軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

467話 フォルガン

ケミアさんが、満足したという表情でお茶を飲んでいる姿を眺める。

すごかった。

あの大きな肉の塊を食べきるなんて……。

「さてと、食後のおやつは~」

えっ!

あっでも、甘いものは別腹って言うもんね。

「足りたかな?」

店主さんが、お菓子とお茶を渡しながら訊いてくる。

「はい。すごく美味しかったです。ありがとうございます」

「そう言ってもらえると、頑張ったかいがあるな」

そうだ、訊きたいことがあったんだった。

まだ休憩中だし、いいかな?

「あの、ちょっと訊きたいことがあるんですけど、いいですか?」

私の問いに、ケミアさんも店主さんも頷いてくれる。

「壁登り、じゃない。えっと、あれ? 名前は何だっけ?」

壁登りの印象が強くて、魔物の本当の名前が思い出せない。

えっと、フォ……。

「フォルガンの事か?」

店主さんの言葉に頷く。

「はい。フォルガンという魔物はどんな魔物なんですか? 魔物除けが効かないのは聞いたんですが」

新しい魔物みたいだから、しっかり聞いておかないと。

「フォルガンのお肉はね、ちょっと筋があるからじっくり煮込んだ料理にお薦めなの。珍しく腸とかも食べられるのよ」

ケミアさんの言葉に、店主さんが苦笑を浮かべる。

「ケミア、今はその情報は求められていないと思うぞ」

「えっ?」

不思議そうに私を見るケミアさん。

「姿とか攻撃方法とかは……」

「あぁ、なるほど。姿は尻尾が長くて、首が太いわ。足が短くて壁を登るからなのか足の裏がちょっと特殊な形ね」

……ちょっと想像が出来ないな。

「似ている魔物はいないかな?」

お父さんの言葉に店主さんが首を横に振る。

「この周辺ではフォルガンに似た魔物はいないな。前に旅の冒険者が、王都にいる……なんだったかなトーガだったか? トーバだったかな? それに少し似ていると言っていたな」

トーガ? トーバ?

トーガだったら確か本に載っていたな。

蛇のような鱗を持っていて、姿もちょっとだけ似てたよね。

蛇に短い脚が生えたような感じだった。

「トーバは聞いた事が無いから、トーガかな? なら蛇に似ているという事か?」

お父さんの言葉に店主さんが首を傾げる。

「蛇? ん~、似ていると言われれば似ているのか? ただ、蛇より胴が太くて、尻尾の先にはトゲがあるし、牙もあるぞ」

牙?

蛇にも牙があるけど、店主さんの様子だと蛇とはちょっと違うのかな。

「あまり似ていない様だな。フォルガンが集団で襲ってくる事は?」

お父さんの言葉にケミアさんが首を横に振る。

「そんな攻撃はしてこないわよ。何度も戦っているけど1匹で行動している事が多いわ」

「そうか。トーガとは習性も違うみたいだし、別系統の魔物だな」

「フォルガンは水の魔法が得意なのよね。ちょっと粘着性のある水の球で攻撃してくるんだけど、あれが厄介で。体に付くと臭いし取れないし。本当に最悪よ」

「水魔法で攻撃ですか?」

「そうなのよ。驚きでしょ?」

ケミアさんの言葉に無言で何度も頷く。

魔物は、魔力を持ってはいるが攻撃に使用する魔物は少ない。

攻撃に使用する魔物でも、その多くは土魔法と火魔法だ。

水魔法を使用する魔物がいる事は本で読んだが、実際に目にしたことは無い。

「得意という事は、自由自在に扱っているのか?」

お父さんの言葉にケミアさんが頷く。

「そうなの。初めて見た時は驚いちゃったわ」

「フォルガンは頭がいいんですね」

魔法で攻撃をする場合、頭の中で火や土をイメージする必要がある。

本能が強い魔物は、それが苦手なため魔法での攻撃が出来ないらしい。

「そう、かなり頭は良いわ。悔しい事に、仕掛けは突破されちゃったしね」

「仕掛けってなんですか?」

罠とは違うのかと首を傾げる。

「壁に登れないように、壁にちょっとした仕掛けをしたの。踏むと足の裏が怪我するような、まぁ簡単なものだけど。フォルガンは見事にその場所だけ回避してたわ」

本当に頭がいいんだね。

それにしても、村の傍で夜を過ごした時に出会わなくて良かった。

「大きさはどれくらいですか?」

私の質問にケミアさんが両手を広げる。

「そうね、最低3mはあるわね。それよりも小さいのは、ほとんど見ないわ。というか、見たのは1回だけね。それでも2mはあったかしら」

子供のうちは姿を見せないって事かな?

