軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

485話 逃げられた理由

「アイビーとマリャに相談があるんだ」

お父さんが、お茶を飲みながら私たちを交互に見る。

「何?」

「なんでしょうか?」

「ハタル村の教会が、マリャの情報を外に漏らしていた場合、おそらく貴族たちは既に動き出していることが予測できる」

確かに、証言されたら困るもんね。

「情報がまだ漏れていない可能性もあるが、楽観視はしないほうがいいだろう」

お父さんの言葉に頷く。

「マリャの見た目などの情報は、実際に貴族たちとは会っているのでごまかしようがない。髪を切るぐらいは向こうも予想するだろうからな。だから設定を変えようと思うんだ」

「設定ですか?」

マリャさんが困惑した表情でお父さんを見る。

私もよく分からず首を傾げる。

「奴らが捜しているのは30才前後の女性1人だ」

確かに。

「それを誤魔化すために、俺たちが家族になればいいと思わないか? 俺とマリャが夫婦でアイビーがその子供。これで探している女性から大きく外れる」

「「……えっ!」」

お父さんとマリャさんが家族!

あっ、えっとこれは追っ手を欺くためだから、本当に家族になるわけじゃないんだよね。

そうそう、……2人の子供?

私のお母さん!

いや、本当じゃなくてマリャさんの追っ手がいた場合を考えての嘘なんだけど……。

駄目だ、混乱してる。

えっと、これは逃げ切るための嘘。

本当じゃない。

「いえ、あの、それ」

隣でマリャさんが、私と同じように混乱している。

「どうかな?」

どうかなって言われても……。

確かに、1人の女性を探している人たちには、かなり有効だと思う。

家族は確実に除外されるもんね。

「いい考えだと思う」

「マリャは?」

「私は、えっと、ご迷惑をおかけしていますし……これ以上は」

マリャさんが申し訳なさそうな表情になる。

まぁ、気にするよね。

「実は俺たちもハタル村の教会から逃げているんだ。だからマリャがいてくれると、俺たちの方も誤魔化せるから助かる」

ん?

私たちの事を教会がそんなに探すかな?

「えっ? そうなんですか?」

「あぁ、俺の持っている物を教会の連中に狙われているんだ。だから取られる前に逃げてきた」

あぁ、なるほど。

マリャさんの気持ちを軽くするためか。

それにしても、本当と嘘が見事に交ざってるな。

表情もいつも通りだし、何も知らなかったら私でも騙されそう。

「そうなんですか?」

「あぁ。だから俺たちの方も、マリャさんの存在はありがたいんだ。なっ、アイビー?」

お父さんが、そう言って私を見る。

それに笑って頷く。

「……分かりました。ドルイドさんたちの役に立つなら」

「よかった。助かるよ」

お父さんが微かにほっとした表情を見せた。

「そうと決まれば、呼び方と話し方を変えないとな」

ん?

話し方?

「えっと、お母さんでいいですよね」

「アイビー。その話し方だと他人行儀だろ」

確かにそうだよね。

えっと……うわ~、恥ずかしい。

気楽に気安く。

「お母さんでいいかな?」

「はい」

マリャさんを見ると顔が赤くなっている。

これって、私も真っ赤だよね。

というか、呼ぶだけでなんでこんなに恥ずかしいの?

「これからよろしく」

よしっ。

「緊張して棒読みだけど、まぁ、追い追い慣れていくしかないか」

「うん。慣れるまで待って」

なんでだろう。

お父さんと話す時はなんともないのに。

マリャ……お母さんと話す時は背中がむずむずする。

「アイビー、よろしく」

あははっ。

マリャさんも……お母さんも棒読みだ。

それに顔が強張り過ぎ。

「くくくっ。アイビーもマリャもなんだよそれ」

お父さんは我慢が出来なくなったのか、笑い出した。

確かにかなりひどいもんね。

呼ぶだけなのに、どうしてこんなに緊張するのか。

「ふふっ」

あっ、笑ってる。

ちょっとぎこちないけど、笑えるようになったんだ。

「マリャ。笑っているがマリャにはもう1つ大切なことがあるからな」

「えっ? 何ですか」

お父さんの言葉にお母さんが緊張した表情を見せる。

「俺の事はドルイドと呼んでくれ。あと話し方がアイビーと一緒で他人行儀だから」

「えっと、はい。あっ……」

「まぁ、ゆっくりでいいから慣れて欲しい」

「はい」

ん~、大丈夫かな?

沢山話せば、慣れるのが早くなるかな?

「あの」

お母さんが、悩みながら口を開く。

「どうした?」

「ハタル村に手紙を送る時に、村の人に一緒に伝えて欲しい事があるんです」

「内容にもよるが、何を伝えたいんだ?」

「えっと。詳しくは、私も分からないんです。でも、チャスリスが」

チャスリスさん?

