軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

435話 魔法陣、発動

部屋に入ると、メリサさんが中腰の状態で、魔法陣の文字を1つ1つ丁寧に書いていた。

天井を見ると、既に完成した魔法陣がある。

「あら? どうかしましたか? 魔法陣なら、もう少しで書き終わりますけど……」

「ありがとう。様子を見に来たんだ」

「大丈夫ですよ。書き間違いなんてしませんから」

メリサさんが、左手に持っている紙をひらひらと見せる。

そこには魔法陣で使われている文字が1つ1つ丁寧に書かれていた。

「随分と綺麗にかけるようになったんだな」

「もう必死になって練習しましたよ。文字に見えない物もありましたからね」

メリサさんの視線が団長さんから部屋の中に移動するので追うと、そこには文字を練習した紙が無造作に積みあがっていた。

「はははっ、かなり頑張ってくれたんだな。ありがとう」

「そうですよ。この文字なんて……」

団長さんとメリサさんの話を聞きながら、魔法陣を眺める。

サーペントさんを支配しようとした魔法陣とは全く異なる文字が使われているのが分かる。

文字だと聞いていても、絵にしか見えない文字もあるけれど……。

「よしっ! 最後の1文字、完成~」

メリサさんが立ち上がって腰を叩く。

かなり腰がしんどそうだ。

「さすがだな。間違っている箇所はどこにも無い、完璧だ。ありがとう」

団長さんが感謝を言うと、メリサさんがホッとした表情を見せる。

「これが上手く動いてくれたら、術は解けるんですよね」

メリサさんが片づけをしながら団長さんをちらりと見る。

「あぁ、これがあれば多くの者たちを助ける事ができるはずだ。だが、これが正しく発動するかは使ってみない事には分からない」

魔法陣は正しく書けていると言っていたのに、分からない?

「そうなんですか? 魔法陣の文字に失敗はありませんけど……」

「正しく書いていても、上手く動かない時があるんだ」

「へぇ、厄介なものですね。せっかく完璧に書き上げたのに」

メリサさんは魔法陣を見ながら小さくため息を吐く。

「まぁ、まれに動かないというだけでほとんどは正常に動く結果が出ているから、多分大丈夫だろう」

「そうですか。では、動くと信じるしかないですね」

メリサさんが肩を竦めると、団長さんが頷いた。

「そうだな」

団長さんは、少し苦しそうな表情で魔法陣を見る。

メリサさんがそんな団長さんを見て、目を伏せた。

「動かす者たちを、呼びますか? 待機してますが……」

メリサさんの問いに、少し考えるそぶりを見せた団長さん。

「そうだな。魔法陣を1回発動させよう。動いたら、順番に術を解いていこうか」

団長さんの言葉に、メリサさんが部屋を出ていく。

「ドルイド、アイビー。あと少ししたら人が来るから」

「分かった。行こうか、アイビー」

「うん」

部屋から出る直前、団長さんをそっと窺う。

彼は無表情で、魔法陣をただ見つめていた。

「ふ~」

部屋から出ると、小さくため息を吐く。

魔法陣を発動させるには、どうしても人の手が必要になる。

その人たちが、どうなるのか分かっていても……。

頭の上に、人の手の重みが乗る。

それがゆっくりと動くと、余分な力が入っていたのか体から力が抜ける。

どうやら気付かないうちに緊張していたらしい。

「2階に上がろう」

「うん。ソルの魔石が役に立ってくれるかな?」

2階へ行く階段を上りながら、前を歩くお父さんを見る。

「あぁ、きっと役に立つよ」

どんな力がある魔石なのか、一切分からない。

でも、ソルがわざわざ作ってくれた魔石だから、きっと何かある。

それを信じている。

「アイビー。この家にはこれから冒険者や自警団員たちが集まりだす。ギルマスの家に戻っていようか」

「そうだね。行こうか」

お父さんが団長さんに話に行っている間に、ソラたちをバッグへ入れる準備をする。

「ごめんね。ギルマスさんの家に行ってゆっくりしようね」

私の言葉にプルプルと震えるソラたち。

バッグの中を整えると、順番にバッグへと入ってもらう。

「お待たせ。行こうか」

お父さんと一緒に、団長さん宅の裏から出る。

「あっ、待って」

裏から出たところで、エッチェーさんに呼び止められた。

振り返ると、カゴを持ったエッチェーさん。

「これ、食べて。大丈夫よ、アイビーに渡すものに薬なんて入れていないから」

ん?

私でない場合は、入れるのかな?

「それと、術は動いたみたいだわ。気を付けて帰ってね」

エッチェーさんは忙しいのか、言うだけ言うと家に戻っていく。

「魔法陣、動いたんだね」

「みたいだな。すぐに自警団員たちが集められるだろうな」

「そっか」

動いて嬉しいのに、嬉しくない。

複雑だな。

それを決断する団長さんはやはりすごいな。

「団長に聞いた話をしておくな。アイビーも知っておいた方がいいだろうと思うから」

「うん。お願い」

「魔法陣はなるべく動かし続ける事にしているそうだ。と言っても今日は様子見だから100人ぐらいを目標として様子を見るらしい」

まずは魔法陣の効果を見るって事かな?

「明日この100人に問題が無ければ、冒険者たちや自警団員たちの術の解除が本格的に始まる。なるべく多くの者たちの術を解除するため、続けざまに魔法陣を発動する予定だそうだ」

1日でも早く術を解かないと、門番さんたちのようになってしまうもんね。

でも続けざまって、大丈夫なのかな?

「ただ、この魔法陣は数回、動かした事はあるが、続けざまに動かしたことは無いらしく問題が起こる可能性があるそうだ」

「問題?」

「あぁ、問題の予想はつかないと言っていた。……アイビーは魔法陣を発動させる側がどうなるのか聞いているよな?」

「うん。最終的には気が狂うって」

「そうだ。門番の1人がそうだったな」

「うん」

「今回、魔法陣を発動するために集まった者たちが、何回ぐらい魔法陣を動かせるのかまったく予測がつかないらしい」

「そうなの? 全然?」

「あぁ、そうみたいなんだ。理想は気が狂う前に全員が術から解放される事だが、現実として難しいみたいだな」

まぁ、術に掛かっている人が多すぎるもんね。

しかも、まだ術に掛かっているか、掛かっていないか分からない人もいると聞いているし。

「だから、もしもの事を考えて家にジナルたちが待機するそうだ」

ジナルさんたちが?

「気が狂うと痛覚などが鈍くなるのか、動けなくなるまで襲い掛かってくることがあるそうだ。理性が失われているから動きも読みにくくて、対応が難しいらしい。さっき団長から聞いたんだが、心臓を止めても数分襲い掛かる事もあるそうだ」

それは怖い。

「今の団長にその対応は出来ないからと、エッチェーさんが、ジナルたちに待機をお願いしたみたいだな」

痩せ細っている団長さんを思い出す。

力強い目をしているけど、見た目はまだ痩せすぎているし力もなさそう。

「ジナルさんたちに任せておけば、大丈夫だね」

「あぁ、問題ないだろう。……アイビーは大丈夫か?」

お父さんが心配そうに、覗き込んでくる。

それに苦笑を返して、頷く。

大丈夫かと言われれば、たぶん大丈夫。

ただ、すごくやるせなさを感じるけれど……。