作品タイトル不明
479話 目が覚めた!
「おはよう」
「おはよう。疲れてないか?」
「大丈夫。お父さんは?」
森の中で寝る時は、お父さんとシエルと私で順番に見張りをする。
最初はお父さんとシエルだけだったけど、何とかお願いして参加させてもらった。
かなり頑張った。
と言ってもお父さんとシエルよりかなり短い時間だけど。
「大丈夫だ」
火をおこし、朝食の準備をしているお父さん。
顔を見る限り疲れているようには見えないけれど、笑って無理をするからしっかり見ておかないと。
そう言えば、なんだか静かだな。
テントの中にはトロンとフレムとソルがまだ眠っている。
ソルは女性の首を包み込んだ2時間後には離れて、しばらくボーとしてそのまま寝てしまった。
ソルのおかしな様子が心配になり、ソラたちに確認を取ったけど大丈夫という事だった。
ただその時、ちょっとソラたちの様子が変だった。
なので再度違う言葉で確認を取ってみたが、答えは問題なし。
あのソラたちの反応は、何だったんだろう?
「アイビー」
「ん? 何?」
「ソルのあの様子なんだけど」
ボーとしてた事だよね?
「うん。何か分かったの?」
「分かったというか……魔力の余韻に浸っていたとは考えられないか?」
えっ、余韻?
さすがにそれは……でも昨日のソルの様子は言われてみれば……。
「あるかもしれないかな?」
「気になっていた魔力だろ?」
「そうだと思う」
お父さんの言う事が正解のような気がしてきた。
「アイビーが昨日ソラたちにソルの事を聞いただろ?」
「うん」
「その時の皆の様子がちょっと呆れていたように見えたからさ」
あぁ、あれは呆れてたのか。
……確かに、そうかもしれない。
心配が先に立ってしまって、冷静に皆の事を見られてなかったな。
それにしても、呆れて……。
「ぷっ、ふふふふ」
「くくくっ」
昨日のソラたちの様子を思い出して笑うと、つられてお父さんも笑い出した。
余韻か、なんだかソルらしいな。
後で聞いてみよう。
「そうだ、ソラとシエルは?」
「女性の所だ。まだ目は覚ましていないよ」
「そっか。何があったんだろうね」
奴隷印をつけて教会に居た女性。
何だか嫌な感じだな。
「彼女が、貴族たちがあの教会に足しげく通っていた原因かもな」
「うん。そうかもしれないね」
奴隷印で教会に縛り付けられていた女性。
骨ばっかりでやせ細って、髪なんて傷んでボロボロ。
「ぷっぷ~」
岩穴に視線を向けると、ソラが姿を見せた。
「ソラ、おはよう。もしかして目が覚めたのかな?」
「ぷっぷぷ~」
ソラが嬉しそうに頷いたので岩穴に行こうとすると、お父さんに止められた。
「俺が行くよ」
「でも、男の人を怖がるかもしれないから」
「……それもそうか。でも、何かあったら困るから入口の所にいるよ」
「うん。お願い」
ソラたちが大丈夫と判断しているけれど、恐怖で暴れる事だってある。
刺激しないように、あまり近づかないようにしよう。
「入りますね~。おはようございます」
なるべく驚かさないように気を付けて声を出す。
岩穴の中に入ると、女性が岩穴の奥の壁に背中をつけ座り込んで震えている。
「えっと、大丈夫です。私もお父さんも、あなたを傷つける事はしません」
手を前に出して、手を振る。
これで、何もしないってわかってもらうのは無理だよね。
どうしたらいいんだろう。
「か、かえ……して……」
喉に何かが詰まっているような声が耳に届く。
女性をしっかり見ると、首に手を当てて一所懸命声を出しているのが分かる。
「水を持ってきますね。まずは飲んでください」
「か……え……して」
帰して?
返して?
