作品タイトル不明
566話 酔ってる? 酔ってない?
「あれ? お父さん、この場所に入るのにシエルが壁を壊したよね? 見張りの人たちはどうやってこの場所に出入りしていたの?」
ここから出る時もシエルが穴を開けてくれた。
つまり、この場所は隠されていた。
という事は、どこかに秘密の出入口があるんだ。
でも、穴を開けて入る前にジナルさんとフィーシェさんが崖を入念に調べていた。
見逃したのかな?
「あぁ、それはマジックアイテムを利用していたんだ」
マジックアイテム?
ジナルさんが小さな鍵を目の前に出す。
普通の鍵に見える。
あっ、でも、手に持つところに小さいデザインがある。
でも、普通の鍵との違いはそれぐらいだ。
「これは、かなり珍しいマジックアイテムだ。崖や岩の中に空洞があれば、そこに出入りするための出入口を作ってくれるんだ。これのすごい所は、出入口部分を直接触っても魔法で調べても、見つけられないんだよ」
そんなすごいマジックアイテムなんだ。
鍵は、一見普通に見えるのに。
「それ、世界に10個も無いって言われてないか?」
えっ!
10個も無いマジックアイテムなの?
お父さんを見ると、眉間に皺を寄せて鍵を見ている。
「そう。かなり資金のある組織が、麻薬に携わっているという事だ。金のある組織は厄介だ」
ジナルさんが、カギを見て嫌そうな表情をすると、ため息を吐いてそれをポケットに入れた。
厄介か。
確かに、お金がある組織は厄介だよね。
あと、権力を持っている組織も。
「にゃ~」
シエルの声に、お父さんとジナルさんが剣を持って穴から出ていく。
フィーシェさんとその後を追うと、シエルが走り寄ってくる。
「お帰り、何もなかった?」
「にゃうん」
何だか、すごく機嫌がいいように見える。
尻尾の揺れもそうだし、何より声が弾んでいる。
「シエル、何かいい事でもあったの?」
「にゃうん!」
あったんだ。
でもシエルは、暴走した魔物を探してくれていたんだよね。
シエルの機嫌がよくなる事なんてあるかな?
「暴れたなぁ」
フィーシェさんの言葉に視線を向けると、私とは反対方向を見ていた。
「あっ」
少し離れた場所に積みあがっている魔物。
ピクリとも動かないので、既に死んでいるようだ。
「暴れて帰って来たんだね」
「にゃうん」
シエルを窺うと、目をキラキラさせて私にすり寄ってくる。
これは褒めてという事なんだろうな。
もう一度、積みあがった魔物を見ると最低でも6匹はいるようだ。
シエルの全身を見る。
血が出ている場所も無いし、歩き方もいつも通りだ。
「ありがとう。お疲れ様」
「グルルル」
本当に機嫌がいいな。
体を動かすことが好きなのは知っているけど、ちょっと機嫌がよすぎるような気がするな。
「戦闘していたんだよな」
「そうだろうな」
「ドルイドは、気付いたか?」
「……いや、全然」
ジナルさんとお父さんが、神妙な表情で積みあがった魔物を見ている。
それに首を傾げる。
「あれは悔しいんだぞ」
フィーシェさんの楽しそうな声に、お父さんたち2人が嫌そうな表情になる。
「悔しい?」
何が悔しいんだろう?
もしかして、シエルが魔物と戦っている事に気付けなかった事?
そういえば、どうして気付かなかったんだろう?
「戦えば木々が揺れたり、魔力が揺れたりする。なのに、気付かなかったからな」
そう。
戦ったら絶対に、音や魔力で気付く。
それなのに、どうして気付かなかったんだろう?
シエルを見ると、すごく満足そうな表情をしている。
「もしかして、ばれないように戦ったの?」
まぁ、そんな事は無いんだろうけど。
「にゃうん」
えっ、そうなの?
「なんで、わざわざそんな事をしたの? 意味があるの?」
私の質問に首を傾げるシエル。
これは意味は無いって事なのかな?
