軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

126話 野バトのスープ

「ありがとう。いや~、本当にありがとう」

肉屋の店主の前には、野バト3羽分のお肉と骨。

シエルにお願いしたら、張り切ってくれてなんと4匹の野バトを狩ってきてくれた。

その内の3匹が店主の前にある。

1匹は、今日の夕飯用だ。

「いえ、奥さんが喜んでくれるといいですね」

「えっ! あっ、おいや……おっ」

しまった。

結婚記念日で奥さんを喜ばすという話は、団長さんから聞いた話だった。

というか、店主を見る。

真っ赤になって、意味不明な言葉を羅列している。

まさかここまで照れるとは思わなかったな。

「ゴホンッ。えっと、今日の分のお金だな」

何とか気持ちを切り替えてくれたようだ。

良かった。

どう声を掛けて良いのか分からなかったのだ。

変に声を掛けると悪化させそうで。

「そういえば、いつ頃この町を出て行くんだ?」

「3日後ぐらいに考えています」

お金の問題も解決し、既に口座のプレートは戻ってきている。

ラットルアさんとシファルさんも同額が手に入っているので、これで安心して奴隷を購入できるねと言われた。

やはり上位冒険者にもなると、金板15枚では私の様に困惑しないようだ。

私は、口座の中身を確認するのに2日かかったのに。

入っていると分かっていても、表示された金額を前に何度も瞬きをして確かめてしまった。

「そうか。寂しくなるな」

「お世話になりました」

「いや、俺の方がかなり世話になったと思うぞ。これも含めて」

そう言って野バトのお肉を持ち上げる。

うっすらと頬が赤くなっているのが、分かる。

それに笑ってしまうと、もっと赤くなってしまった。

……申し訳ないです。

「あっ、干し肉を買っていこうと思ったのですが……」

干し肉が置いてある筈の棚を見るが、見事に空っぽだ。

冒険者が後を絶たず、すぐに売り切れる状態が続いている。

本当に人気店だな。

「ほい。これだ」

「えっ?」

店主の声に、視線を向けると大袋5個の干し肉。

「切れ端で悪いんだがな」

どうやら、私用に取っておいてくれたようだ。

「いえ、ありがとうございます。金額は?」

「切れ端だからな。餞別だ」

今日の分の買い取り金額と、5個の大袋が机に乗っている。

「ありがとうございます。あっ、そうだ」

バッグから薬草を入れた紙袋を取り出す。

お肉に染み込ませて焼くと、臭みを消して柔らかくなるよう色々と薬草を混ぜた調味料だ。

「これ。お肉に揉み込んでしばらくおいてから焼いてください。臭みを消して美味しくなります」

「ほ~」

店主は紙袋の中の匂いを嗅いで、少しだけ舐めて味を調べて何か頷いている。

「これは薬草か? しかも色々と混ざっているな」

「はい」

「坊主は薬師でもあるのか?」

「いえいえ、ただの調味料ですから。薬師とは違います」

「しかし混ぜた薬草を料理に使うとは、すごいな。ありがとう」

「口にあうか分からないので、最初は少なめから挑戦してくださいね」

「ハハハ、分かった。そうするよ」

お金と干し肉をそれぞれバッグに入れて、店を出る。

いい人だったな。

ギルマスさんより照れ屋だったのには、驚いたけど。

広場に戻りながら、今日の夕飯を考える。

これもあと少しだ。

美味しい物を作っていこう。

野バトか、薬屋ではスープにするんだったよね。

まだお昼だから、今から煮込めば良い出汁が取れるかな?

「まぁ、頑張ってみよう」

後は、旅の準備だな。

といっても、テントの整備はラットルアさんがしてくれたんだよね。

それに、ボロルダさんがマジックバッグの正規版を3個もくれた。

いっぱいあるから、使っていないのをあげるって。

これで荷物がかなり減って楽になるな。

シファルさんからも、元彼女さんが買ってきたという1人用のお鍋を頂いたし。

しかも、水魔法が付与されているので水がわき出て来るという便利なお鍋だった。

……なんだか至れり尽くせりだな。

広場が見えてくる。

よし、美味しい物を作るぞ~!

