軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

508話 生まれた場所

調理場を借りられたので、何を作るかお姉ちゃんと考える。

お父さんは、朝から食材の調達に行ってくれた。

「アイビー、私……名前を変えて町に住もうと思うの」

「えっ?」

つまり旅を一緒には出来ないって事?

「私の体力では、さすがに旅を続けるのは無理だなって思って」

「それは……」

旅を続ければいずれ体力はつく。

でも、それはすぐではない。

確かにお姉ちゃんにはつらいかもしれない。

「お姉ちゃんが出した答えなら賛成する。でも、私たちに迷惑だとか思って出した答えなら反対する」

「ありがとう。私が今できる事は何か、したい事は何かを考えて出した答えだから」

「そっか。何処か行きたい町があるの?」

「オール町に行きたいの」

えっ! オール町?

「どうして?」

私の質問に、お姉ちゃんがふわりと嬉しそうに笑う。

「お父さんとお母さんが一緒だった時の事を思い出したの。忘れたと思ったけど、忘れてなかった。それで思い出した事があるんだけど、オール町は私や両親が生まれた場所なの」

「……その町は、お父さんの生まれた町だよ。お父さんの両親や兄妹もいるところ」

「えっ! うそ! 本当に?」

「本当」

「「…………」」

お姉ちゃんと少しの間、唖然と見つめあう。

こんな偶然があるんだ。

まさかお姉ちゃんが、お父さんの生まれた町の出身だったなんて。

すごいな。

あっ、オール町ならおじいちゃんたちもいるし、それに師匠さんもいる。

ギルマスに事情を説明して、守ってもらえる。

かなり安心かもしれない。

「ただいま……どうしたんだ?」

お父さんが、調理場に入ると首を傾げて私とお姉ちゃんを見る。

「お父さん、お姉ちゃんが名前を変えてオール町に住みたいって」

「えっ!」

お父さんもさすがに驚いたのか、私とお姉ちゃんを交互に見る。

事情を説明すると、驚いた顔のまま、お姉ちゃんを凝視した。

「まさか、同じ町の出身だとは……」

お姉ちゃんの希望は聞いたけど、どうしたらいいかな?

一度オール町にお姉ちゃんを送り届ける?

誰かにお願いできない問題だから、そうなるよね。

「両親の名前は思い出した?」

お父さんの質問にお姉ちゃんは首を横に振る。

「お父さん、お母さんと呼んでいたから」

「そうか。しかしすごい偶然だな」

「そうだよね」

お父さんからマジックバッグを受け取り、中から食材を出す。

お願いした物はおおむね揃ったようだ。

「でも、寂しくなるな」

確かに、ずっと一緒に旅をするものだと思っていたからな。

「そう言ってくれると嬉しいな」

それぞれの料理に合わせて野菜やお肉を切っていく。

お父さんとお姉ちゃんがいるので、全てが早い。

「アイビー、気に入っている料理の作り方を紙に書いてもらえないかな?」

「もちろん、いいよ」

「ありがとう」

お姉ちゃんの好きな料理を聞き、とりあえず料理名だけ紙に書く。

後で作り方をなるべく丁寧に書こう。

「ドルイド?」

調理場にランジさんとエガさんが顔を出した。

「あれ? どうしてここに?」

「この宿に入っていく姿が見えたから、追いかけてきた。俺たち数日後に、ここを出発するから挨拶しておこうと思ってな」

ランジさんが、並べられている野菜の量を見て首を傾げる。

「宿の手伝いか?」

「いや、旅に持っていくための準備だよ」

「あぁ、調理済みで持っていくのか。以前は頑張ったが、面倒になって止めたな」

ランジさんが興味深そうに、作った料理を見ている。

どうも、食べたそうに見える。

じっと見ていると、視線に気付いたのかばつの悪そうな顔になった。

「別に盗み食いはしないから」

「えっ! いえ、そうではなくて……」

なんでいきなり盗み食い?

