軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 フェシーラの仕事

「おはようございます! オグト隊長を見かけませんでしたか?」

「おはよう、フェシーラ。今日は見かけてないよ」

「ありがとうございます」

私の朝の仕事は、毎日ではないがオグト隊長を探すことから始まる。

私が自警団詰め所を走り回るのも、見慣れた風景と化した。

オグト隊長の所在の有無を訊く前に「今日はいない」と教えてくれる団員たちも多くなり探すのも少し楽になった。

これがいい事なのかは不明だけど。

アビラ団長は、苦笑を浮かべて会うたびに飴を1個くれるようになった。

ある団員が「オグト隊長を注意しないのですか」と訊いたことがある。

アビラ団長は「無駄な事はしない主義」と断言していた。

その日は飴とクッキーを貰った。

ラトメ村に来てほぼ2ヶ月。

最初の1週間はオグト隊長について回り、仕事の説明と自警団員たちの紹介。

団員候補の人たちもいて覚えるのが大変。

今も団員たちの名前を間違えてしまうが「人数が多いから仕方ないよ」と、許してくれている。

皆が優しい人たちで良かったとほっとした。

仕事にも慣れてきた頃、朝の挨拶と仕事の指示を貰いに行くとオグト隊長はいなかった。

急な仕事でも入ったのだろうかと、部屋の掃除をしているとヴェリヴェラ副隊長が隊長室に来た。

そしてオグト隊長の姿が見えないとわかると、にっこり笑った。

その笑顔を見た瞬間「ひっ」と声が出てしまった。

慌てて口に手を当てて隠すが、ばっちり目が合ってしまった。

「おはよう、フェシーラ」

怒られる? とドキドキしていたら、いつものヴェリヴェラ副隊長だった。

それに首を傾げながら挨拶を返す。

「大人しく仕事をしていると思ったが、2週間はもたなかったな」

ヴェリヴェラ副隊長がオグト隊長の机に書類を置くと、大きなため息をつく。

「あの、オグト隊長は何か仕事でも入ったんでしょうか?」

とりあえず、今日の仕事の指示を貰わなくてはならないため、ヴェリヴェラ副隊長に声を掛けた。

「違う。サボりだ」

「あっ、サボりですか。ん? サボり?」

不思議な言葉をヴェリヴェラ副隊長が口にする。

「隊長のサボり癖を知らないのはフェシーラぐらいだ。あれは毎日毎日飽きずにサボる」

この連日、ずっと仕事をしていたオグト隊長がサボる?

