軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

432話 心の疲弊

団長さん宅は門番さんが暴れた事があったからなのか、随分と人の出入りが激しく私たちは裏から家の中に入った。

「こう出入りが激しいと、誰が術に掛かっていて、誰が掛かっていないのか分からないな」

お父さんの言葉にナルガスさんが頷く。

「2階に上がりましょう。2階までは上がってきませんから」

2階は団長さんの許しがないと、上がれないらしい。

団長さん宅に来た初日から、結構家の中を自由に歩き回ったけど駄目だったのかな?

「後で団長さんに謝っておこう」

「ん? どうかした?」

心で思っていた事が、無意識に口から出ていたらしく少し慌てて首を横に振る。

ピアルさんが少し不思議そうに私の顔を見たが、ポンと頭を撫でて2階へ上がっていく。

2階へ上がってよく利用している部屋に入ると、なぜかものすごくホッとした。

「団長に言ってくるよ。あと、お茶とか貰って来るから」

ピアルさんが部屋から出ていくと、ナルガスさんが大きなため息を吐いて椅子に座った。

「疲れているな」

ナルガスさんの正面の椅子にお父さん、隣に私が座る。

「すみません」

お父さんの言葉に少し情けない表情をするナルガスさん。

「リーダーだからと気を張りすぎていると、失敗するぞ。もう少し気楽にって言っても難しいだろうけど、あまり気負い過ぎるなよ」

ナルガスさんの顔を見ると、目の下に隈があるのが分かる。

「分かってはいるんですが、ここまで大きな事件に関わったことが無くて正直何をしたらいいのか分からないんです。何とかしたいという気持ちはあるんですが、どうすればいいのか」

ナルガスさんたちは上位冒険者だから、ただ指示に従っていたらいい立場では無いもんね。

「言っておくが、こんな事件がそうゴロゴロ起こったらやばいぞ」

やばい事件……2回目。

何だろう、泣きそう。

もしかして前世の私って、ものすごく極悪人とか?

そう言えば、人身売買の組織の時も前の私の知識が役に立ったよね。

あんな知識がポンと浮かぶって事は……経験したことがあるから?

