軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

52回目 分かれ道からやり直し

「坊ちゃん。次の道を行くと村が見えてくっから、今日はそこで泊まるべ」

「……村? 次に着くのは街じゃないのか」

旅に出てから更に三日後、行先に左右の分かれ道が見えて、トムは左へ進もうとしていた。

トムは当然のように言ったのだが、一方でクレインは意外そうな顔をしている。

「最短経路ならそうなっけど、そっちの方が休憩箇所が多いんだぁ」

「あー、そうか。まあ道は任せるよ」

クレインが王都まで行く時、いつもは最短で王都に着く右の道を選んできた。

しかしトムは急ぐ旅でもないと、多少回り道になったとしても、休憩できる場所が多いルートを選んで進もうとしている。

これは旅慣れていないクレインとマリーへの配慮だ。

それはクレインにも分かるとして、むしろトムの方が分からないこともあった。

「なあ坊ちゃん。本当に、王都に寄らんでええんか?」

「ああ、それで頼む」

これは出立の直後から繰り返していたことになるのだが、トムの方はクレインの、「王都には寄らない」という言葉に首を傾げていた。

普通の若者なら寄りたいと思うだろうし、アースガルド領から北方へ向かうのであれば、どこを通っても大して時間に差は出ない。

わざわざ「王都を通らないルートで行く」と宣言する方が奇妙だ。

しかしクレインとしては、もう王都に近寄りたくないくらいの気持ちでいる。

どうしても必要があれば別だが、今回は王宮のバックアップを受けて急開発という手段を取らないため、今の段階では寄る必要は無い。

何にせよ、彼が道のりに関して言うことがあるとすればそれくらいだった。

そこから先には用事が一つあるくらいだ。

「途中で知り合いに薬だけ渡していきたい。多分道すがらにあると思うんだけど、一か所だけ寄ってほしい街があるんだ」

「知り合い?」

領地の外に知り合いなどいたのか。

クレインからの返しに意外そうな顔をするトムだが、特に意見を言うこともなく。

そしてクレインが言う知り合いとは、ランドルフのことだ。

彼の妻は持病を抱えており、薬が無ければ衰弱してしまうだろう。

向こうからすれば初対面に戻っているとしても、時折見舞いにも行ったクレインにとってみれば知らない仲でもない。

前世までに関わった人物を、できる限りで助けていく。

今回の人生で彼がやろうとしていることは、それくらいだ。

「代金は渡すから、薬はスルーズ商会から買ってくれ」

「まあ、構わんけども」

そして本来の未来ならば、トレックの商会はいずれ潰れる。

薬一つの代金など、足しにもならないだろう。

自己満足なことは彼自身が一番よく分かっているが、アースガルド領に残してきたノルベルトたちにも、何か入用なことがあれば出入りの行商人を通じてスルーズ商会を使うことは頼んであった。

