軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

375話 噂・噂

「アイビー、ジナルさんはどんな人だった?」

お父さんの言葉に布団を準備していた手を止める。

ジナルさん?

何というか。

「不思議で、え~っと腹黒かなって?」

「腹黒って……いや、まぁ、そんな感じはしたけどな」

だって、ガリットさんを怒った時にしたあの視線。

どう見ても、楽しそうだった。

私の視線に気付いて笑ってごまかしたけど、あれは絶対にシファルさんみたいな、言葉巧みに相手を追い込んでそれを見て楽しむタイプだと思う。

ラットルアさんのように、笑顔でゆっくりゆっくり追い込んでいくタイプではない。

「あ~、そういうことを聞きたいのではなくて……嫌な感じとかしなかったか?」

「へっ?」

嫌な感じ?

ちょっと不思議な質問や帰り際の意味の分からない宣言に首を捻るけど、嫌な感じは無い。

「特に悪い印象はないよ」

「そうか」

「お父さんは何か感じたの?」

「まぁ、やたらアイビーと2人になりたがるから、気になってな」

私と2人に?

確かに料理途中にお父さんではなくて私の所に来たよね。

でも、あれはお土産が私にだったからだろうし。

帰り際の、あのよくわからない宣言は……そう言えば、お父さんはいなかったな。

「何かあったの?」

でも、それだけでお父さんが怪しく思うかな?

ソラが大丈夫だと判断してるわけだし。

「ガリットさんたちがテントに来た時、ジナルさんがいなかったからな。すぐにアイビーの元に行こうとしたんだが、2人に邪魔されたような気がしてな」

えっ?

「まぁ、ソラが大丈夫と判断はしているが警戒はしておいてくれ」

「うん、わかった」

布団にもぐりこみ、ジナルさんの事を考える。

私と2人になってどうするんだろう?