それにしても3mか。

大きいな。

「あとやたらに硬いのよね」

「硬い? 鱗が?」

「そうなの。真剣では無くて魔物からドロップした多剣だとしっかり手入れしていないと、簡単に折れちゃうのよ。本当に簡単にパキンといくから驚くわよ。ただ火の攻撃には弱いわ」

ケミアさんの言葉にお父さんが首を傾げる。

「鱗があるのに?」

確か鱗には火による攻撃を防ぐ力があるって聞いたな。

「顔よ。火の攻撃をぶつけるなら鱗が無い顔。体にはびっしり鱗があるから駄目ね」

顔には鱗が無いんだ。

「なるほど」

「そう言えば、最近隣の村でもフォルガンを見たという報告があったらしい」

隣の村?

店主さんの言葉にケミアさんがため息を吐く。

「その噂は聞いたけど、本当なの? もし本当ならフォルガンの生息地域が広がっている事になるわよね」

魔物除けが効かない魔物の生息地が広がるのは、冒険者にとって危険だよね。

森の中での休憩が危険になる。

「また、調査が始まるわね。誰が駆り出されるのかしら?」

「フォルガンの調査ですか?」

「そう。フォルガンについては、まだ分からないことが多いからね。どこで誕生したのかもわかってないし。突然変異で誕生したという仮説が今のところ有力かしらね。あとは、誰かが魔物を組み合わせて作ったなんてことも言われているわね」

作った?

魔物を?

「まぁ、突然現れたから馬鹿な噂が流れたんだろうけどね」

「そうですか」

あれ?

お父さんの声が硬い?

「さてと、アイビー。そろそろ、続きを頑張るか」

「そうだね。あっ、牛丼は今日の夕飯になるんですか?」

私の言葉に、火の後始末をしていた店主さんが嬉しそうに頷く。

「いいかな? こめが気になってさ。ドルイドのお気に入りだって言うし」

「あれは美味い」

お父さんは本当に好きだよね。

「大丈夫です。こめを炊くにはちょっとコツがいるので、説明したいから……夕飯の時間から逆算して2時間前に調理場に来てください。それまでに作り置き作りも終わっている予定なので」

「分かった。そうだ、宿泊客は全員で10名。アイビーたちも入れて。あと、ケミアは夜は4人前ぐらいだから」

「分かりました」

もしもの時を考えて、20人分ぐらいで考えよう。

それだと宿泊客がお代わりしても足りるはず。

…………

「疲れた」

さすがに、1日中料理を作っていたから腕が痛い。

当分の間はお玉もヘラも持ちたくないな。

パン生地も慣れていないせいか、捏ねるのが大変だったな。

パン作りに慣れたら、少しはましになるのかな?

「お疲れ様。はい」

お父さんからコップを受け取る。

「あれ? お茶じゃないの?」

「あぁ、この村の特産品の果物の果汁が入った水らしい」

特産品の果物?

「すっぱい。あっ、でもすっきりする」

口に入れたら酸っぱさが来るけど、甘さもあって口の中もすっきりする。

「『カボ』という果物の果汁を水に入れてるらしい」

「そうなんだ。なんだか、さっぱりして美味しいね」

「あぁ、それにしても大量に作ったな。パンもかなりの数作っていなかったか」

「パン作りは、初めてだったからちょっと楽しくて。それに旅に出たら、パンは絶対に作れないし」

「そうか。今日は、ありがとうな。フォルガンの事を聞いてくれて」

お父さんの言葉に笑みが浮かぶ。

魔物の情報は旅をするなら絶対に必要になるし、子供である私が訊いた方が色々訊けることが多いのだ。

「明日、もう少しフォルガンについて調べてくるよ」

「気になる事でもあるの?」

私の質問に眉間に皺を刻むお父さん。

「調べてから、話すよ」

「うん。分かった」

良い話ではないだろうな。

覚悟しておこう。