作品タイトル不明
1001話 王都観光の前に
花柄の刺繍があるワンピースを着て、鏡の前に立つ。
可愛らしいデザインなので、ちょっと照れてしまう。
「似合うかな?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
皆の鳴き声に、ちょっと自信を貰う。
「ありがとう。行こうか」
ソラ達バッグに入れ、肩から下げると部屋を出る
「アイビー、着てくれたんだ。似合っているよ」
部屋の前にいたお父さんが笑顔になる。
「お父さん、ありがとう」
お父さんが似合うと言って買ってくれたワンピース。
着たいとは思っていたけど、可愛らしいデザインだったからなかなか機会がなかったんだよね。
「行こうか。下でアマリさんが待っているから」
「うん」
下に向かいながら、先ほどのフォロンダ領主の話を思い出す。
「お父さん」
「どうした?」
「フォロンダ領主が話してくれた事で、気になった事があって」
「うん」
首を傾げて私を見るお父さん。
「フォロンダ領主だったら、伯爵の動きに気付くと思うんだけど」
「あぁ、気付いていただろうな」
やっぱり。
気付いていたのに、何もしなかった。
いや、何か事情があって出来なかったという事なんだろう。
フォロンダ領主に挨拶をして、アマリさんと一緒に王都観光に向かう。
彼女は王都まで馬車を出すと言ってくれたけど、時間もあるのでゆっくり歩いて行く事にした。
「少し暑いな」
「もう夏だからね」
私の返事に溜め息を吐くお父さん。
「今年も暑そうだな」
お父さんが凄く嫌そうな表情で呟くので、ちょっと笑ってしまう。
「気になる物や見たい所はありますか?」
アマリさんを見て首を傾げる。
ん~、全く思い浮かばないな。
「今、王都で話題の場所は何処ですか?」
お父さんを見てなぜか笑うアマリさん。
「木の魔物が現れた場所ですね」
木の魔物!
私が狙われた事で聞き忘れてた。
「あの、今木の魔物は何処にいるんですか?」
次の王の傍にいると聞いたけど、本当なんだろうか?
「王城にいますよ」
本当だったんだ。
「次の王というのは面倒なので、王と言いますね。王がお忍びで出掛けた時に襲われたのですが、その時に木の魔物が体を張って助けたのをきっかけに、王城に住むようになりました」
木の魔物が王様を守ったの?
「凄いですね。あっ、今は王様を守るために王城にいるんですか?」
「いいえ、王の愚痴を聞くためですね」
愚痴?
「王がお忍びで出掛けたのも、木の魔物に愚痴を聞いてもらうためでしたから」
えっと?
「王は、簡単に弱みを言えない立場だからな」
あ、なるほど。
だから木の魔物に愚痴を言いに行っていたのか。
「木の魔物は元気ですか?」
「はい、それはもう。王族騎士団と仲良く遊んでいますよ」
王族騎士団?
前に会ったホルさんが王族騎士団に属していたよね。
もしかしたら、ホルさん達と一緒にいるのかな?
「遊ぶとは何を?」
お父さんが不思議そうな表情でアマリさんを見る。
「一緒に特訓しています」
「えっ、木の魔物と一緒にですか?」
アマリさんを見ると、笑って頷く。
人と木の魔物が一緒に特訓?