違和感を覚えて首を傾げると、ヴェリヴェラ副隊長に笑われた。

「いつ仕事に飽きてサボりだすか、団員たちは賭けをしていたが知らなかったか?」

「知りませんでした。……あの、私探してきますね」

「いや、面倒くさいだろう? 見回りの奴らに見つけたら知らせるようにしておくから」

「えっ? それでいいんですか? 仕事が……」

「大丈夫だ。書類仕事が溜まったら、椅子に縄で縛り付けてでもやらせるから」

ヴェリヴェラ副隊長が面白い事を言ったので笑った。

普段そんなふざけた事言わないのにな、と思いながら。

それがふざけていなかったと知るのは、それから5日後。

溜まりに溜まった書類を前に、ヴェリヴェラ副隊長は団員候補を集めた。

そしてラトメ村中を大捜査。

1時間後、ヴェリヴェラ副隊長は見事にオグト隊長を確保。

5日ぶりに見たオグト隊長は、私を見ると何事もないように挨拶をした。

「あぁ、おはよう」

「……おはようございます。えっと……」

オグト隊長の状態に戸惑って、視線が泳ぐ。

まさか、縄でグルグル巻きにされて帰って来るとは思わなかった。

ヴェリヴェラ副隊長は慣れた手つきで、オグト隊長を椅子に縛り付け目の前に書類を置く。

それを見て嫌そうな表情のオグト隊長。

が、目の前に立つヴェリヴェラ副隊長の顔を見た瞬間、青い顔をして仕事を始めた。

いつも 飄々(ひょうひょう) としているオグト隊長の顔色を変えさせるヴェリヴェラ副隊長の表情が気になったが、怖くて見られなかった。

それから休憩なしの10時間。

オグト隊長はヴェリヴェラ副隊長の監視の下、書類仕事を終わらせた。

この2ヶ月の間に7回、オグト隊長は縄でグルグル巻きにされているが懲りた様子はない。

アビラ団長が「無駄な事はしない主義」と言った理由が分かった気がした。

アビラ団長に会った時に「理由が分かりました」と説明すると、カゴいっぱいのクッキーが届いた。

クッキーはとても美味しかった。

ある朝、いつものようにオグト隊長がいない部屋で仕事を始める。

書類の整理と掃除などやるべきことをやっていると、団員の1人がある書類を持ってきた。

それには至急の文字。

探した方がいいかもしれないと、とりあえず詰め所内を探すことにした。

すぐに休憩室で寝ているのを発見したので、至急の書類がある事を話すとすぐにその書類だけ処理してくれた。

また、その翌日も至急の書類があり、私はオグト隊長を探した。

その日は、食堂でお菓子を食べているのを発見。

至急の書類とペンを渡した。

そんな事が何回か続くと、午前中は詰め所内でサボっていることに気付く。

なので至急の書類がある日や書類が溜まりだすと、私は詰め所を走り回ってオグト隊長を探す事にした。

お昼ごろになると詰め所から出てしまうため、探すのが大変になる。

ほぼ毎日、オグト隊長を探すようになった私。

それを見て様子見をしていた団員達とも打ち解けることが出来た。

「オグト隊長、発見!」

今日は、庭のベンチでお茶を飲んでくつろいでいた。

「おはよう。お茶でもどうぞ」

「あっ、ありがとうございます。って違います! この書類の確認を先にお願いします」

オグト隊長の話に巻き込まれると、いつの間にか逃げられている事がある。

なのでまずはやるべきことを終わらせる。

これがとても重要。

「はい。ご苦労様」

目を通して何かを書き込んだ書類が手元に戻ってくる。

今日の至急の書類はすべて完了。

「オグト隊長、昨日ヴェリヴェラ副隊長が探してましたよ」

私の言葉に顔を歪めるオグト隊長。

「あ~、まぁ、大丈夫だろう」

視線を泳がせながらお茶を飲む様子から、また何かしたと判断した。

「怒らせると大変ですよ」

「大丈夫、大丈夫」

「あっ」

ある人と視線が合ってつい声が出てしまう。

オグト隊長が、それに気付いて私をじっと見る。

その間にも、笑顔を張り付けて近付いて来るヴェリヴェラ副隊長。

私の視線を追って後ろを見て、変な声を出すオグト隊長に笑みがこぼれる。

「さて、昨日の言い訳ぐらいは聞いてあげてもいいですが、どうしますか?」

本格的に切れているヴェリヴェラ副隊長からそっと視線を外す。

ヴェリヴェラ副隊長が本気で怒るとものすごく怖いのは、オグト隊長の傍にいるから知っている。

「はははっ、さて仕事しないとな」

「…………………」

無言が背筋が凍るほど怖いなんて、ヴェリヴェラ副隊長で初めて知った。

至急の書類も終わらせてあるから、仕事に戻ろうかな。

うん、それがいいかな。

そっと、足を動かして2人から離れようとする。

「あっ、フェシーラ」

「ひゃい!」

ヴェリヴェラ副隊長の呼び止める声に過剰に反応して噛んでしまった。

「ぶふっ」と抑えるのに失敗したオグト隊長の笑い声が聞こえる。

これは恥ずかしい。

「悪い、急に声を掛けたな」

「いえ、大丈夫です。なんですか?」

「団長が『最近の書類は見やすくなった』と喜んでいた」

あっ、それは嬉しい。

団員たちが書く書類の中には、判別不明の文字が時々含まれる。

それを見つけたら、団員に確認して書き直してもらっているのだ。

「すごい文字を書いてくる奴がいるからな~」

オグト隊長が言うとヴェリヴェラ副隊長が苦笑いをする。

ヴェリヴェラ副隊長もそう思っているようだ。

確かに文字なのか怪しい時がある。

「さて、隊長。仕事に戻りますよ」

ヴェリヴェラ副隊長が、さっとオグト隊長の襟首を掴まえると詰め所に向かって歩き出す。

文句を言っているオグト隊長の事は一切気にせず歩き続けるヴェリヴェラ副隊長はすごい。

「フェシーラも行くぞ」

「はい」

まだ、仕事では失敗も多いけど、少しずつ私でも出来る仕事が増えていくのは嬉しい。