わ……嫌な想像をしてしまった。

子供が色々な意味で好きな人がいる事は、組織に狙われた時に聞いた。

森で襲われた時も、そういう人に売るためだったもんね。

ジナルさんとはまだそれほど親しいわけではないけど、警戒するような人には感じない。

どちらかと言えば心配されているような気がする。

でも、いったい何を心配されているのか分からない。

また会うだろうし、ちょっと気を付けてみよう。

…………

「今日はどうするの?」

朝ごはんのスープに、黒パンを浸けて口に運ぶ。

スープは昨日の残りにミルクを足して、朝にお薦めの優しい味。

「そうだな、町の噂でも確かめに行くか?」

「うん。楽しそう」

噂は馬鹿に出来ないんだよね。

問題がある場合は、自警団やギルドに報告する義務がある。

でも、日常のちょっとした変化を報告する人はいない。

そんな些細なことまで報告していたら、報告を受けた方が大変すぎる。

だけど、その小さな変化が時々とても重要な事だったりする。

「決まりだな。少し休憩したら行こうか」

「うん。あっ、洗濯したかったんだ!」

忘れてた。

汚れた服とかタオルとか、溜まっていたんだった。

「だったら先に洗濯しに行こうか」

お父さんの言葉に頷いて、スープを飲み干す。

今日も美味しかった。

食器を片付け、洗濯物をいれたバッグを持つ。

ソラたちが入っているバッグを肩から下げて、ハタカ村の洗濯場を探すために広場を出た。

少し歩くと賑やかな場所が見えてくる。

この村でもやはり洗濯場は賑やかなようだ。

「噂を耳にするなら洗濯場が一番かもな」

お父さんのつぶやきに「そうだね」と答える。

洗濯場はこの村の人たちと、冒険者が集まってくる。

ここほどいろいろな噂が聞ける場所は無いかもしれないな。

噂の域から出ないモノも多いけど。

洗濯できる場所を探すと、ちょうど洗濯が終わったのか場所が空いた。

すぐにその場所を確保して、左右の人に挨拶をする。

「お邪魔します」

右隣に恰幅のいい女性、左には少し年配の女性。

どちらの女性も私とお父さんを見て、笑顔で対応してくれた。

最初は大きな毛布から洗っていく。

最初に一番体力がいる物を終わらせておかないと、あとで腕がつらくなる。

お父さんも片腕で出来る事はしてくれるので、1人よりとても楽。

作業しながら耳を傾ける。

「大通りに出来た新しい店、ちょっと面白いものを売っていたから後で行こう」

面白いものって何だろう。

気になるな。

「調査隊がもう一度組まれる可能性があるそうよ」

「え~、そうなの? それって何か問題があったからだよね?」

「たぶん、そうだよね」

発表前のそんな情報を一体どこから聞いて来るんだろう。

村の人って、ちょっとすごいよね。

「捨て場のゴミがおかしい?」

ん?

捨て場のゴミ?

少し離れた場所から聞こえた内容に、そちらに視線を向ける。

大きな布をごしごし洗っている女性が隣の女性に話をしているのが見えた。

「そうなの。ほらっ私の息子って」

「あぁ、ゴミを捨て場に運んでいるんだっけ?」

「そう。その息子がね、捨て場に捨てられているゴミの量がおかしいと言っていたのよ」

お父さんと私の視線が合う。

そして少しだけゆっくりと洗濯を続ける。

「息子はね1週間に1回、この村のゴミをまとめて捨てに行っているんだけど」

「うん」

「捨て場のゴミの量がね、いつも変わらないそうなのよ」

「それはそうだろう? テイマーたちがゴミの処理をしてくれているんだから」

「何言ってるのよ! マーシャさんが亡くなってからこの村のゴミ処理能力は下がり続けて今では危ないって噂じゃない」

「そう言えば、そうね。自警団がいいテイマーでも雇ったんじゃないの?」

「そうなのかしら?」

捨て場のゴミの量が変わらない?

増えるわけでも減るわけでもない。

それはちょっとおかしいな。

お父さんを見ると、何かを真剣に考えている。

「そうだ。最近シャーミを見た?」

「そう言えば、見てないね。もう春だからそろそろ姿を見せてもいいのにね」

シャーミ?

何だろう、聞いたことないな。

「可愛いよね。人懐っこいし」

「そうそう。私も好きだわ。あの子たちを見ると春だな~って気分になるの。今年はいないのかな?」

「寂しいわね」

人懐っこい、春になると見る?

動物かな?

話をしている人たちを見る。

本当に楽しそうにシャーミについて話をしている。

可愛いのかな?

ちょっと気になるな。

「さて、お終い」

全ての洗濯物を洗い終え、カゴの中に入れていく。

広場に戻ってテントの近くに干させてもらおう。

「持つよ」

「ありがとう。お邪魔しました」

気付けば左右の人は代わっていたけど、挨拶をして場所を離れる。

洗濯場から離れると、ちょっと深呼吸。

「捨て場か、気になるな」

「そうだね」

ジナルさんたちに会ったら報告しておこう。

広場に戻りながらも周りの声に耳を傾ける。

「森に現れた新種の魔物はどうなったんだろうな」

新種の魔物?

……違うよね?

あれの事じゃないよね?

そっと話が聞こえた方へ視線を向けると、3人の冒険者たち。

「ハタダ村の森の奥に現れた魔物の集団の事か?」

うっ、私たちの事だ。

お父さんを見ると苦笑い。

「あぁ、そこに新種がいたって」

「森の奥に戻ったみたいだぞ。調査隊が出て調べたらしいけど、痕跡は見つけられなかったらしい」

調査隊が出たの?

うわ~、ごめんなさい。

何気に足早にその場所から移動する。

「まだあの噂、消えてないんだな」

お父さんの言葉にため息をつきながら頷く。

まさか調査隊まで出るなんて。

「行動には気を付けような」

「うん」

気を付けているつもりなんだけどな。