「気を付けろよ。ついつい手が出てしまったという言い訳を何度聞いたか」

エガさんが呆れた声で、ランジさんを出来た料理から引き離す。

なるほど、前科ありか。

「簡単な物ならすぐに作れるので、食べますか?」

あと少しでお昼の時間だから、お腹が空いているのかな。

丼物なら、人数が増えてもすぐに作れるし、あと少しでご飯も炊ける予定。

あれはおにぎり用で炊いたけど、お米は余裕があるからまた炊けばいいしね。

「いいのか?」

ばごん。

「今食ったばかりだろうが! アイビーも気にしないでくれ」

ランジさんの頭を思いっきり殴ったエガさん。

お姉ちゃんがちょっと引いている。

「相変わらずだ」

お父さんが、苦笑を浮かべて2人を見る。

エガさんが呆れた表情でランジさんを見て、

「いつまでたっても食い意地だけが落ち着かない」

「美味しい物を食べたら幸せになれるだろう?」

「確かに」

あっ、ついつい賛同してしまった。

ランジさんが嬉しそうに私を見る。

それに、ちょっと笑ってしまう。

「そうだよな? ほら見ろ! アイビーは俺の味方だ」

いや、味方というわけでもないけどな。

「はぁ、悪い。材料が足りなくなったら買ってくるし。手間代も払うから」

エガさんが、ため息を吐きながらお願いしてくる。

それに首を横に振る。

「問題ないですよ。お父さんが多めに買ってくれたので」

お父さんを見ると、頷く。

「さすがドルイド。少しでいいんだ。1人前で」

1人前?

「大盛――」

「おいっ!」

ランジさんの言葉に、エガさんの言葉がすぐに飛ぶ。

「……普通で」

肩を竦めたランジさんに、つい笑みが浮かぶ。

「分かりました」

お肉と野菜とお鍋を準備して、ご飯はあと少しで炊けるからそれまでに作っちゃおう。

「ドルイド、オール町にモンズはいるかな?」

エガさんの質問にお父さんが首を傾げる。

「いるけど、なぜだ?」

「商家から護衛の依頼があってオトルワ町に行くんだけど、仕事が終わったら隣のオール町にモンズの顔でも見に行こうかという話になってな。ドルイドに久しぶりに会ったら、会いたくなってさ」

「商家か……オール町まで……」

エガさんの話に、お父さんが考え込む。

きっとお姉ちゃんの事だよね。

でも、本当に大丈夫なのかな?

「どうした?」

「商家の護衛なら馬車移動だよな? 馬車に空きがあったりしないかな?」

馬車移動か、それは魅力的かもしれない。

オール町まで遠いからね。

お父さんの質問に不思議そうな表情のエガさん。

「余裕はかなりあるぞ。運ぶの人だし」

人?

「どういう事だ、人を運ぶって……」

「花嫁だよ。ハタハ村からオトルワ町の商家に嫁入り。旦那になる人が王都で修業をしている時に、たまたまこの村に買い付けに来て一目惚れしたんだと。3年かけて旦那の親を説得して、今年の秋に結婚式を挙げるらしい。で、2日後にこの村から旦那のいるオトルワ町に出発するというわけなんだよ」

花嫁さんなんだ。

エガさんの説明に、お父さんが驚いた表情を見せる。

「旦那が迎えに来ないのか?」

「その予定だったそうだが、仕事中に階段から滑り落ちて足を骨折したらしい」

運が無い人だな。

「それでも迎えに来ようとしたそうなんだけど、花嫁が怪我が悪化したら大変だから待っていて欲しいと言ったらしい」

ランジさんが、苦笑を浮かべて続ける。

「旦那は大丈夫と駄々をこねたらしいけど、花嫁と旦那の親にかなり説得されたそうだよ」

3年説得してようやく結婚出来るのに骨折。

かなり悔しいだろうな。

「ランジたちに依頼がきたのはなんでだ? 2人とも商家からの依頼を受けているのは知っているが、商品の護衛が主だろう?」

「そうなんだけど、旦那の親と俺たちが知り合いなんだよ。大切な花嫁を知らない者には託せないから頼むって。まぁ今回だけ特別って事で依頼を受けたんだよ」

エガさんがちょっとげんなりした表情を見せる。

それに首を捻ると、

「最初は断ったんだけど、しつこくて、しつこくて」

3年かけて結婚を認めさせた旦那さんの親だけはあるって事かな?