ならどうして、そんな手間をかけたんだろう?
「面白そうだからとか?」
「にゃうん」
えっ?
聞いたお父さんが驚いている。
と言うか、まさかそんな理由で?
シエルを見ると、やはり満足そうだ。
「本当に、面白そうだったから?」
「にゃうん」
なんだか、いつものシエルと少し違う。
シエルは強い。
でも、音をさせず魔力の揺れもさせないで倒すなんて、かなり大変な事だ。
今までは私が心配している事を知っているから、無謀な事はしなかったのに。
「まさか、カリョの花の臭いに酔ったのか?」
「えっ?」
ジナルさんがシエルの傍によると、両手でシエルの顔を触る。
目のあたりを重点的に見ているようだ。
「少し目が赤いか?」
ジナルさんの隣からシエルの目を見る。
言われてみれば、いつもよりほんの少し赤いかもしれない。
でも、本当にちょっとだけだから、ジナルさんが言うまで全く気付かなかった。
「カリョの花の臭いに、そんな作用があるなんて聞いた事は無いが」
お父さんが、ポンとシエルの頭を撫でる。
「カリョは危険な麻薬だから、どんな些細な情報でも集めているんだ。まだ、分かってない事もあるからな。集まった噂の中に、『カリョの花の臭いに魔物が興奮する』と言うのがあった。ただ、その噂が流れたのは、ほんの一部の人間にだけだったから、信憑性に欠けると判断されたんだ。噂を流したのが中毒者だったこともあるしな。だから知らなくて当然だ」
「にゃうん?」
シエルが首を傾げてジナルさんを見る。
「あの、シエルは大丈夫ですか?」
「酔っているだけだから、大丈夫だろう。動きもおかしくないし、意識もしっかりあるしな」
「にゃうん」
それなら、大丈夫かな。
それにしても酔って興奮してる状態で、音も魔力も動かさずに倒すってすごいよね。
普通は、興奮したら動きが激しくなりそうなのにな。
狩りの本能とか?
あっ。
「ソラたちがいつもと違った遊びをしたのも……」
いや、あの子たちは時々思いもよらない事を始める。
あれが酔ってやった事だとは、断定できないか。
「ソラたちのは判断しにくいな」
お父さんが壁の穴から出てきたソラとフレムを見る。
「うん」
酔って興奮しているように見えるけど、通常通りのような気もする。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
……やっぱり、分からないな。
「さて、シエルの様子を見ながら、後処理をしていくか。魔物もカリョの根もあのままじゃ駄目だからな」
ジナルさんが、シエルの頭を撫でる。
少し興奮が落ち着いてきたのか、尻尾の動きがゆっくりに変わっている。
「ジナルとアイビーは、穴を頼んでいいか?」
えっ?
「お父さんは?」
「俺は乾燥した根を洞窟から持ってくるよ」
毒があるのに、大丈夫なのかな?
「俺も手伝うよ」
「いや、フィーシェは止めた方がいいだろう」
お父さんの言葉に、私もジナルさんも頷く。
「大丈夫だ。それに1人じゃ大変だろう?」
確かにお父さんは片腕だもんね。
「それもそうだが」
「無理はしない」
フィーシェさんはそういうと、洞窟の中にとっとと入って行ってしまう。
慌ててお父さんが追いかけるけど、本当に大丈夫なのかな?
「言い出したら、聞かないからな」
ジナルさんが肩を竦めると、持っているマジックバッグからシャベルを取り出す。
ジナルさんのマジックバッグからは、なんでも出てくるな。
何が入っているのか、一度聞きたいかも。
「アイビー!」
「うわっ、どうしたの? お父さん?」
驚いた。
どうしたんだろう?
「ソルは何処にいる?」
ソル?
この洞窟に入る前に眠たそうにしていたから、バッグに入れたけど……。
「ソルなら、バッグの中にいると思うけど……あれ? いない」
えっ?
開けてないよね?
「やっぱり。ソルが乾燥した根を食べてる」
「「はっ?」」