軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 伯爵に仕える従者

―従者の視点―

緊急のふぁっくすを主人に見せる。

その瞬間、テーブルの上に載っていたコップやお皿が床に叩きつけられた。

あれを一体だれが掃除をすると思っているのか。

はぁ、主人は本当に自分を抑えるすべを知らないな。

「すぐに、ベルファたちを呼べ。すぐにだ!」

「早急に手配いたします」

そして頭が悪い。

ギルドから目を付けられている暗殺者たちを屋敷に呼ぶなんて、ほんの少し考えればそれがどれだけ危険な事か分かるはずなのに。

まぁ、貴族以外は生きる価値がないと考えているから見えていないんだろうな。

屋敷にどれだけの目があるか。

俺のような従者やメイド。

まさか全員が主人を敬っていると思っているのだろうか?

「……まさか、そこまで?……」

長く広い廊下を歩きながらため息を吐く。

前伯爵は良かった。

しっかりと地に足をつけた領地経営をしていた。

多くは望まず、でも確実に領地を繁栄させていった。

今のあのバ……ごほっ。

現伯爵が、事故を装って前伯爵を暗殺してから全てが変わった。

そう、全てが悪い方向へと。

まぁ、能力が足りない者が上に立ったのだから、仕方ないと言えば仕方ない。

…………

王都の大通りを横に見ながら、目的の場所を目指す。

様々な者が集う飲み屋「グル」。

訳ありの者も多くいると噂の店だ。

その噂のせいなのか、不意打ちで冒険者ギルドから何度か調査が入っている。

が、店主の鼻が利くのかこの店から誰かが捕まったことは無い。

そう、奇跡的に一度も捕まった者はいない。

そのグルに、堂々と正面から入っていく。

そして、店の中を見渡す。

「さすが」

この店に、ベルファたちがいる時間を教えてくれたメイドに感謝する。

「失礼。仕事の依頼をしたいのだが」

小声でベルファたちに声を掛ける。

何度か依頼をしに来ているため、既に顔見知りだ。

ベルファたちも俺の顔を見て、特に警戒することは無い。

「伯爵様か~」

リーダーのベルファがにやりと意地の悪い笑みを見せる。

また高額な報酬を吹っかけてくるんだろうな。

だが、そろそろ伯爵家の資産は底をつく。

今回の依頼料が払えるかは……知った事ではないな。

伯爵が頑張るだろう、きっと。

たぶん。

あっ、従者たちとメイドたちの給料を確保しないと。

あの馬……ごほっ、あれの下でタダ働きなどごめんだ。

「大丈夫ですか?」

依頼を受けるのか、受けないのかどっちだよ。

とっとと答えろ。

「仕方ない、他の仕事もあるが伯爵にはいつもお世話になっているからな」

そうだろうな。

金づるの仕事が一番優先だろう。

まぁ、最後かもしれないが。

その最後の報酬が支払われるかは、知らないが。

「ありがとうございます。では、裏の門を開けておきますので」

返事を聞かずに立ち上がる。

外に向かいながらグルの中を窺う、ギルドが探している者たちが数名いるな。

店を出ると小さく息を吐きだす。

さすがに緊張する。

しかし本当に、指名手配されているのに堂々と飲んでいるんだな。

まぁ、何かあったら店主が助けてくれるからな。

……今はまだ。

大通りを歩きながら、ふぁっくすに書かれていた内容を思い出す。

もう少しお金を掛ければ、従者に内容を読まれる事もないのに。

……まぁ、手間は省けて良いけど。

今回の依頼は教会から逃げた女性の暗殺だろうな。

たった1人の女性を殺すのに、プロの暗殺者を雇うとは。

しかもメイドの話では、女性を追うのは伯爵だけではないらしい。

一体その女性は何者なんだろう?

「まぁ、何者であったとしても、俺に出来ることは無いんだけどな」

嫌な仕事だ。

ふぁっくすには女性は森に逃げたとあった。

もしかしたら、ベルファたちに反撃できる冒険者たちに助けてもらえるかもしれない。

だから、最後まであきらめずに逃げて欲しい。

「はぁ」

帰って伯爵の面倒を見ますか。

…………

部屋に呼ばれたので行くと、ベルファたちがいた。

まぁ、既に屋敷に入った事はメイドから聞いていたが。

それにしても、私の前で堂々と女性の殺しを口にするとは。

お酒の用意をしながら、ため息を飲み込む。

「どうぞ」

テーブルに人数分のお酒の入ったコップを置く。

傍には1枚の書類。

ちらりと目をやると、契約書だった。

次からは好きに飲めるように、契約書の隣にお酒の瓶を置く。

ざっとテーブルの上を見て、小さく頷く。

ツマミもまだ十分あるし、問題なし。

「あははっ。ベルファたちに掛かれば、あの女の未来は既に決まったようなものだな」

「首でも持ってきますか?」

ベルファたちが機嫌よく酒を煽る。

「それはいいな。あはははっ」

胸糞悪い。

「では、失礼いたします」

感情を完璧に隠し、従者に似つかわしい表情で部屋を出る。

廊下に出て、さっさと部屋から離れる。

今の時間からだと、きっと朝方まで飲むだろう。

朝になれば、ベルファたちはハタハ村へ向かう。

「お疲れ様」

声に視線を向けると、メイドがいた。

「あぁ、本当に疲れたよ」

「ベルファたちはどこへ?」

「ハタハ村みたいだ」

「そう……」

メイドの表情がいつもと違う。

何かあったのだろうか?

