軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

532話 何人いるんだろう?

「お父さん、ふぁっくすと言うのは前世のひらがなと言う文字なんだけど、いつ頃から使われだしたのか分かる?」

私の言葉に、お父さんが思案顔になる。

答えを待つ間、ドキドキしてくる。

私と同じ場所から来たかもしれない人。

どんな人だったんだろう。

「200年前だな」

200年前。

そんな前に私のような存在がいたのか。

すごいな。

「ただ、ふぁっくすと言うこの文字に似た文字は、もう少し前からあったはずだ」

「そうなの?」

「約300年前に起こった水害の対応にあたった人が書いた文献があるんだ。その中に、オードグズ語では無い文字で『すいがい』と書かれているのを見た。ただ、その文字はその文献以外で見た事が無いから、ほとんど広まってはいないし、知らない人の方が多いだろう」

300年前の文献?

ふぁっくすを広めた人とは別の人かな。

そう言えば、カタカナは最近増え始めたって言ってたよね。

3人はいるって事かな?

「俺の考えだが、前世を持っている者は複数人いるんじゃないか?」

お父さんの言葉に頷く。

文字が普及する時間を考えても、間が開いているから別の人だと考えた方が自然だと思う。

でも、名称なら使う頻度で広がり方は変わるだろうから、確実ではないかな。

「なんか、楽しいな。もう少し文字を調べてみるか?」

お父さんの言葉につい頷いてしまう。

だって、前世を持った人たちがこの世界で何をしていたのか知りたいから。

でも、この村の状態が気になる。

「ジナルたちが帰ってきたら、とりあえず訊いてみるか。あいつらは、調査であちこち行っているはずだから、もしかしたら文字についても何か調べているかもしれない」

文字を調べる?

そんな事をする必要があるのかな?

「知られていない文字は、悪事に使われる事があるからな」

悪事?

「暗号みたいな感じ?」

私の言葉に頷くお父さん。

「珍しい文字は、たぶん調べているだろうな。まぁ、それをジナルたちがやったかどうかは、訊いてみないと分からないが」

それだったら訊きたい!

だけど、ジナルさんたちはこの村の問題を調べているから、邪魔になるような気がする。

「ジナルさんたちは忙しいよね?」

私の言葉に、首を傾げるお父さん。

「忙しくても、楽しそうって協力してくれると思うけどな」

お父さんの言葉に、ワクワクした表情で協力してくれるジナルさんを想像できてしまった。

なおさら、今は駄目じゃないかな?

「ジナルさんたちの様子を見てから、考えよ?」

まずは、この村の状態を知らないと駄目だろうし。

「そうだな。最悪な事が起こっている事も考えられるからな」

最悪な事?

「この村の人たちの様子がおかしかっただろう?」

確かに、暗いだけじゃなくどこか不安そうだった。

周りを気にしているというか……。

「権力争いで一番最悪なのは、無関係の人が巻き込まれて亡くなる事だ」

お父さんの言葉に頷く。

「あったら駄目なんだが、現実問題としてそんな事件は起こっている。その時、しっかりその事を解決できるかどうかで、問題がどれだけ深刻なのか判断する事が出来る」

深刻?

「例えば今回は、冒険者ギルドの権力争いがある。それに巻き込まれて誰かが亡くなる。自警団が動いて、事件が解決されれば権力争いは一部だけの問題だ。問題を起こした者たちだけを何とかすればいい。もし、自警団が動かない場合は?」

動かない……。

「自警団も権力争いに加わっている?」

「そうだ。自分たちに有利に動くギルマスを支持して、時々自警団と冒険者ギルドの関係が悪い方へ動くことがある。その場合は、問題は一部ではないため深刻だ。そこに商業ギルドまで絡んでいたら、最悪だ。この村のすべてが機能していない事になるからな」

「それって、権力者のやりたい放題って事?」

「そう。止める側が誰もいないんだからな。村の人たちの様子から……どこまで腐敗してるか」

また、とんでもない村に来ちゃったな。

なんでこう、行く先々で……。

「どうした? 何か不安そうだが」

表情に出てたのか。

両手で頬を押さえる。

「アイビー?」

「私が行くところ、行くところで問題が起こるなって思って」

前にも考えた。

何かに導かれているようだと。

今回の行き先はジナルさんが決めた。

確かに、ちょっと問題が起こっている場所だったけど、こんなにひどいとは想像しなかった。

私に、何かあるんだろうか?