どっちだろう。
ん~逃げてきたとして、不安な事は……奴隷印だ。
あれを怖がっているなら、もう安心していいと言わないと。
「黒い紐のようなマジックアイテムなら必要ないですよ。奴隷印は消したので」
私が黒い紐が必要ないと言うと悲壮な表情を見せたが、奴隷印が消えたと言うと唖然とした表情で首をしきりにさすっている。
そして不安そうな表情で私を見た。
これは信じていないな。
まぁ、仕方ないよね。
私が誰なのか知らないんだし。
「お父さん」
私がお父さんに声を掛けると、女性の肩がびくりと震える。
「どうした?」
「鏡を持って来てもらっていい? 奴隷印が消えた事を見せたいの」
「分かった」
お父さんが、離れる気配を感じる。
そう言えば、シエルはどこだろう。
岩穴を見渡すが、いない。
スライムになっているのかと思ったが、その姿もない。
ソラと一緒に女性のところにいると思ったんだけど、違ったようだ。
「お待たせ。水も持ってきた」
「ありがとう」
お父さんから鏡と水が入ったコップを受け取ると、女性の傍にゆっくりと寄る。
女性の様子を見ながら、少しずつ少しずつ。
手を伸ばしてもちょっと届かない距離で止まり、膝をつく。
「これお水です。で、こっちが鏡です」
怯えさせないようになるべくゆっくりと女性の前に差し出す。
水の入ったコップと鏡を見ていた女性は、私を警戒しながら鏡に手を伸ばす。
鏡を持つと私の様子を窺っているのが分かる。
水のコップを女性の傍に置くと、ゆっくりと立ち上がり後ろに下がった。
「確かめてください」
自分の首を指しながら言うと、戸惑った表情をしながら鏡で首元を見た。
「あっ……」
鏡に映る自分の首元を見た女性は、唖然とした表情をしたまま固まる。
そして涙が溢れた。
「あの……これを」
もう一度近付いて布を差し出すと、不思議そうな表情で私を見る女性。
もしかして涙に気付いていないのだろうか?
少し迷ったがもう1歩、女性に近付き膝をつくと濡れている頬を布で拭いた。
「あっ……」
本当に気付いていなかったのか、布が濡れた事に驚いていた。
女性を見ると、口元に力が入っている事に気付く。
もしかして泣くのを我慢しているのだろうか?
「……泣いて、いいんですよ」
こんな事しか言えない自分が、情けなくなる。
それでも我慢している女性に気持ちを吐き出してほしくて、女性の手を握って気持ちを伝える。
「我慢しないで」
伝わったのかは分からないが、女性が泣きだした。
それにほっとして、女性の隣に移動すると背中をそっと撫でた。
どれぐらいそうしていたのか、女性が小さく身じろぎをした。
「大丈夫ですか?」
私の質問に小さく頭が縦に揺れる。
「水をどうぞ。喉が渇いたでしょう?」
眠った後に泣いたのだから、きっと喉が渇いているはず。
女性の傍にある、水の入ったコップを差し出す。
ポーションは病気は治してくれるけど、喉の渇きを癒してくれるわけでは無いからね。
「あり……が、とう」
「いいえ」
女性はコップを受け取り、口につけるが飲もうとしない。
なんだろうと見ているが、口にコップをつけたまま戸惑っているのが分かった。
「どうしました?」
女性は首を横に振って、コップをゆっくり傾けた。
一口飲むと、後は勢いよくコップの中の水を飲みほした。
「ふ~」
やはりかなり喉が渇いていたようだ。
「もう少し持ってきましょうか?」
私の言葉にコップを見て小さく頷く女性。
コップを受け取ると、水を取りに行こうとしてお父さんが手を出している事に気付いた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
私とお父さんの様子をじっと見ている女性。
「熱が出てたんだけど、体はしんどくないか?」
お父さんの言葉に緊張した面持ちで頷く女性。
「そうか。お腹も減っているだろう?」
お父さんの言葉に、首を横にする女性。
「減ってないのか? でも、体力を戻すためにも食べた方がいい。アイビーが消化に良いものを作ってくれているから。ちょっとでもいいから食べないか?」
女性が不思議そうにお父さんを見る。
そして視線を彷徨わせる。
「私たちも今から朝ごはんなんです。一緒に食べましょう?」
私とお父さんを何度か見た女性は、1回頷いた。
その様子にお父さんがホッとしたのが分かった。