俺は……不備はしていないよな。

ここで失敗したら、本当の主人に怒られる。

あの御方は怖いんだよ。

「問題か?」

「いえ、ハタハ村という名前を少し前に聞いたような気がして……気のせいかしら?」

このメイドにしては珍しい。

いつも完璧なのに。

城から隠れるようにして出発する一行が見えた。

朝から嫌なものを見た。

…………

「おいっ、ベルファたちからの連絡はどうした!」

「一昨日から連絡はありません」

「くそっ!」

本当にどうしたのだろう?

いつもなら1日に1回は、ふぁっくすが届く。

そうしないと、伯爵が煩いからだ。

もちろんベルファたちからだと分からないようにだ。

それが、3日前から途絶えている。

とは言え、まだ3日。

もしかしたら不測の事態で村から離れている可能性もある。

すぐにふぁっくすが届くだろう。

主人の部屋から出て廊下を歩く。

従者たちとメイドたちの給料は確保できた。

まぁ、主人が隠している財産をちょこっと拝借することになったが。

あんなに隠しているとは思わなかったから、嬉しい誤算だ。

だから半分は残すことができた。

半分あれば、今回の報酬はぎりぎり払えるだろう。

「お疲れ様です」

視線を向けるとメイドがいた。

花瓶を持っているから水を入れ替えるのだろう。

「何か、手伝おうか?」

「もう1つ花瓶があるので、そっちを持って来て欲しいな」

「分かった」

えっ、メイドが持っている花瓶の4倍の大きさなんだが……。

「これ?」

「はい。中の水をこぼさないように」

ふふっ、嫌がらせだろうか?

ちゃんと給料を確保したのに……。

「何か?」

「いいや、くっ」

想像以上に重い。

「ふ~、行こう」

並んで廊下を歩く。

既に腕がぷるぷる震えている。

どこまで運ぶんだっけ?

「ハタハ村に地下洞窟が発見されたんだって」

「うわ~」

それはすごい。

ハタハ村に冒険者たちが集まるだろうな。

「その地下洞窟内で、冒険者数名の消息が分からなくなっているんだって」

んっ?

「冒険者数名?」

ベルファたちは、伯爵が用意した冒険者としてハタハ村に入ったはずだ。

門で行われるマジックアイテムの調査をどう誤魔化すのか知らないが、無事に入ったとふぁっくすに書いてあった。

まさかベルファたちが?

いや、それは無いか。

仕事中に地下洞窟に入るわけが……いや、周りを誤魔化すために他の冒険者に声を掛けられたら1回ぐらいは付き合うか。

だとしてもベルファたちは強いから、彼らではないな。

「何があったんだ?」

「それは不明みたい。考えられるのは、地下洞窟の魔物に殺されたか、他に原因があるのか……」

「地下洞窟の魔物……確かに特殊な魔物がいるらしいが……」

話で聞いただけだが、かなり特殊な力を持つ魔物もいるらしい。

「そうそう、消息がつかめない者たちの荷物が見つかってね。それから大騒ぎらしいの。なんと全員が不正な冒険者カードを所持していたんだって。怖いよね」

ん?

全員が不正な冒険者カードを持っていた?

「それって……」

地下洞窟の特殊な魔物でなく、他の原因で消息不明になったという事か。

ベルファたちからは連絡が途絶えている。

つまり、ベルファたちは……。

「そろそろここを引き上げる時期じゃないかしら? だって冒険者カードを偽造したなんてばれたら……ね?」

つまりベルファたちは、もういない可能性が高いと判断されたわけか。

「消息不明者は何人なんだ?」

「16人だったそうよ」

16人!

冒険者カードが偽造だったことから、おそらく全員が女性の追っ手。

しかし暗殺を生業にする16人が一斉に消息不明?

何が起こったんだろう?

というか、巻き込まれないためにも、すぐにこの屋敷を出た方がいいな。

「必要な物は?」

「全て完璧に揃っているわよ」

「分かった」

今日中に。

あっ、ベルファたちがいなくなったという事は隠し財産は必要ないんだ。

給料の上乗せってありかな?

……ありだよな。

だって、色々お手伝いしてきたんだし。

「今日の夜にね」

「あぁ」

「あの女性はきっといい人に助けられたのね。奇跡って無理やり起こさなくても起こるのね」

ちらりと隣のメイドを見る。

あぁ、だから機嫌がいいのか。

「その水を捨てる時は注意してね」

メイドはそう言うと、黙って隣を歩く。

前を向くと他のメイドが仕事をしている。

……注意?

花瓶の中をのぞくと、底にキラキラした何かが入っている。

「これ……」

「被害者に届けたくて」

小さく聞こえたメイドの声。

伯爵の被害者たちに届けるなら、きっとあの御方も許してくれるだろう。

さて、これをどうやって……まぁ、何とかしますよ。

隠し財産はこっちに足そう。

給料の方は既にちょっと上乗せしてあるから。