軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外 お父さんの覚悟

「何をするんだ?」

「別に何もしないさ。ただ、噂が流れるだけだ。例えば、魔法陣によって暴走した魔物が森で暴れ始めたとか。逃げ出した者たちが魔法陣によって凶暴化しているとか。この村は今、色々な事があり情報が錯綜している。村の者たちが間違った噂をしたとしても、仕方ない事だろ? そう思うだろ?」

団長の話す内容に顔が引きつる。

森の中で待機している調査隊が、この噂でどれほど緊張を強いられるか。

団長を見ると、なんとも言えない悪い表情をしていた。

「だいたい、この村に必要なのは魔法陣を解析して対策を考えだす事が出来る者たちだ。二度と同じ事が起きないようにな。それなのに継承問題? ふざけんな、って本気でぶっ飛ばしたくなる。まぁ、そんな事はしない。本当にしない。ただ……調査隊がきたら大歓迎しないとな。どうせ、こんな時に動く奴らだ。もともと馬鹿の手先になっていた奴らだろう」

ここまで口が悪くなるのを初めて見たな。

これが素か?

いや、団長の一部か。

それにしても……馬鹿とは王位を狙っている王子の事か?

そっと団長を窺う。

これは、本気だな。

「止めないが、王家から睨まれる事が無いようにな」

ギルマスは慣れているのか、特に気にしている様子は無い。

「当然だ。魔法陣はまだまだ分からないことが多いからな。何が起きても魔法陣が原因だ。いや、本当に魔法陣は不思議だ」

それは少し違うような。

まぁ、いいか。

もともと手先となっている調査隊のようだし。

「ドルイド。というわけだから。そうだな……明日か明後日の午前中までには出発してくれないか?」

それ以降に何かを仕掛けるというわけか。

「明日のお昼ごろに出発予定だ。アイビーとそう話していた」

「そうか。寂しくなるな。アイビーはいい子なのに」

「そうだろ。とてもいい子だ」

俺の言葉に、団長とギルマスがこちらをじっと見る。

何だ?

「気付いているのか気付いていないのか、アイビーの話になると雰囲気が変わるな」

団長が面白そうに笑う。

「ここまで変わると、ある意味すごいな。そう言えば、昔この村で仕事をしたことがあるだろう?」

仕事?

「そんな事があったかもしれないが、覚えていないな」

昔について、正直あまり覚えていない。

真剣に生きてきた記憶はない。

ただ、仕事を依頼されたら考えることなく受けて、こなして、それの繰り返しだった。

「この村の上位冒険者と合同で仕事をこなしてもらった事があるんだ。難しい仕事だったが、それでも問題なく終わるはずだった。だが、情報に大きな間違いがあったため死んだ者や大怪我を負う者を多く出てしまった。村に戻ってきた君達は、ポーションを使い切っていて怪我の対応が出来ず、かなりひどい状態だったよ。なのにドルイド、君は血を流しながら平然と立っていた。色々な冒険者を見てきたが、あれは不気味だったから鮮明に覚えている」

ギルマスの話に記憶を探るが、どれがそれなのか分からない。

確かに大怪我を負った事は多々あった。

特に、アイビーと出会う前の5年ほどは、ひどいものだったと今なら思える。

ギルマスの話した状態は、その5年では頻繁に起こった事なので、どれがこの村の記憶なのか分からない。

「そうか」

「名前を聞いた時は驚いた。最初は別人だと思ったが、顔が一緒だったからな。変わったきっかけはアイビーか?」

俺自身も変わったと思うんだから、周りから見てもそう思うだろうな。

「そうだ。アイビーは俺の命の恩人であり光だ」

俺の返答に団長とギルマスが顔を見合わせる。

何か訊きたい事があるようだが、なんだ?

