軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

121話 旅を続ける理由

「ほ~、すごい珍しいな。半透明のスライムなんて見たことがない」

ギルマスさんに、興味深げに見つめられているソラ。

ソラもじ~っとギルマスさんを見つめている。

ソラの興味を引く何かが、ギルマスさんにあるのだろうか?

「変な絵面だな」

ラットルアさんの言葉に頷く。

体格の良い強面の人とスライムが見つめ合っている。

誰が見ても不思議な光景だろう。

……不思議というか不気味?

「えっと、ソラ。こちらギルドマスターの…………です」

『…………』

ギルマスさんとラットルアさんの視線が痛い。

えっと、あれ?

ギルマスさんの名前って何だっけ?

「アイビー、気にすることは無いよ。ギルマスの名前って、ほとんどの奴が覚えていないから」

「すみません」

「ハハハ、気にするな。ラットルアの言うとおり、俺の名前を知らない奴は冒険者の中にも多い」

ギルマスさんは笑っているが、失礼だよね。

う~、名前……。

「ログリフだ。ソラ、よろしくな」

ログリフさん?

……駄目だ、まったく思い出せない。

諦めよう。

「ぷ~。ぷっぷっぷ~」

「アイビー、なんて言っているんだ?」

「……分かりません」

ギルマスさんが聞いてくるが、さすがに分からない。

ちょっと小馬鹿にしたように聞こえたが、気のせいだと思いたい。

「面白いよな」

ラットルアさんが、つんつんとソラを突く。

「ぷ~~!」

あっ、これは不機嫌な時の声だ。

「ラットルアさん、ちょっと不機嫌になってますよ」

「ハハハ、ごめん、ごめん」

ラットルアさんがソラをゆっくりと撫でると、すっと目が細くなる。

撫でられるのが大好きなソラなので、機嫌は直ったようだ。

単純だ。

「そう言えば、旅に出る準備をしているんだって?」

ギルマスさんが、棚からお菓子を出しながら聞いてきた。

「はい。謝礼金と懸賞金の件が終了したら、旅に出るつもりです」

「そうか。このままこの町で落ち着いたりはしないのか?」

「えっと、旅を続けるつもりです」

「そうか、寂しくなるな。ラットルアもそう思うだろ?」

「まぁな」

ギルマスさんに話を振られたラットルアさんは、肩をすくめて見せた。

「この町の名物になる予定のお菓子だ」

……何とも、微妙な説明だな?

不思議に感じお菓子を見るが、バタークッキーのようだ。

綺麗な色に焼けていて、とても美味しそう。

断ってから1枚を口に入れる。

ちょうど1口で食べられる大きさがうれしい。

「どうだ?」

「美味しいです。サクッとしていて、甘さもちょうどいいですし。食べやすい大きさがうれしいです」

「そうか。いや~、よかった」

何だろう?

このクッキーに何かあるのか?

「それ、ギルマスの奥さんが作ったんだよ」

あっ、なるほど。

あれ?

ギルマスさん、ちょっと顔が赤い?

