軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

381話 売り切った!

「すみません」

コウルさんが椅子に座った状態で私たちに謝る。

「大丈夫ですから、ゆっくりしてください」

炭とタレで汚れた網を洗いながら、コウルさんに声を掛ける。

コウルさんの隣の椅子にはリジーさんが、机にへばっている。

もう声を出す元気も無いようだ。

「よし、終わった」

炭の処理をしていたお父さんが、ぐっと腕を伸ばす。

「お父さん、お疲れ様」

「そっちはどうだ?」

「もう終わるよ~」

汚れが取れた網を見せると頷いてくれた。

隣に来て手を洗うお父さんが、後ろを向いて「ぷっ」と噴き出した。

布でお父さんの手を拭きながら振り返ると、右頬を机にのせて項垂れているコウルさんとリジーさん。

「そうとう疲れているな」

「仕方ないですよ。あれだけお客が押し寄せたら」

隣のテントの女性たちが、屋台の前で騒いでくれたおかげで人が集まり列を作った。

それでもお昼を過ぎるあたりで落ち着くだろうと思ったので、私たちは広場に戻ったのだがしばらくするとある噂が聞こえてきた。

「メルメが美味しく食べられる屋台があるらしい」と。

何となく嫌な予感がしてコウルさんたちの屋台に行くと、客の列が昼より長くなっていた。

リジーさんに大丈夫か確かめると、疲れた表情で首を横に振った。

「あの時は焦ったな。疲労困憊の表情だったし」

「うん。戻ってきてよかったね」

倒れる前に手伝いが出来てよかった。

「そうだな」

お湯を沸かしてお茶を淹れる。

お父さんが屋台を閉めた後に買ってきたフィーナと一緒に机に置く。

「コウルさん、リジーさん、お疲れ様。甘いものでも食べましょう」

私の声にのっそりと起き上がる2人。

動作がゆっくりでちょっと怖い。

「ありがとう」

リジーさんがフィーナを一口食べてほっと息をついた。

甘いものはホッとするのにいいよね。

私も一口食べる。

うん、美味しい。

「明日は、休みだな」

「そうね」

気付いたらマジックボックスは空。

気づかない間に明日の分まで焼いて売っていたらしい。

まぁ、混乱していたから仕方ない。

「ちょっとホッとしてる」

リジーさんがお茶をゆっくり飲む。

「あぁ、休めるな」

コウルさんの言葉に、ちょっとむっとした表情を見せるリジーさん。

「そっちじゃなくて、売れてくれたから」

「あぁ、そっちか。俺もそれは嬉しいよ。ただ明日はゆっくりしたい。腕が痛いし」

メルメを焼いていたコウルさんの腕が限界らしく、痛みがあるそうだ。

「ごめん。コウル、大丈夫?」

リジーさんがそっとコウルさんの腕をさする。

「家にあるポーションを飲めば大丈夫だろう」

ポーションがあるなら大丈夫だね。

それにしても腕が痛むほど頑張って焼いていたのか。

途中からお父さんも手伝っていたけど、ほぼ1日中焼いていたもんな。

「客が落ち着くまでポーションをここに用意しておいた方がいいだろうな」

「そうします」

リジーさんが引きつった表情でお父さんを見る。

それに気付いたコウルさんがお父さんとリジーさんを見返す。

「どうかしましたか?」

「今、客が落ち着くまでって。またこんなに人が押し寄せるんですか?」

お父さんは少し考えたが、1回頷く。

「明日休むので明後日は混むでしょう。今日より客は多くなる可能性もあります」

確かに噂の店として既に冒険者に広まっている。

明日には村の人たちにも広がっているだろう。

なのに、明日は休み。

明日来れない人も明後日に押し寄せる可能性がある。

話題の食べ物に人は集まるからな。

「今日より多いとなると、仕込みはどれくらい必要だろう?」

「そうだな、余裕をもって今日の3倍は用意した方がいいだろう」

お父さんの言葉に驚くコウルさんとリジーさん。

「あの、お店を手伝ってくれる人はいませんか? 1週間ぐらいで落ち着くと思うのでその間だけでも」

リジーさんたちも慣れていないみたいだから、もう少し人手があった方がいいよね。

今日みたいだと休憩も取れないし。

コンコン。

ん? 誰か来たみたい。

「はい。どなたですか?」

「俺だ、アバだ。コウルか?」

アバさん?