「村の外の魔法陣の事だ。アイビーとドルイドが影響を受けていたと聞いている。あれは本当か?」

訊かれると思ったが、急だな。

さて、どこまで話すべきか迷うな。

「あぁ」

「そうか」

団長が答えると、少し間が空く。

それに首を傾げる。

もっと質問が来ると思ったが、意外だな。

「ドルイド、俺たちは何も聞かない。もしもの時の事を考えると、これ以上の情報は持っておかないほうがいいと判断した」

団長の言葉にギルマスが頷く。

「あの契約書で縛られていると言っても、絶対はないからな。もちろん、約束は死守するつもりだ」

「ありがとう」

この2人は、本気でアイビーと俺を助けてくれるつもりのようだ。

「それと、この村で2人の事を知っている者たちにもしもの事があった場合、各冒険者ギルドで、ある情報が流れるようにしておく」

もしもの時か……無ければいいが。

「分かった。情報とは?」

「そうだな。何がいいと思う?」

考えてなかったのか?

「何かいい言葉は無いか? 俺たちに何かした者たちが見ても問題ない文面じゃないと困るんだが」

確かにそうだな。

「「「…………」」」

思い浮かばないものだな。

何かないか?

「『ミンは確保済み。探す必要なし』でどうだ?」

空を飛べるミンは、行動範囲が広くなかなか確保が出来ない小型の魔物だ。

需要が無いため捕まえる冒険者もいないが、時々だが捕まえて欲しいと依頼がある。

ここ1、2年は、そんな依頼も無いからちょうどいいだろう。

「いいな、それ。それを読んでも、珍しい依頼があったんだなと思うぐらいか」

「そうだな」

団長とギルマスも納得してくれたようだ。

とは言え、そんな情報は耳にしたくない。

「ドルイド。アイビーはこれからも巻き込まれるぞ」

団長の言葉に、肩がびくりと震える。

それは気になっていた事の1つだ。

今回の村の外に置かれていた、石に刻まれた魔法陣。

アイビーを直接狙ったものではないが、前世の記憶を持っている者を狙っていた。

これからも、間接的に狙われる可能性が高い。

「だろうな」

「ドルイドもだろう?」

ギルマスに言われて頷く。

「確かにその通りだ。だが、俺は元冒険者だ。ある程度は自分で対処できる。利用されるつもりも、殺されてやるつもりもない」

だが、アイビーは違う。

「アイビーは大人の事情に巻き込まれて、この道以外は選べなかった」

守ってくれる大人がいれば、きっと危険な旅に出る事は無かったはずだ。

「ソラやシエル、俺と出会う事で少しは安心できる環境になってきたのに、また命を狙われる事になるとは」

俺の言葉に、団長とギルマスが息を呑む。

そう言えば、アイビーが生まれた村で殺されそうになった事は言っていなかったな。

「今度は俺が守る。絶対に守ってみせる」

敵の姿が見えないから不安を感じた事もあるが、気持ちは迷わない。

アイビーの心も体も守ってみせる。

「シエルたち、仲間もいるから大丈夫だ」

昔の俺なら、仲間がいる事を嬉しく思う事などなかっただろうな。

でも、今は彼らの存在が心強い。

「安心したよ。ドルイドは既に覚悟が出来ているようだな」

「あぁ。敵が巨大すぎて、どうすればいいのかは迷うけどな」

教会なんてどこにでもあるし、魔法陣は隠されてしまうと見つけられない。

不安もある、でも俺は1人ではない。

「とりあえず教会の近くには寄らない事だな。不審な動きを見せる者にも注意か。魔法陣に対しては難しいが」

ギルマスの言葉に団長が笑った。

「ソルたちの存在を忘れてないか?」

確かに、ソルやソラたちが何とかしてくれそうだよな。

「いいよな~。俺もフレムみたいな魔物が欲しい」

ギルマスの言葉に、団長が呆れた視線を送る。

「テイマーじゃないのに無理だろう?」

「いいだろうが思うぐらい。あっ、残念だったなアッパス。元の姿になったシエルを見られなくて」

ギルマスの底意地の悪そうな表情に、団長が睨みつけながら酒を煽る。

酒の瓶を見ると、既に底の方に少し残っているだけになっている。

これって間違いなく、明日エッチェーさんに怒られるよな。

「そろそろ酒は止めた方がいいのでは?」

「ドルイド、まだまだだ!」

団長が足元からもう2本、酒の瓶を出してくる。

これはやばいな。

付き合ったら、俺も一緒に怒られる事になるだろう。

「よしっ、飲むぞ」

ギルマスを見ると、目が少し据わっている。

これは酔っているな。

よしっ、帰ろう。

ここにいてもいい事は無い。