「できることはそれくらいかな」

配下だった武官たちの生活も苦しくなる。

全員を満足に救済することはできない。

現状よりも、いくらかマシな状態を作り上げるのがいいところだと思っていた。

そうこうしているうちにも馬車は進み、村まであと数時間という位置で――山賊が現れた。

規模は十名ほどで、そこそこ大きな集団だ。

「荷物を置いていきな。命までは取らねぇから」

先頭に立つ大柄な男は、ボロの剣を片手に行く手へ立ち塞がった。

しかしトムは慣れているのか、冷静に盗賊へ尋ねる。

「ああ、こりゃいけない。お客人、通行料はいかほどで?」

「積み荷にもよるが、二割ってところか」

馬車ごと奪いでもしなければ荷物を持って帰れない。

しかし派手に動けば、その土地を治める領主からの討伐隊がやって来るだろう。

だからほどほどに絞りあげるのが盗賊の流儀だ。しかし相手が無法者であるということに変わりは無い。

「お、そこそこ可愛い女もいるじゃねぇか」

「誰がそこそこですか! 凄く可愛いじゃないですか!」

「……はいはい」

平常運転なマリーを見て、盗賊の頭目である男も呆れていたが。

何はともあれ盗賊の前に上玉が現れれば、選択肢はそう多くない。

「親分、売っぱらいますか?」

「止めとけ、足がつく」

「いい値になりそうなのに」

通行人を捕まえて奴隷にするコースも一般的だ。

この頭目はまだ理性的ではあるものの、しかし盗賊は盗賊。

「よし、積み荷の二割と。そこのお嬢ちゃんが一晩相手をすること」

「へへっ、話が分かるぜ」

「俺が一番にやりてぇな」

「うええ!?」

身体を要求されたマリーはズザザと音が立ちそうなほど後ずさり。

その様子を見ていたクレインはと言えば、力の新しい特性を試そうとしていた。

「……検証には丁度いいか」

現時点で分かっているやり直しの特性は三つだ。

頭の中で「いつ」に戻りたいかを念じれば、過去へ帰れること。

思考ではなく、発言でもいいこと。

最後に思い浮かべたもの、または最後の言葉が有効になること。

前回の人生のように、日ごろから「二週間前」へ戻りたいと思っていたとして。

心のどこかで別な時期のことを考えれば、恐らくそれは上書きされる。

「そう言えば、何の気なしに使っていたけど。この力のことを確かめるのは久しぶりだな」

死んだら過去に戻る。

今まで50回に及ぶ人生で、それ以外の使い道をロクに考えたことが無かった。

これが自分が使える唯一の切り札なのだ。

最初の方で、もう少し詳細を調べておいてもよかっただろうに。

しっかり理解ができていればこんな失敗はしなかった。

内心でそう自嘲しながら、彼は一つの仮説を明らかにしようとしていた。

「平和だった頃に、という環境――状況が指定できるんだ。それなら、できないことはなさそうか」

漠然と「平和な時期」と口に出しても過去へ跳んだ。

それなら何月何日という形ではなく、何かの出来事があった瞬間にも戻れるのではないか。

そう推測した彼は、この状況を回避するためには、どうしたらいいのかを考える。

「最短経路で行けば、こうはならなかっただろうな」

「お、どうした坊主。剣なんか抜いて」

「やる気か? ヒャハハ!」

十人の盗賊の前で剣を構えると、クレインはそれをそのまま自分の首筋に当て。

「分かれ道からやり直しだ」

躊躇わずに、己の首を切り裂いた。

「坊ちゃん。次の道を行くと、村が見えてくっから」

トムが何気なく言った一言。

これが運命の分かれ目だった。

「……できた、か」

瞬きのあとすぐに意識を取り戻したクレインは、ベッドの上ではなく、馬車の荷台で意識を取り戻した。

しかし分かれ道に差し掛かったときは確かに起きていたので、リスタートのタイミングは別に、寝起きでなくとも構わないらしいと知る。

日付を指定すれば、その日起床したところから。

状況を指定すれば、その直前から唐突に意識が目覚めるようだ。

それを確認してから、クレインは御者台に座るトムに向けて言う。

「トム爺、俺は平気だから近道で行ってくれ」

普通なら山賊に財貨を奪われた上でマリーが酷い目に遭うとしても。

それを知っているなら、左の道は選ばない。

「へ? でも、そうすっと。今日は馬車で寝泊まりになるけども」

「構わない。一度やってみたかったんだ」

「ああ、なるほど。そういうことかぁ」

坊ちゃんが馬車で旅をするなど、初めてのことだ。

折角行商についてきているのだから、商人の生活を知るのもいいだろう。

なるほど、視察という目的には合っている。

そんな風にトムも納得して、何を言うこともなく進路は決まった。

「最初から飛ばしますね、クレイン様」

「マリーだって、この方が旅の気分を味わえていいだろ?」

「そうですね、まあ、たまにはいいと思います」

そんな会話のあと、トムは右の道を選び。

山賊のいない道を、一行の馬車はのんびりと進む。