軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

184話 準備中

ちょっとした衝撃の言葉から、ようやく落ち着いたので店主さんに用事を聞く。

まさか救世主とか、ありえない、絶対にありえないです。

ドルイドさんからすれば、それはソラだろう。

「それが、金持ち連中が麦の買いだめをしたみたいで、食料が思ったより早く無くなっているそうなんだ。制限をかけたそうなんだが、ちょっと遅かったようだ」

「まったく、なんて奴らなんだろう。こういう時は助け合いでしょうが!」

お姉さんが、ちょっと声を荒らげる。

確かに、こういう時の行動は後々響いてくるのにな。

「それでだ、ギルドから『こめ』を早めに広めてほしいという依頼がきた」

「そうなんですか。では、いつからしますか?」

「今からはどうだろうか?」

今から?

準備は……必要ないか。

米もある、ソースもなるべく多く集められる物を選んだので、すぐに大量に作ることが出来る。

「大丈夫です。えっと、店先で作りますか?」

「そうね。あの匂いはどんな言葉より人を寄せ付けると思うわ。『こめ』という抵抗感を無視させるぐらいにね」

確かに香ばしくて、食欲をそそる匂いだった。

あ~、思い出しただけでお腹が空いてきた。

「アイビー、よければ『こめ』の炊き方を教えてもらえないかしら」

「いいですよ。と言っても、私もまだ色々試行錯誤の段階ですが」

「ふふふ、ありがとう」

本当にお姉さんは綺麗だな。

ふんわりと言うかふわふわと言うか、近くにいると柔らかい風が吹いてくるみたいに感じる。

「えっと、必要な物は『こめ』とお鍋だよね」

調理場所に移動しながら、必要な物を確かめていく。

「はい。あとバナの木の木箱です」

2人で手分けして準備に取り掛かる。

鍋に米を入れて水を調整する。

今日は少し湿気が高い気がする。

なのでほんの少しだけ、水分を減らす。

「うまくいけばいいですが」

「大丈夫、失敗しても裏の倉庫に『こめ』が積み上がっているから」

「そうなんですか?」

「そうなの。町の門からいえば真逆の場所なんだけど、荒れ地で『こめ』しか育たないのよ。で、そこで生活している人が持って来る物は全て『こめ』。他の店ではあまり買い取ってくれないみたいで、義父さんがほとんど買い取っているから、『こめ』だけはいっぱいあるわ。毎年無駄になる『こめ』の事で旦那と喧嘩しているんだけど、私は義父さんのやり方が好きよ。続けていきたいと思っているわ」

凄いな、店主さんは。

あれ?

そこで生活している人は、他の食べ物を作るために荒れ地を改善させるとかしないのかな?

「あの、その場所で生活している人たちは土を改善しようとはしないのですか?」

耕したり、肥料を入れたり……なんて言うんだっけ、開拓?

なんか違うような気がする……。

「それが、何故かその土地は何をしても改善しないみたい。それを知らずに、この町から買い取ってしまったみたいで、そこに住んでいる人たちは身動きが取れないって言っていたわ」

そうなんだ。

何をしても改善されない土か、大変だな。

「米が広まって買う人が増えたら、他の土地へ移れるぐらい稼げるかもしれませんね」

「えっ? アイビー、『こめ』が普及してある程度の値段で売れるようになったら、移動する必要は無いと思うけど」

ん?

あっ、そうか。

米は荒れ地でもちゃんと育つって言っていた。

前の知識が邪魔をして、どうも豊かな土地が必要だと思い込んでしまったな。

前の知識と今の知識がごちゃごちゃしてる。

「そうでしたね。そこに住む人たちのためにも、頑張りましょう!」

「そうね。無駄なことはやめろって言っていた旦那に恥をかかせてやるわ。あのとうへんぼく野郎!」

……ちょいちょいシリーラさんの黒さが顔を見せるな。

綺麗なバラには棘がある?

ん?

