軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

377話 聞いちゃ駄目!

お父さんと揉めに揉めて、選んだ3つのバッグ。

1つ目は私専用バッグ。

2つ目はお父さん専用バッグ。

背が違うため、どうしてもバッグの大きさが異なるのでそれぞれ購入することになった。

3つ目は2つのバッグの中間の大きさ。

どちらのバッグが駄目になっても持てるようにこの大きさ。

柄はそれぞれ気に入った物を選んで、3つ目は2人の意見を取り入れて選んだ。

そのためにちょっと時間が掛かったが、満足いく買い物が出来たので気分がいい。

「ソラたち気に入ってくれるかな?」

「大丈夫だろう」

「それより大丈夫だった? 最初に選んだバッグより3つとも高かったよね?」

「大丈夫。ソラやフレム、シエルやソルの今までの頑張りでかなり余裕があるし。売れる物もまだ沢山残っているしな」

確かにマジックボックスの中には色々詰まっていたな。

うん、クッション性やこれからの季節に合う風通しなどで選んだために値段が高くなったけど、後悔なし!

気に入ってくれるといいな。

皆優しいから大丈夫かな?

「さて、裏道をのんびり散策しながら噂を調べるか」

「了解!」

大通りに比べると人が少ないが、それでもそれなりに人が集まる裏通り。

店もあり、ゆっくり散策するには結構お薦め。

「新しく出来たお店、もう潰れたみたいよ」

「そうなの? でも、あの味では仕方ないよ」

厳しい意見だな。

「酒だ」

お父さんの視線の先には酒屋。

店の中を窓から覗き込むと、多種多様な酒が売られているのが分かる。

隣で同じようにお店を覗いているお父さんから、小さな声で「あれは!」と聞こえる。

「見てきたら?」

「いいのか?」

「もちろん。お酒に合う夕飯にするね」

「ありがとう」

楽しそうな表情で酒屋に入るお父さん。

今日の夕飯はどうしようかな?

まだタレ漬けのメルメがあるな。

あれを少しピリ辛に変えて、野菜はあまり重くならないように葉野菜でいいかな。

それと、明日の朝にも食べられるようにスープを作ろう。

お父さんは、お酒を飲むからスープはいらないよね。

そうだ、久しぶりに焼きおにぎりを作ろうかな。

「隣の旦那さん、昨日の夜に自警団に捕まったのよ」

「あら、また?」

なんだか物騒な会話だけど、またなんだ。

そっと周りを窺うと、少し離れたところに女性が3人いるのが見えた。

買い物帰りなのか、荷物から野菜などが見えている。

「またって何?」

「えっ? 知らないの? あの旦那、飲むと人が変わって暴れるのよ」

うわ~、それは最低。

「やだ、そうなの? 挨拶するけどいい人そうなのに」

「人は見かけによらないから」

それは言える。

見た目で判断すると、痛い目に遭います。

ちょっと数回頷いてしまう。

「奥さん、大丈夫なの?」

そうだよね。

暴れる旦那の被害者だもんね。

「あの奥さんなら大丈夫よ。今頃男を家に連れ込んでいるから」

ん?

「何それ」

「家を出る時に見ちゃって。腕組んで家に入るところ」

「「うわ~」」

うわ~、すごいな。

旦那が暴れるのは奥さんの浮気が原因なのかな?

それとも暴れる旦那に嫌気がさして、他の人と?