「お父さん! どうした? 何かあったのか?」

椅子から急いで立ち上がったコウルさんは、屋台の出入り口の扉をすぐに開ける。

そこには年配の男性2人と女性2人が心配そうな表情で立っていた。

「何かって、噂を聞いたんだ。メルメの屋台が開店したって。昨日そんな話をしていたから、もしかしてと思ったんだが、何をしているんだ! これ以上借金を増やしてどうする!」

あれ?

もしかして、「メルメが美味しく食べられる屋台」という噂とは違う噂が流れてるのかな?

「いや、それは大丈夫だ」

うん、コウルさんの言う通り。

上手くいけば、ご両親の借金だって返せるかもしれないからね。

「何が大丈夫だ! こんな時間なのに店を閉めて、やはり売れなかったからだろう?」

本当にどんな噂が流れたのか気になるな。

「いや」

「もういい加減俺たちも分かってる。お前たちに無理をさせたと」

アバさん色々と後悔しているんだろうな。

子供に無理をさせてるって。

「そうよ。私たち話し合って、あなたたちの借金も私たちが払う事にしようって」

この女性はコウルさんに似てるな。

お母さんかな?

「話を聞いてくれ!」

屋台にコウルさんの大声が響く。

それにびくりと体が震えてしまう。

「はぁ、店を閉めたのは商品が完売したからだ」

「「「「はっ? 完売?」」」」

目を見開いて驚く4人。

メルメが完売したのが、それほどの衝撃になるんだ。

「コウル、完売したのは本当なの? メルメが売れたって事?」

期待を込めた目をして、おそらくコウルさんのお母さんが、コウルさんを見る。

「あぁ、本当だ」

それに顔を綻ばせるコウルさんのお母さんだと思われる人。

「ごめんなさい。急に騒がしくなって」

リジーさんが、お父さんと私に謝る。

その声にアバさんたちは、ようやく私たちに気付いたようで、少し焦っている。

「すみません。えっと、初めましてコウルの父親のアバです。隣が」

「母親のリコアです。急に騒がしくしてすみません」

やっぱりお母さんだ。

目元とか鼻筋とか似てるな。

「リジーの父親のミハルで、母親のチェイルです。えっと、あなた方は?」

「旅をしているドルイドと娘のアイビーです。初めまして」

「アイビーです。よろしくお願いします」

椅子から降りてお父さんの隣に行って挨拶をする。

なぜかリコアさんとチェイルさんに微笑まれた。

「父さん、彼らがメルメの美味しい食べ方を教えてくれたんだ」

「そうなんですか? それは、ありがとうございます」

アバさんがギュッとお父さんの手を握る。

「俺というよりアイビーの考えた調理方法ですよ」

「すごいわね。娘さんが?」

4人の視線が私に集中する。

これはちょっと恥ずかしいな。

そうだ、どんな噂が流れているのか訊きたいな。

「あの、噂ではメルメの事をどういってましたか?」

これで明後日どれくらい人が来るか予想出来るかな?

「私たちが聞いた噂は『メルメの屋台が出来たらしい』と『メルメを屋台で売ってる馬鹿がいる』と『メルメが美味しく食べられる屋台があるよ』この3つです」

2つ目はなんだかいらない気がするけど。

この噂が明日広がるとして……やっぱり明後日は3倍ぐらい準備した方がいいかな。

「お父さん、やっぱり3倍ぐらい」

「だろうな」

お父さんと私の会話にアバさんたちは不思議そうな表情をし、コウルさんとリジーさんは苦笑いした。

「あの、美味しくなったメルメはありますか? 食べてみたいんだけど」

チェイルさんがコウルさんに訊くが、彼は首を横に振る。

「ごめん。2日分用意していたんだけど、売り切った。まったく残ってないんだ」

コウルさんの答えに、チェイルさんだけではなくアバさんたちも嬉しいけど残念というような複雑な表情をした。