「ギルマスって奥さんの事になるとすぐに照れるからな。面白いだろ」

「おい、茶化すな」

ラットルアさんが笑ってクッキーに手を伸ばす。

「確かに美味いな」

「あぁ、店を出したいって頑張っているからな」

「すごいですね」

「お~、ありがとう」

ギルマスさんの頬がスッと赤くなる。

かなり奥さんに弱いようだ。

まさかギルマスさんの弱点を知る事が出来るとは。

「まぁ、いつでも戻ってこいよ」

「はい。ありがとうございます」

この町で出会った人達は、皆とても優しい。

組織関係で大変な事もあったけれど。

お土産にクッキーをいっぱいもらって、ギルマスさんの部屋を出る。

ゆっくりと町を歩く。

この町ともお別れか。

「やっぱり、この町に住む気にはならない?」

人通りが少ない道になったところで、ラットルアさんが立ち止まって訊いてきた。

「……今までの旅は、逃げるためのモノでした」

「えっ?」

ラットルアさんには、聞いてほしいと思った。

ずっと、私のために色々と考えてくれた。

そんな優しい彼だからこそ。

本当の事を知ってほしいと、初めて思えた。

「私、5歳の頃に教会でスキルを調べたんです。テイマーでした」

ドキドキする。

本当に話して大丈夫なのか。

それでも。

「ただし、星なしでした」

「……星なし……」

彼がどんな表情でこの話を聞いているのか、見たいという思いと怖いという思いが交差する。

「それから全てが変わりました。両親も周りも敵になってしまったんです。たった1人を除いて」

味方は占い師だけだった。

「8歳の時、父に殺されそうになって村から逃げたんです。あの時は悲しくて悔しくて、ただ生きたいと逃げました」

「……そうか」

ラットルアさんの声に嫌悪感などは覚えない。

それに勇気をもらって、そっと彼に視線を向ける。

真剣な表情、でも私を見つめる目はとても優しくて。

その事に、じわっと目頭が熱くなる。

「いつまで逃げればいいのか不安でした。何処へ逃げたらいいのか」

「うん」

「星なしだと知られたら、殺されると思っていて」

あの村ではそうだった。

星なしだと知った瞬間から、両親は私を捨てた。

だから、知られたら殺されるのではないかとずっと不安が付きまとっていた。

「でも、ラトメ村のオグト隊長やヴェリヴェラ副隊長と出会って、私が訳ありだと気が付いていたはずなのに、何も聞かず手助けしてくれて。私の保証までしてくれて」

「うん」

「ラットルアさん達に会って、狙われていると知ったら手を貸してくれて。あんな無謀な作戦にも何も言わず付き合ってくれて」

「うん」

「私の知っている人達とは違いました。占い師が世界を知りなさいと言った、本当の意味をようやく理解出来たんです」

「そうか」

「はい。強くなりなさいと言った意味も分かりました」

最初、占い師に言われた時は森で生きるために体を鍛えろと言われていると思った。

でもオグト隊長に出会って、あの言葉は人を信じる強さを言っているのだと思った。

でも占い師の言っていた強さは、自分自身から逃げない強さなのだと思う。

星なしという現実から逃げない強さ。

逃げていないつもりだったけど、逃げていた。

認めたくなかった。

でも、今なら言える。星なしでも大丈夫。

私は、問題ないと。

「いい人達に巡り合って来たんだね」

ラットルアさんの言葉にうれしくなる。

「ラットルアさん、これからの旅は逃げるのではなくて見つけるための旅です」

「見つける?」

「はい。本当にやりたい事を見つけたいです」

「なるほど、いいね。それなら世界を見る事はいい事だ。冒険者から旅館を開いた者もいるし、飲み屋を開いた者もいる。もちろん甘味屋を開いたやつも」

「はい」

ラットルアさんなら、そう言ってくれると思っていた。

私の事を真剣に考えてくれていた彼だから。

「初めて出会った時、不安定な雰囲気を纏っていて心配だったんだ」

不安定な雰囲気?

色々な事に怯えていたからかな。

「でも、今は大丈夫みたいだ。ちゃんと前を向いていると思える」

「ありがとうございます。ラットルアさんが私の事を真剣に考えてくれている姿に、勇気をもらいました」

「ハハハ、さすがにそれは恥ずかしいな」

ちょっと赤くなった顔を手で覆って笑う姿にホッとする。

話してよかった。

ラットルアさんに出会えてよかった。

「ありがとうございます」

「俺は何もしていないよ。アイビーが自分自身で見つけた答えだ。星なしという事には正直言うと驚いた。でも、アイビーはアイビーだよ」

そうだ、私は星なしという事も含めて私である。

それの何が悪いというのか。

「私は私、ですね」

「そうだよ」

うれしいな。

でも。

「旅の目的は前向きですが、問題は山積みです」

「ハハハ、とりあえず身を守る方法を考えないとね」

そうなのだ。

シエルにソラ、そして私。

旅をするには色々と不安過ぎる。

何か見つかるまで旅を続けるとして、まずは身の安全を確保する方法を模索しなくては!