テント周辺に、出汁の良い匂いが漂う。

野バトから取った出汁は、かなり旨味が詰まっていて美味しい。

その出汁を元に野菜たっぷりのスープを作ったのだが、本当に美味しい。

肉団子を入れたのも、よかったな。

甘味のたれを作り、そこにお肉を大量に投入。

ゆっくりと時間をかけて煮込み中だ。

前の私の記憶では、煮豚らしい。

豚という動物ではないが。

少し味見をしたが、お肉に絡まるタレが美味しい。

後はサラダだが、タレが美味しいのでシンプルに湯がいた芋。

そして、野バトのお肉は唐揚げにした。

どうも鳥=唐揚げだと、前の私が訴えてきたからだ。

「美味しそうだね」

気配で気が付いていたので驚きはしないが、なぜここにいるのだろう。

シファルさんは、確か家に戻ったはずなのだが。

「仕事は良いのですか?」

「収入が多かったから、しばらくお休み」

「そうなんですか?」

「っと言いたいけど、セイゼルクに仕事を押し付けられたよ」

「そうなんですか、大変ですね」

「まぁね。まぁ、あまりのんびりすると体が鈍るからね。って事で、俺の夕飯もよろしく!」

特につながりはないのだが、まぁみんなで食べる夕飯は美味しいので気にはしない。

それに今日は、特に美味しく出来たスープがある。

シファルさんはスープが好きなので、来てくれてうれしかったりする。

「それにしても何のスープ? 美味しそうなんだけど、何処かで嗅いだ事がある気がするのに、分からなくて」

「野バトの骨で取ったスープです」

「え゛っ!」

何?

今シファルさんらしくない声が聞こえたけど。

「えっと、野バトは嫌いですか?」

味見では、かなり美味しいんだけど。

「だって、野バトのスープってあの苦味のある物だろう?」

苦みのあるスープ?

何の事だろう、野バトで出汁をとっても苦味は出ないけど。

……あっ、野バトって薬屋でスープにして売られているんだった。

確か薬草を混ぜ込んだスープで滋養強壮だったかな。

もしかしたら、アレが苦いのかも。

「薬屋で売っているスープとは違うので、大丈夫だと思います。味見してみますか?」

「あ~、そうだね」

スープを小皿にとって渡すと、恐る恐る口を付けるシファルさん。

そんなに売られている野バトのスープは苦いのだろうか?

「あれ? 美味しい……本当に野バトのスープ?」

ものすごく不思議そうな顔の彼を見て、笑ってしまう。

何だか、ものすごく薬屋で売られているスープが気になる。

一度、挑戦したいかも。

「薬屋のスープには挑戦しない方がいいよ」

あれ?

読まれてしまった。

「あれはかなりきついから。風邪を引いた時で、味覚が狂ってる時しか喉を通らない」

「そんなにですか?」

「そう。だからこれが野バトのスープって言われても、正直信じられない」

何だか、ものすごい味のスープが売られているのだな。

でも、薬屋で売られているのは美味しく食べるというより、飲む薬としてだから味は考えないのかも。

しばらくシファルさんと話しながら用意をしていると、セイゼルクさん達が帰って来る。

何故か皆、お土産を持って。

「あと少しだからな」

セイゼルクさんの言葉に、ぐっと泣きそうになってしまった。

まだ、数日あるのにな~。

既に、気持ちがいっぱいいっぱいだ。

「ありがとうございます」

全員で一緒に食べようとした時。

「そうだ、今日は野バトのスープなんだよ」

シファルさんの見事な爆弾攻撃。

全員がものすごい表情で固まった。

マールリークさんとボロルダさんはスープを飲む寸前だったので、ビクついていた。

「アイビーが、皆のために作ったんだから残したら駄目だよね? さぁ、食べようか」

見事です、シファルさん。

笑いそうになるのを、ぐっと力を入れて抑える。

「どうしたの? 食べないの? ボロルダ?」

「あぁ、いや、あの……食べるが」

ボロルダさんの狼狽えた姿に、噴きだしそうになる。

もしかしたら、かなり苦手なのかも知れない。

シファルさんは、にっこりと笑顔だ。

シファルさんの顔を見る余裕があれば、ボロルダさんだったら何か気付けそうだが。

今回は完全に余裕がないみたいだ。

恐る恐るスプーンを口に入れて。

「…………ん? あれ?」

ボロルダさんがスープを飲むのを、なぜか私とシファルさん以外が固唾を呑んで見つめている。

そして口に入れた瞬間、誰かが「うわっ」という声を発した。

でも、次のボロルダさんの反応に全員が首を傾げる。

「美味しい。えっ? 美味しいけど」

「ヤダな。アイビーが、まずい料理なんて出すわけないだろ?」

そう言って、美味しそうにスープを飲むシファルさん。

それを見て、全員がスープを口にして驚いている。

「ぷっ、アハハハ」

全員のあまりの表情に笑いが込み上げる。

それほど、脅威を感じさせる薬屋のスープが気になるが。

それにしても、この反応には笑える。

「シファル、それにアイビーまで……」

ボロルダさんの大きなため息。

すみません、でも面白かったです。