり広く、ゆったりと料理が作れそうだ。

「ゆっくり見たいだろうけど、あとでな」

そうだった、まずは寝る部屋を決めないと。

お父さんと2階に上がると部屋の扉が並んでいた。

そういえば、ジナルさん達はどの部屋を使うんだろう。

「ジナルとフィーシェはこの部屋と、隣の部屋を使うみたいだな」

お父さんが指す部屋を見ると、扉に名前が書かれた紙が貼られていた。

分かりやすいけど、なんだか笑える。

お父さんと笑いながら、2人が使う部屋を通り過ぎる。

「1つ間を挟んで、部屋を借りるか。アイビーは隣でいいか?」

あっ、そうか。

これだけ部屋数があるから、お父さんと別々に泊まるんだ。

何だろう、すごく久しぶりのような気がする。

「アイビー?」

「あっ、うん。隣でいいよ」

「どうしたんだ?」

どうした?

たぶんこれは……。

「久しぶりに1人で部屋に泊まるから、寂しいというか違和感を覚えるというか」

「そういえば、そうだな。久しぶりだな、別々の所で寝るのって。俺の家に泊まった時以来か?」

そうなるのかな?

宿では一緒だし、テントも一緒。

……そうか、本当にずっと一緒だったんだ。

それは、違和感を覚えるよね。

「寂しくなったら、部屋に来てもいいぞ」

「ははっ」

お父さんは笑って言ってくれるけど、本当に寂しくて行っちゃいそうだな。

「あっ、風呂がどうなっているか聞きそびれたな」

「えっ? 沸かしてくれたみたいだけど」

「そうじゃなくて、風呂の数だよ。1つなら順番に入るけど、2つなら待つ必要もなく入れるだろう?」

そっか。

ここは宿ではないんだった。

いつもの感覚で「男湯」と「女湯」があると思ってた。

「部屋を整えたら風呂の様子を見てくるな」

「分かった。皆にご飯をあげとくね」

お父さんと別々の部屋に入って、ソラたちが入っているバッグを開ける。

「ぷっぷ~?」

「待たせてごめんね。ポーション出すから、待ってね」

ソラたちのポーションをマジックバッグから取り出す。

中身を確認すると、まだまだ在庫には余裕があった。

「そっか。違法な捨て場で拾ったポーションがあったんだった」

これだったら、まだ捨て場に行く必要はないかな。

いや、もしかしたらすぐに出発するかもしれないし、マジックバッグをいっぱいにしておいた方が安心だよね。

「ぷっぷ。ぷ~?」

ソラの声に手が止まっている事に気付く。

「ごめん。えっと、ソラ達のポーションはこれぐらいでいいかな? あとはマジックアイテムだね。

ソル待ってね」

「ぺふっ」

ソラとフレムが嬉しそうにポーションを食べ始めたのを確認して、マジックアイテムが入っているマジックバッグを開ける。

こちらも、違法な捨て場で大量に手にいれる事が出来たので、マジックバッグの中はいっぱいだ。

「これとこれ、こっちとこれも。今はこれぐらいでいいよね」

マジックバッグからマジックアイテムを取り出す。

マジックアイテムの中には、重い物もあるため結構大変な作業だ。

ソルが嬉しそうにマジックアイテムを食べ始めた。

しゅわ~、しゅわ~。

しゅわ~、しゅわ~。

ぐしゃ、ぐしゃ、しゅわ~、しゅわ~。

皆元気に食べてるね。

シエルは、元に戻って既に寝てるか。

「シエル」

「にゃうん?」

「後でブラッシングさせてね」

「にゃうん!」

嬉しそうだ。

良かった。

コンコン。

扉を叩く音に、シエルの耳がぴくぴく動く。

可愛いな。

ソラ達は一切気にせず、食事を続けている。

もう少し気にして欲しいかも。

例え、扉の向こうの存在が誰か気配で分かっていたとしてもさ。

「はい」

「アイビー、俺だ」

扉を開けると、お風呂の準備を終えたお父さんがいた。

「風呂は2つだったから、一緒に行こうか?」

2つあるんだ。

この建物は、何のために作られたんだろうな。

お風呂の準備をして向かうと、風呂場の扉の前で笑ってしまった。

風呂場へ続く扉には、紙一杯に書かれた「男」「女」の文字。

ジナルさんの優しさなんだろうな。

「ゆっくりしてきていいからな」

「うん」

風呂場に入ると、綺麗に掃除されていた。

もしかして、ジナルさんが洗ってくれたのかな?

「まぁ、いいか。久しぶりのお風呂!」

暑い季節だから、汗が気になって体は毎日拭いたけど、やっぱりお風呂にはかなわない。

体を2回と、髪を3回洗ってから、湯船につかる。

うわ~、気持ちいい。

「明日は洗濯物を洗って、後は……旅用の食事を作って……」

気持ち良くて寝ちゃいそう……。

いやいや、寝ちゃ駄目。

前に寝てしまって溺れかけたからね。

お風呂を出ると、どこかから声が聞こえた。

この声は、お父さんとジナルさんだ。

どこだろう?

「アイビー、こっちだ」

「お風呂、ありがとうございます。どうしたんですか?」

最初に入った部屋で話し込んでいた2人。

少し表情が険しいかな?

「ホル達は無事に村に入って、冒険者ギルドで手続きが終わった、と連絡があった」

無事、入れたんだ。

良かった。

「ただ、門の外にいる下位冒険者たちを落ち着かせるために、騎士2人を向かわせたんだが遅かったみたいだ」

「遅かった?」

「あぁ、恐怖と混乱で下位冒険者同士のかなり酷い乱闘があったみたいだ」

恐怖心に負けてしまったのか。

怪我とか、大丈夫だったかな?