ちょっと見たいかも。
「おかしくなっていない木の魔物は凄いですね。動きも早いですし、判断力もあります。あと、魔法が使えて本当に強いです」
アマリさんの言う通り、魔法陣でおかしくなっていない木の魔物は強い。
そして、とても優しい。
「木の魔物は、これからどうするんですか?」
お父さんの言葉に、アマリさんに視線を向ける。
「とりあえず、戴冠式までは現状のままみたいです。戴冠式後については、私には分かりません」
「そうですか。王城にいるなら、会う事は出来ないですよね?」
お父さんの言う通り、王城だから無理だよね。
「フォロンダ様に言っておきますね。きっと、どうにかしてくれるでしょう」
フォロンダ領主にお願いするのは気が引けるな。
凄く忙しそうだったから。
「アマリさん。私は、木の魔物が元気だと分かっただけでいいです」
木の魔物が、無事で元気で寂しくないならそれでいい。
「そうですか?」
「はい」
アマリさんは少し何かを考えていたが、頷いてくれた。
「分かりました。そろそろ大通りが見えてきますよ、ほら」
アマリさんが指す方を見て、足が止まる。
まだ大通りまでは少し距離がある。
でも、人の多さは分かる。
「凄い人だな」
お父さんが私を見る。
「うん」
「話題の場所に行ってみるか?」
木の魔物もいないのに、行ってもね。
お父さんを見て首を横に振る。
「少し早いですが、お昼ご飯を食べますか? お昼になってしまうと、店も屋台も混みますから」
王都のお昼。
お父さんを見ると頷いてくれたので、アマリさんにお願いする。
「はい、お願いします」
「では、行きましょう」
アマリさんは大通りを使わず、人が少ない道を選んでくれたようだ。
「こちらです」
彼女が教えてくれた店は、肉屋。
お店の中を覗くが、生肉が並んでいる。
「ここですか?」
お父さんも驚いた表情でアマリさんを見た。
「はい。この店の『パンジュ』は、とてもおいしいんです」
パンジュ?
「どんな物ですか?」
「ジュッと焼いた厚みのあるお肉をパンで挟んだ料理です」
アマリさんが、説明しながらお店に入る。
一緒に入り、商品が並んでいる棚を見るが生肉しかない。
パンジュは何処にあるんだろう?
「いらっしゃい」
奥から男性が出て来て、私達を見る。
「パンジュをお願いします」
店主さんがアマリさんを見ると嬉しそうに頷いた。
「いつもありがとうございます。今日のお肉は何がいいですか?」
もしかして挟むお肉を選べるの?
「ドルイドさん、アイビーさん。お肉は何がいいですか? あと厚みも選べますよ」
お父さんが、楽しそうに並んでいる生肉を見る。
「アイビーはどれがいい?」
お父さんの隣に立つと、肉の説明書を見る。
肉の柔らかさや癖などがしっかり書いてあるので、分かりやすい。
ただ、肉の種類が多いため何を選んだらいいのか迷う。
「店主さんのお薦めはどれですか?」
私の質問に店主さんが3種類のお肉を教えてくれた。
「私は、お薦めの3種類をお願いします」
「分かりました。厚みはどうしますか?」
「通常はどれくらいですか?」
「2㎝ですね。肉が好きなら4㎝の方がお薦めです」
「2㎝でお願いします」
「俺はアイビーと同じ3種類と、あとこっちの2種類。それと隅にある肉で厚みは全て4㎝でたのむ」
4㎝のお肉か。
食べ応えがありそう。
「分かりました。少しお待ち下さい」
あれ?
アマリさんは?
アマリさんに視線を向けると、不思議そうに私を見た。
「アマリさんは選びましたか?」
「はい」
いつの間に、気付かなかった。
「お待たせしました」
しばらくすると大きなカゴを1個と、小さいカゴを2個持った店主さんが来た。
「大きいカゴがパンジュ6個です。小さいカゴの方が、お嬢さんとアマリさんの分です」
カゴの中を見て目を見開く。
失敗した。
パンジュが両手で持つほど大きいなんて。
それに野菜もいっぱい挟んでくれているから、凄い量。
これは食べきれないかも。
「この近くに公園がありますので、そこで食べましょう」
公園は少し混んでいたが、すぐに開いている椅子を見つける事が出来た。
「飲み物は持ってきたので、食べましょうか」
アマリさんの言葉に、濡れた布で手を拭きカゴからパンジュを取り出す。
お肉と野菜が同じ厚みだ。
「「「いただきます」」」
お肉の厚みと野菜の厚みがあるので、ちょっと食べにくい。
でも、ソースがおいしい。
野菜もお肉もおいしい。
「うまいな」
「うん。でも、ちょっと多いかも」