お母さんは、まだ彼を大切に思っているのかな?

「私はずっと部屋から出られなくて。あの子とも小さな窓越しに出会ったんです。色々話すと、ここにいたら駄目だって。チャスリスと一緒にいたら駄目だって。私も逃げたかった、あの部屋から、彼から。それであの日、部屋の鍵を開けてくれて。森へ連れて行ってくれたんです」

あの子とは、ビスさんの事だよね。

あれ?

今の話、ちょっとおかしいよね?

どうして、ビスさんは部屋まで来られたんだろう?

「逃げる時に気付いたんです。いつもいる人たちが誰もいないって。教会の扉の前にチャスリスがいて、声を掛けようとしたらあの子に止められて。隠れたんです」

良かった。

声なんてかけていたらすぐに捕まってしまう。

「チャスリスが、森のカリョが全滅したって」

ん?

カリョ?

どこかで聞いた事があるな、その名前。

……あっ、麻薬の花。

トロンが美味しくいただいた花だ。

えっ、教会が麻薬を育ててたの?

「チャスリスと話していた人はすごく怒ってた。俺が来たのは、全て買い取るためだって、無駄足を踏ませたのかって」

教会に来てた貴族は麻薬を買いに来てたの?

しかも全て買い取る?

あの花畑の量から考えると。個人で楽しむ量ではないよね。

最低な貴族だな。

「チャスリス、すごく困ってた。使える物があるかもしれないから、全員で調べてるって」

あぁ、だから教会に人が居なくてビスさんはお母さんを助け出せたのか。

「助けようと思ったの、いつも『忙しい俺がわざわざお前のために時間を作っているんだから、俺を助けるのは当たり前だ』と、言っていたから」

……奴隷落ちして、地獄を味わってほしい。

「でも、あの子が駄目だって。見つかったら殺されるって言うから。それにカリョは駄目な花なんだって教えてくれた。人が育てては駄目な花だって」

ビスさんはすごくしっかりした人だな。

「チャスリスは駄目な花を育ててる。唯一の人だけど、駄目な事は駄目。だからカリョの事を村の人に伝えて欲しい。あの子が言っていた、カリョは人を壊すって。そんな花をチャスリスに育ててほしくない」

お母さんは自分を閉じ込めたのが教会の人間だと知っている。

チャスリスが教会の人だとも知っている。

だから逃げたいはずなのに、一人だった孤独をほんの少し癒したチャスリスに悪い事をしてほしくないとも思っている。

これって、洗脳になるのかな?

何だか悲しくなってきた。

「カリョの花の事は既に伝えてあるから大丈夫だ」

「えっ! 本当?」

「あぁ。というか、全滅させたの俺たちだしな」

お父さんの言葉に驚いた表情のお母さん。

確かに話を聞く限り、教会を混乱させたのは私たちだね。

トロン、最高。

「あのカリョはどんな花なんですか?」

「どんな花なの?」

お父さんの言葉に、お母さんが首を傾げる。

「砕けた話し方に慣れていかないと」

お父さんの注意に、お母さんがハッとした表情をする。

「えっと、どんな花なの? これで、大丈夫で……かな?」

「くくっ、少しずつ慣れていこうな。カリョの花だけど、根には麻薬成分が含まれているんだ。麻薬は分かるか?」

お父さんの質問にお母さんが頷く。

「私が会った人、麻薬の病気にかかっていた人が多い。無くすと喜んでた」

はははっ。

悪い事をしている貴族の多くは、麻薬の中毒者という事か。

「麻薬中毒は病気とは少し違うかな」

「違う?」

「あぁ、病気はどんなに予防しても不意に襲いかかってくることがあって、自分では完璧に対処出来ないモノだ。でも、麻薬は自ら手を出さなければ完璧に防ぐ事が出来るんだ」

「自ら手を出す?」

お父さんの言葉に首を傾げるお母さん。

「そうだ。自ら手を出して、いつしか自分では止める事が出来なくなるのが、麻薬だ」

「止めることが出来なくなる?」

「1回や2回なら大丈夫と思っているうちに、麻薬に依存していくんだ。麻薬が欲しくなり、人格が変わる者もいたりして危険なんだよ」

お母さんが、お父さんの言葉にゆっくり頷く。

「ある人はそれが欲しくて、自分を止めた女性を殺したのを見た」

「そうか」

見た、という事は未来の出来事を見たんだよね。

「麻薬は人として大切なモノを壊すからな。使った者も、売った者もどちらも奴隷に落とされる。売った者は一番過酷な場所から二度と生きて出られないだろう」

そうなんだ。

「チャスリスは、それを知っていると思いますか?」

「あぁ、知っているだろう」

お父さんが力強く言い切ると、お母さんが寂しそうに頷いた。