軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49回目 勝利の宴

「ピーター大隊長、男爵軍を撃破! 別動隊は、更に東へ進撃!」

「敵の補給部隊も撃退に成功した模様! 伯爵軍への補給線は切れました!」

砦からアースガルド領へ向かう道を、閉鎖するように建てられた本陣。

クレインはここで待機していたのだが。現在ここには、戦況を知らせる早馬が続々と飛び込んでいた。

迂回したり、見つからないような道を選んで情報を持ち帰っている。

もうピーター隊は騎士爵の襲撃まで終わらせた頃かと、彼が作戦の成功に安堵していれば――彼らの元に、いよいよ決定的な報せが飛び込んできた。

「報告! ご報告ッ! 伯爵軍が退却していきます!!」

「おおっ!」

「本当か!?」

斥候からの報告が届くと辺りはざわめく。

しかし歩兵や敗残兵が合流して、一度数を減らした伯爵軍の数は三万五千ほどだ。

対するアースガルド軍には九千の戦力しかないのだから、依然として予断を許さない状況ではあった。

「正面から戦えば負けるところだが。……多分、焦土作戦が効いたな」

「そのようです。クレイン様、この後はいかがしますか?」

「決まっている」

ランドルフやグレアムを始め、本陣に集まった将はやる気に満ちている。

王国の盾である四大伯爵。

その一角を相手に、完全勝利に近い形で戦いが終わろうとしているのだ。

ならばもう、やることは一つ。

「これだけは厳命するが、伏兵には注意して進めよ?」

「では、クレイン様!」

期待に満ちた目で見つめる諸将に対して、クレインは大きく手を振って告げる。

「そうだ。――全軍、追撃にかかれ!!」

圧倒的な劣勢の中で、勝ち戦を掴み取った。

一拍置いてその実感が湧いたのか、各隊の士気は異常な上がり方を見せていた。

「しゃあッ、やってやんぜ! 行くぞ野郎ども!!」

「ここが見せ所だ! 我らが武勇、敵軍に刻み込んでくれるわぁぁあああッ!!」

即座に行動を開始したのは、防衛戦で功の少なかったグレアム隊だ。

今度は大将首でも挙げてやろうかと気炎を上げていた。

いいだけ暴れたランドルフ隊も、更なる武功を求めて真っ先に走り去っていく。

そんな中で、クレインは援軍たちに声を掛ける。

「ヨトゥン家の軍は、南方から来る商隊の護衛をお願いします」

「おや、武功を独り占めですかな?」

ニヤリと笑う南伯の家臣に向け、肩を竦めてクレインは言う。

「まさか。もしも敵が退いたフリをして回り込んでくれば、我が領は滅びます」

「はは、それは責任重大ですな。よろしい、引き受けました」

伏兵もそうだが、自軍がやったことを敵にやり返されてはたまらない。

自軍の兵士たちには前方へ進撃。

友軍には後方への備えを忘れずに申し渡し。

「あとは……トレック。このリストのものを、陣地に届けてくれ」

「これは? ……ああ、なるほど」

「ハンス隊を使っていいから。明日の晩までには頼むぞ」

「ええ、承知しました。こちらの指揮はお任せください」

物資の運搬をトレックとハンスにも任せた。

これで指示は完了だ。

万全の態勢で、彼らは追い打ちに打って出る。

追撃隊が出陣した翌日。

伯爵家が残した簡易陣地を占領して、クレインは部下たちの帰りを待ち。

そろそろ日が落ちるという時になって、最後の部隊が帰投した。

ピーター隊も一緒に戻ってきたので、全軍がここに集合だ。

「格下を相手に、ああまで見事に逃げるか。……この撤退の速さは流石だよ」

マリウスの部下が戻ってきた将たちに戦果を聞いて回り、戦果の集計をするところまで作業は進んでいる。

「歩兵たちは軒並み討ち取りましたが、伯爵家の者はいないようです」

「それは中核の騎兵隊だから仕方ないさ」

逃げ足の遅い歩兵たちを捕捉して、男爵領の半ばまで追い回したが。

伯爵家の軍勢は男爵領すら素通りして、一気に本拠地を目指していたらしい。

討ち取った歩兵は他家から供出された者たちなので、東伯に直接の打撃は与えられないとして。

手足になる寄子たちの軍事力を奪えるとなれば、それはそれでプラスだ。

そして何より、クレインが今回の戦いで、最も倒したかった部隊は倒せている。

「伯爵お抱えの最精鋭部隊は討てた。十分過ぎる戦果としておくか」

急斜面を――崖のような坂を――騎乗したまま駆け下りて攻撃するような、とんでもなく無茶な作戦を平気で遂行する最精鋭部隊。

それはハンスとトレックの手により、火計でほとんど討ち取れている。

伯爵家の中核を為す部隊の、更に中心に居る化物たちをだ。

「ハンスの奴にも功績を用意できて良かった」

「ええ、まあ。これで少し自信を持っていただければよいのですが」

ハンス自身もそうだが。腕自慢が続々と仕官してきたので、古くからアースガルド領に仕える兵たちは自信を失くしていた。

ここで王国最強の騎馬隊を相手に単独勝利したのだから、少しは自信になるだろう。

と、クレインも喜んでいる。