「確かにな」

お父さんの大きな手が私の頭に乗る。

そしてゆっくりと撫でてくれる。

「お父さんもそう思う?」

「まぁな。俺たちが会う前の事は話でしか分からないが、確かに色々起こり過ぎるな」

だよね。

何だか、私が悪い事をしている気分になる。

べつに私が何か起こしたわけでもないのに……。

「アイビーが悪いわけじゃないからな。そこは間違うなよ」

お父さんの言葉にパッと視線を上げる。

「気にするなと言っても、気にするんだろうけどな」

それは気にするよ。

私が巻き込まれたら、お父さんも一緒に巻き込まれるんだから。

ソラたちだって危険にさらすかも。

「俺は楽しんでるよ」

「えっ?」

「アイビーとの旅を、これでもかというほど楽しんでいる」

そうなの?

「ソラたちだって楽しんでるよな?」

「ぷっぷぷ~」

「てっりゅりゅ~」

「にゃうん」

「ぎゃっ」

「ペふっ」

お父さんの言葉に次々答えるソラたち。

それに少し驚いてしまう。

いつの間に、話を聞いていたんだろう。

さっきまで、部屋の中で遊んでいたのに。

「ありがとう」

少し気分が浮上する。

「ジナルさんたちいつ頃帰って来るかな?」

問題がある村だから、心配だな。

「あいつらの事だ。早いんじゃないか?」

お父さんの言葉に笑みが浮かぶ。

いつの間にか、お父さんの中でジナルさんたちの信頼度がすごく上がっている。

「どうした?」

「なんでもないよ。そうだね、すぐに帰ってきそう」

訊き出すのが上手いもんね。

普通の人だと、いちころだと思う。

「それよりアイビー、夕飯何かお願いしないか?」

お父さんが、さっき見ていた料理名の並んだ紙を私に見せる。

ボルシチ、ストロガノフ、シチー。

もう一度読むが、やはりどこか知っている言葉のような気がする。

特に最初の、ボルシチ。

なぜか赤い色が思い浮かぶ。

「読み方は分かるか?」

お父さんの言葉に首を傾げる。

「えっ? 読んでいたんじゃ……」

「いや、読めないよ。下の料理の説明でどんな料理なのかは理解したけど」

「そうなんだ。えっと、上からボルシチ、ストロガノフ、シチーって読むの」

「シチー? シチューの間違いじゃなくて、シチー?」

「シチーだけど……間違えたのかな?」

料理の説明では、葉野菜がベースの酸味のあるスープのようだ。

酸味か。

シチューとは別の料理かもしれないな。

「何を頼む?」

どうしようかな。

ボルシチは、赤い色が出る野菜と肉がごろごろ入っているスープか。

あっ、それで赤い色が思い浮かんだのか。

前世の私は知っているけど、馴染みが無かったのかな?

ストロガノフは、肉料理なんだ。

「俺はストロガノフだな」

肉好きのお父さんなら、そうだろうな。

「ボルシチにしてみる」

赤いスープが気になる。

頭に浮かんだのは真っ赤だったけど、どうなんだろう?

「注文してくるか。ついでにお風呂も入って来るけど、アイビーはどうする?」

お風呂!

久しぶりにゆっくり湯船につかりたい!

「一緒に行く。お風呂~」

お風呂の準備をして部屋を出る。

時間を確認したが、ソラたちのご飯には少し早い。

「お風呂を上がったらご飯にするね」

「ぷっぷぷ~」

「てっりゅりゅ~」

「ぎゃっ」

「ペふっ」

部屋にしっかり鍵をかけると、1階に下りる。

「あれ? お風呂?」

「ジナルさん、今からですか?」

1階には、ジナルさんとフィーシェさんの姿。

「いや、終わったよ」

えっ、もう?

あれ?

何だか2人の様子が……ものすごく怒っているような……。

「後で話すね。それと荷物はもういらないから」

うん、ジナルさんがかなり怒っている。

話し方は柔らかいのに、底冷えしそうなほど冷たく感じる!