首を傾げていると、頭がくいっと引っ張られて服とおそらく手で耳をふさがれる。

「えっ?」

少し驚いたが、お父さんだと気付くと顔を上に向ける。

視線が合うと、なんとも複雑な表情をしていた。

そのままの体勢で、お父さんが話をしている3人の女性の方を見て小さくため息をついた。

その様子にちょっと笑ってしまう。

「ごめん、行こうか」

「うん」

まだまだ続く女性3人の会話を聞き流しながら、お父さんと広場に向かって裏通りを歩く。

ちらりとお父さんを窺うと、まだ複雑な表情のまま。

「お父さん、あの人たちの話はまだましだよ。冒険者たちの方が赤裸々だから」

冒険者たちの夜の会話は少し卑猥な事が多い。

男性だけのチームや女性だけのチームだと話のレベルが上がる。

どちらかというと、女性の方が赤裸々だ。

ただ、女性の場合は話が聞こえるだけだが、男性の場合はちょっと厄介な事があった。

色々と教えようとする人がいる事だ。

少し前まで男の子のふりをしていたので、何度か巻き込まれそうになった。

もちろん、逃げたけど。

「あ~まぁ、人の事は言えないんだけどな……昔はまぁ色々と周りを気にせず話したし……」

苦渋の表情を浮かべるお父さんに笑う。

そこまで心配しなくても大丈夫なのに。

「大丈夫だよ。気にならないし」

最初の頃は恥ずかしかったけれど、慣れてしまった。

いちいち反応していたら、広場では過ごせない。

「気にならないぐらい聞いてきたって事だろう?」

まぁ、そう言われればそうだけど。

肩を竦めると、お父さんは大きなため息をつく。

「仕方ない面なんだけどな」

「そうそう。それより、焼きおにぎり作ろうと思うけど食べる?」

「久しぶりだな」

「うん。なんだか作りたくなったんだ」

「楽しみだ。そろそろ大通りに戻るか。このあたりには店も無いみたいだしな」

確かに店は無いみたいだな。

あれ?

「お父さん、あれお店じゃない?」

視線の先には小さなお店。

少し古臭い看板には肉の絵と文字。

「肉屋?」

「ちょっと見てみて良い?」

「あぁ、行ってみよう」

何となく魅かれたので、肉屋まで行く。

店は小さく、扉の窓から見えた限りでは売っている肉は1種類のようだ。

あの赤身の感じは見たことがあるな、もしかしてメルメかな?

「メルメ専門店?」

専門店にしては売っている肉の量は寂しいけど。

でも、肉の状態はいいように見える。

「お父さん、メルメをちょっと多めに買いたいけど大丈夫?」

「あぁ、別にいいけど。あのタレ漬けのメルメ、美味しかったしな」

「あの漬けタレを基本にして、色々と味を変えてみたいんだ」

「なるほど、今から楽しみだよ。そうだ、アイビーにお願いがあったんだ」

「どうしたの?」

「前に作ったタレ漬けのメルメはまだあったよな。あれを酒のつまみに貰えないか?」

「最初からそのつもり。味はつまみになるように、少し変えるね」

私の言葉に嬉しそうな表情をするお父さん。

こんなやり取りが本当に嬉しいな。

お店の扉を開けると、カランカランと可愛らしい音が店内に響いた。

驚いて扉の上部を見ると、ドアベルが付いていた。

「いらっしゃい」

店の奥から若い男性が姿を見せる。

私たちを見ると、驚いた表情をした。

それに首を傾げる。

何だろう?

「このお肉はメルメですか?」

「はい、そうです。えっと?」

私がメルメなのか確認すると、もっと驚いた表情をする。

いったい何なんだ?

「メルメの肉を20㎏、下さい」

ちょっと多いかな?

でも基本のを作って、甘めの味と醤油味と薬草を効かした味と他にも色々考えているし。

やっぱり、20㎏はいるよね?

「……20㎏? えっと、他の肉と間違えていませんか? メルメですよ?」

ん?

他の肉と間違えている?

いったいどういう事なんだろう。

「店主、メルメで間違いない。俺たちが欲しいのは、メルメ肉20㎏だ」

お父さんが店主に向かって、少し声を張り上げてゆっくりと告げる。

少し呆然とした後、慌てたように肉の準備をする店主。

「すみません。メルメはなかなか人気が無くて。でも、こんなに買って大丈夫ですか?」

「安いから大丈夫ですよ?」

人気が無いため本当に安いもんね。

「いや、そうではなくて。使いきれますか? 20㎏ですよ?」

「美味しいのであっという間に20㎏なんて無くなりますよ」

「……美味しい? えっと味覚だいじょ……いえ、なんでもないです」

そういう事か。

この村ではメルメは硬くて臭いんだった。

「薬草で下ごしらえをしてパパシを使ったタレで漬け込むと、美味しくなりますよ」

私の言葉に思案顔になる店主。

「俺もパパシを使って色々挑戦したんだけど……」

そう言えば、最初にタレに漬けただけだと臭みがあっていまいちだったな。

だからまずは、臭みを取ろうとして薬草を使ったんだった。

「最初に薬草で臭み取りをしたのが、よかったのだと思います」

「あの! 少しでいいのでそのお肉を頂けませんか? それとその調理方法を売ってください」

ガバっと、音がしそうなほど勢いよく頭を下げる店主。

予想外の事態に、呆然と店主の後頭部を見つめてしまった。