「復旧の方はノルベルトとバルガスに頑張ってもらうが、まずは論功行賞をどうするか」

「難しいところですね」

「ピーターの決死隊が第一功なのは、間違いないんだが」

奇襲部隊は当初の作戦目標を超えて、騎士爵領まで襲撃した挙句。

伏兵として、逃げる敵の歩兵を襲撃し。

追撃部隊との挟み撃ちで被害を拡大させたのだ。

今回の作戦で、最も活躍していたのは彼らだろう。

ここまでやれば戦功一位は確実だ。

「敵の別動隊を全滅させてから、反撃で物凄い戦果を叩き出したランドルフ隊は第二位として……」

大森林に潜み、寡兵で敵軍を食い止めるなどという荒業は、彼らにしかできない。

討ち取った将兵の数を見ても、異論を挟む者はいないはずだ。

しかし三位以下が困る。

最精鋭部隊を倒したハンスとトレックかと言われたら、少し違う。

少し戦ってから火を付けただけなので、前線の部隊から不満が出るだろう。

伏兵に協力し、後方の守りを固める南伯軍かと言えば。

彼らもそこまで大きな労力は使っていない。

砦の防衛に当たり、クレインと共に釣り餌となったグレアム隊かと言えば。

彼らは単純に、倒している敵の数が少ない。

では他の中隊長たちが率いる軍のどこかから選ぶかと考えても。ハンスやグレアムたちが倒した数と、目立った差は無いのだ。

「ま、追撃の結果次第か」

「それでは南伯軍から不満が出ませんか?」

「……そこはもう仕方がない。功績を計るのが難しい戦いだったので、結婚のご祝儀にください。とでも言っておくさ」

その上で感状でも書いておけばいいだろう。

そう締めくくったクレインの前に、休憩が終わった部隊が整列していく。

「そろそろ集計は出る頃か」

「自己申告の戦果ですが、よろしいですか?」

「ああ。そこは信じる」

追撃の戦果を見ればグレアム隊が張り切っていたようなので、戦功の第三位も決まり。

あらかたの結果が出たことを確認したクレインは、兵たちの前で演説を行う。

「まずは奮闘に感謝する。諸君らの働きで、この地を狙う東伯軍は撤退した」

戦争の原因が痴情のもつれでした。

などと言えば、水を差すどころの騒ぎではない。

だから「伯爵家から侵略を受けた」ということにして、彼は続ける。

「アースガルド軍は、ひと昔前まで弱兵と呼ばれていた。しかし今日の戦果を見れば――それは過去のことだと分かるだろう」

王国最強の騎馬隊を有する東伯軍を、寡兵で打ち破ったのだ。

策で倒した割合が大きいとは言え、敵軍とぶつかる瞬間は何度もあった。

将はもちろん。兵まで強くなっていなければ、どの道負けていたはずだ。

「我が領の兵士を鍛えてくれた、新任の将たちに感謝を贈ると共に。我が領地の民がこれほど強くなったことに、私は感動している」

新参者と古株、両方を立ててはみたが、あまり長々と語っても興ざめだろう。

そう思い、将たちに並んでいるトレックに目線を送れば――彼は大きく頷いた。

「今回の作戦では大量の物資を消費した。民を飢えさせるわけにはいかないので、褒美については戦後処理が終わってからになるが。まずは諸君らを労いたい」

クレインは追撃作戦に入る直前に、トレックに命じて宴会の用意をさせていた。

追撃部隊の帰還を待つ間に、陣地へ酒や食事を運ばせておいたのだ。

「脅威は去った。今宵は存分に楽しんでもらいたいと思うが、その前に一つ、宣言をして締めたいと思う」

ごほん。と、咳払いをしてから。

クレインは、この日一番となる大声を出しながら。

誇らしげな顔のまま、拳を天に突き上げた。

「この戦い、我らの勝利だ! 勝鬨(かちどき) を上げろ!!」

一瞬の間を置いて――この場の全員が、感情を爆発させた。

一万を超える軍勢が揃って声を上げ、拳を振り上げる。

兵士たちから大歓声を浴びるクレインは、かつてないほどの充足感を味わっていた。

何度も死んで、何度もやり直して。

ついに、とうとう宿敵を退けることができたのだ。

中堅勢力でしかないアースガルド家が、寄子の軍まで導入して攻めて来た東伯軍を撃退したこと。

その一報は瞬く間に、王国全土へ広がることになるだろう。

勝利と栄光を手にしたクレインは、頭の片隅で後のことも考えたが――ひとまず、それは置いておく。

「さあ、今日は飲むぞ!」

クレインもまずは、今日の勝利を喜ぶことだけを考えて。

伯爵家を打ち破った象徴とも言える、焼け落ちた砦を前に――勝利の宴が始まった。

王国歴502年1月18日

総勢四万の兵で攻め寄せたヴァナルガンド伯爵軍に対し。

アースガルド子爵家、ヨトゥン伯爵家の連合軍一万三千が迎え撃った。

数で勝る上に、王国最強の騎馬隊を有するヴァナルガンド軍が圧勝するだろう。

大勢がそう判断する中での開戦となったが、予想は裏切られる。

敢えて砦を陥落させての火計。

総大将を囮にしての伏兵。

道なき山脈を乗り越えての奇襲。

領地が滅びかけ、しかし民に大きな被害を与えなかった焦土戦術。

あらゆる手段を用いてヴァナルガンド伯爵軍を撃退した連合軍が、完全勝利する形で戦の幕が下りた。