また、前の知識か。

不意に頭に浮かぶと、口に出してしまいそうになるから気を付けないと。

米の炊きあがる匂いが調理場に広がる。

なんだかこの匂いってホッとするんだよね。

鍋の蓋を持って、ちょこっとお祈り。

態度に出すと周りが引くみたいだから、こそっと。

上手く炊けていますように。

蓋を開けると……。

「よかった。いい具合に炊けています」

「本当だ、美味しそう。だいたいの水の量は分かったけど、いつも一緒の分量なの?」

「いいえ、今日は湿気が高かったので少しだけ減らしました」

「なるほど。あとは何度か繰り返して覚えるしかないわね」

考え事をしているシリーラさんは可愛らしいな。

こんな可愛い女性になりたいな。

「さてと、これを~」

「あっ、木の箱に移して少し冷ましてから握りましょう。今の状態では熱過ぎます」

一度炊き立てを握ってみたけど、あれはものすごく後悔した。

歪なおにぎりが、もっと歪になって形を成していなかったし、とにかく熱い!

「その間にソース作っちゃいますね」

「あっ、義父さんから配合の割合を書いた紙を預かっているんだった」

シリーラさんから受け取った紙を見る。

おにぎりに塗るソースの割合が細かく書かれている。

すごいな、私だったら適当に作っちゃいそう。

って、皆に美味しいって思ってもらわなくちゃダメなんだから、ちゃんと作らないとな。

計量しながらソースを作る。

こんな作り方をしたのは初めてなので面白いけど、やはり面倒だ。

「ソース、出来ました」

「よし、握ろう! 昨日1個作ってみて面白かったのよね。ただ、三角にはならなかったけど、今日こそは!」

「強く握っては駄目ですよ」

確か昨日シリーラさんは、思いっきり力を込めて作ってしまい失敗していた。

早めに注意をしておかないと。

「大丈夫、今日は昨日のような失敗はしないわ」

2人でおにぎりを握っていると、店主さんとドルイドさんと奥さんが調理場に顔を出す。

「焼くための準備は整ったけど、何か手伝おうか?」

ドルイドさんが私の隣にきて、おにぎりを見る。

「義姉さん、もっと優しく握らないと」

「う~、分かっているんだけど、ついつい力が入ってしまって」

何度か注意しても、すぐにぐっと握ってしまうみたいだ。

見かけによらず、握力が強い。

細い手をしているのにな。

シリーラさんってなんだか不思議な存在だ。

「できました」

頑張った。

というか、あと少しで第2弾の米が炊ける。

あちらも頑張らないとな。

「アイビー、水の分量だが、これでいいと思うか?」

店主さんが持ってきた紙を確認する。

炊くときの米の量と水の量が書かれている。

「はい、大丈夫です」

ドルイドさんが器用に、バナの木箱を3箱積み上げて焼く場所まで移動してくれる。

「ありがとうございます」

「いいよ、さて頑張って焼きますか」

「あ~、私がソースを塗っていくわね」

「シリーラ、つまみ食いは駄目よ」

奥さんがソースを塗るための 刷毛(はけ) を持って来てくれた。

つまみ食いって、そんなことしそうにないけどな。

「大丈夫よ。つまみ食いなんてせずにガッツリ食べる予定だから」

本当に見かけってあてにならないよね。

「それは駄目でしょう」

「あっ、一番下の箱にシリーラさん用が」

「えっ? ……あぁ、握り込んでしまった奴ね」

そう、最初の数個、やはり力を込めすぎたのかかなりギュッと強く握られている。

さすがに、それを出すのは駄目だろうと話していたのだ。

なのでシリーラさん用。

「焼きおにぎり、焼きおにぎり!」

おにぎりにソースを塗っていると、隣からかなりご機嫌なシリーラさんの歌声が。

視線を向けると、嬉しそうに固めのおにぎりにソースを塗って既に焼き始めている。

匂ってくる香ばしい香り。

あ~、私も食べたいかも。