……本当にすごい悪い人だったらどうしよう。

「アイビー、どうした? 疲れたか?」

お父さんの心配に、少し微妙な表情を返してしまう。

「今日はもうゆっくりしようか」

「大丈夫。どうしようもない事を色々と考えただけだから」

自分が思っている以上に、疲れているかもしれない。

こういう時って、悪い事というか、馬鹿な事を真剣に考えてしまったりするんだよね。

「そうか?」

「うん。色々ありすぎて」

たぶん心が本当の意味では、休息できていないんだろうな。

ここ数日を思い出す。

魔法陣の怖さを知って、村を襲っている色々な問題を知って、今日は門番さんたちが壊れたかもしれなくて……。

気付かないようにしてきたけど………………疲れたな。

「そうだな」

ポンと頭に温かな手の感触。

撫でてくれているのか、気持ちがいい。

「……あっ、ソラたちをバッグから出すの忘れてた」

「ん? 俺も忘れたな。……俺も、少し余裕が無いな」

「ふふっ、一緒だね」

バッグを開けると、ぴょんと皆が飛び出してくる。

いつもだったらすぐに自由に飛び回るのに、今は私とお父さんの周りにいる。

心配を掛けてしまったようで、「大丈夫」と言いながら皆の頭を撫でるとプルプルと返事を返してくれた。

ソルがちらりと後ろを見て、そのままぴょんとナルガスさんの元に跳んで行く。

腕の中に飛び込んできたソルに驚いた表情を見せた彼は、すぐに嬉しそうにギュッと抱きしめた。

皆が少しずつ疲弊している事に気付く。

早く解決できればいいのにな。

「お待たせ」

ピアルさんがお茶とお菓子を持って部屋に入ってくる。

「団長は今の用事が終わったら来るって」

「そうか。それまで休憩だな」

温かいお茶を飲んで、お菓子を食べる。

甘さがじんわりと体に行き渡る。

「悪い。待たせたな」

団長さんと一緒にアーリーさんたちが部屋に入ってくる。

その表情は暗く沈んでいた。

「まずは、洞窟調査だがありがとう。どうだった?」

「シャーミは警戒心が強くて近づくことは出来ませんでしたが、少しずつもとに戻りつつあるようです」

「警戒?」

「アダンダラである、シエルに」

「あぁ、なるほど。アダンダラは魔物の世界で上位だ。シャーミにしたら出会いたくない魔物の1つだろう」

分かっているんだけど、違和感があるよね。

お父さんの膝の上にいるシエルを見る。

撫でられて気持ちがいいのか、目を細めてのんびりしている。

団長さんがシエルを見て、少し複雑そうな表情をした。

何となく、気持ちが分かる。

「それと、洞窟の奥で遺体を見つけました。その中に……副団長がしていた指輪と同じ指輪をしている者がいました。あと、聖職者の服を着た者も確認できました」

ナルガスさんの言葉に、団長さんが一瞬固まる。

「……そうか。ありがとう。こちらで起こった事はある程度は聞いているか?」

ほんの少しの間が空いたが、団長さんはいつも通りに話し出す。

「門番たちの話なら聞いたが、分かっている事はあるのか?」

「術の限界が来たという事だ」

団長さんの返答に、お父さんは目を細める。

「自我を忘れて暴れたと聞いたが?」

「……はぁ。やはり分かるよな。まだ詳しく分かっていないが、暴れた方は術を掛けた者の可能性がある。だが、これは内密に頼む。まだ確実ではないからな」

団長さんが部屋にいる全員を見る。

「分かった」

術を掛けた者、つまり敵の1人の可能性があるって事だよね?

ジナルさんたちが術に掛かっているかどうか調べたはずだけど、気付かなかった?

そうとうやり手の彼らを誤魔化すのは、かなり大変だと思うけど……。

「倒れた者たちは、術を掛けられた方だろう。アーリーとジャッギは見てきたんだろう?」

団長さんが、顔色の悪い2人に声を掛ける。

ジャッギさんが顔を上げると1回頷く。

「目が覚めてはいたが、自我が崩壊している可能性があるらしい。話すことは出来なかった」

何を見てきたのか、2人の表情が苦しそうに歪む。

「そうか。残念だ」

団長さんの言葉に2人は下を向く。

先ほど聞いた、お世話になった人が被害者にいたのかな?

「ジナルたちが、この件について調べている。どうも気になる事があるらしい」

「そうか。それで術の解放はいつからやるんだ? 時間がないだろう」

そうだった。

術から解放する方法があると団長さんは言っていた。

限界が来た人がいる以上、早急に始める事になるのかな?

「……既に自警団員数人が参加してくれることになっている」

団長さんの強張った声に驚いて、彼の顔をじっと凝視してしまう。

術の解放に何かあるのだろうか?

確か、魔法陣を用いて術に掛かっていた人たちを助けるって……あれ?

魔法陣を用いて助ける?

魔法陣は発動させる人に負荷がかかって、今回のように最終的には自我が崩壊するって……。

そうか、誰かが魔法陣の負荷を背負うのか。

「魔法陣が見つかれば、もう少し彼らの負担が減らせるんだが……」

魔法陣はまだ見つかっていない。

何処にあるんだろう。

色とりどりの光に窓。

何か記憶に浮かぶんだけど、それが掴めない。

「そうだ、教会から行方不明者の連絡が届いていないか調べてくれないか?」

「教会? あぁ、聖職者の服を着た遺体が見つかっていたな」

「本物かどうかは不明だが、調べておかないと駄目だろう」

お父さんと団長さんが話をしているのが、耳に届く。

教会には触れたくないので、お任せ……ん?

教会?

色とりどりの光に窓……なんて言うんだっけ?

ステンドグラスだ。

「そうだ、ステンドグラスだ! 魔法陣はステンドグラスがある場所にある可能性があります!」

私の言葉に表情を強張らせる団長さん。

お父さんも少し戸惑った表情を見せた。

何か不味い事でも言ったのだろうか?