軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十一話 山賊のプライド

「ええと、それなら、仮にお前が子爵本人だとしよう」

「仮じゃないんだけど……まあいい、俺が子爵本人だったらどうする?」

どうすると言われたら、どうするべきか。

グレアムはクレインの顔を見てから周囲をぐるりと見渡し、仲間たちの姿を見て、今の自分が山賊であることを思い出した。

何をしていいのか分からないなら、シンプルな解決策がいいだろう。

盗賊の仕事をごく単純に考えれば、彼が取るべき行動も自ずと決まる。

「ふん縛って、身代金をふんだくる」

「そうきたか」

クレインが北へ向かう途上ではそれを避けるために、しがない行商人の息子として行動していたこともあった。

これは山賊と化したグレアムからすれば当たり前の行動だ。

「おのれ貴様! 成敗してくれようかッ!!」

「まあ待てランドルフ」

クレインはごく当然のように納得したが、ランドルフはこの発言に怒り狂う。

先ほどから不穏な空気は流れており、元から爆発寸前だったのだ。

しかしグレアムの発言もランドルフの反応も、予想通りではある。

だからクレインは冷静に護衛を制した。

「慌てるなって。この流れも予想の範囲内だ」

大儲けしている子爵家の当主が、少数の護衛を伴ってノコノコやって来た。

グレアムから見ればそういう状況だが、クレインは不気味なほど平静だ。

だから流石のグレアムも、裏を考える。

「強がりってワケでもなさそうだな」

「それはそうさ。考えがあってのことだから」

その様子を見て何か策があるのかと勘ぐってみるが、彼には何も思いつかない。

これはグレアムの頭脳の問題というよりも、状況設定があり得ないからだ。

総大将が敵陣のど真ん中に、三人の護衛だけを連れて乗り込む。

この状況でなければ発動しない策など、そうそう無い。

仮にランドルフが盗賊団を一人で壊滅させられる一騎当千の猛者だとしても、乱戦になれば敵を倒している途中でクレインが殺される確率が高いだろう。

「……分からん」

グレアムも喧嘩と戦いのことについては勘が働く方だし、荒事だけには知恵が回る性質でもある。

だが、合理的に考えれば――普通に考えれば――今の状況が意味不明だ。

「不思議そうな顔をしているけど、分からないのは敵対が前提だからだよ」

「そりゃあ……どういうことだ?」

「言っただろ、友好的な話をしに来たって」

戦闘を始めるにせよ追い払うにせよ、敵対的な行動を起こすならあり得ない状況ではある。

しかしクレインは話し合いにきたのだ。

「ああ、もういい。先に話を聞かせろ」

「その方が早いか。単刀直入に言うと、お前と配下を丸ごと引き抜きたい」

先を促されたので、ここでクレインは本題となる引き抜きの提案をする。

それも彼個人ではなく、抱えている盗賊団を丸ごと吸収したいという提案をだ。

「……は? 金をやるから出ていけとか、そういう話じゃなくてか?」

「全員まとめて雇いたいって話だ。うちの家臣になってくれ」

「な、何言ってんだお前」

その他の野盗はおまけでしかないが、クレインはここでグレアム隊の中心メンバーもまとめて確保する予定でいたし、初期目標からすれば当然の話だ。

元よりグレアム獲得のために赴いたのだから、彼の中には最初から敵対の選択肢など無い。

「クレイン様! このような者たちを雇うことなど、やはり拙者は反対ですッ!」

「ランドルフの言う通りです、やめておいた方が……」

しかし周囲の人間からすれば突拍子も無い発言なので、当然戸惑う。

山賊の実物を見たランドルフは襲いかかる寸前で耐えているし、ここにきてハンスも反対に回った。

「そ、そうだな。おう、山賊を雇おうとする貴族なんか、どこの世界にいるんだよ」

「ここにいるじゃないか、まったく……」

そしてグレアムも同意し、クレインはどちらの陣営からも総攻撃を食らう。

何も言わないのは事前に話を聞いて、無理やり承知させられたマリウスくらいだ。

しかしクレインは止まらない。

護衛の反対も一旦置き、グレアムの目を見て話を続ける。

「なあグレアム、伯爵家が本気で討伐隊を出してきたら、全滅するって分かるだろ?」

「どうかな。意外とやれるかもしれないぜ」

「無理だよ。重装歩兵で山を囲まれたらどうするんだ」

確かに堅牢な山城は完成しつつある。攻め寄せても被害が増すばかりで、戦果は挙がらないのかもしれない。

だが、彼らを全滅させたければ、山を兵士に囲わせるだけで済む。

グレアムと子分だけなら山菜採りで食い繋げたかもしれないが、今や大所帯だ。下山できなくすれば二週間と経たずに干上がるだろう。

それくらいはグレアムにも想像がつく。

「その時は夜襲で蹴散らせばいいだろ」

「それくらいしか手が無いのは向こうも分かってるよ。不意打ちが対策されたら?」

「対策されたら……。どうすっか」

グレアムたちは多めに見積もっても三百人ほどだ。

未だに数が増え続けているが、それでも今年中に集まるのは五百がいいところだろう。

丸腰に近い者がほとんどなので、重装備の兵士を二千も出せば山に閉じ込めることはできる。

真正面からの戦闘なら、豊富な資金力で優良な装備をしている伯爵軍を相手に、ボロの刃物と布の服しか選択肢の無い山賊が勝てるはずもなかった。

「それに今は良くても、冬はどうするんだよ。食料をどこから調達するつもりなんだ」

「輸送されてるモンを奪えばいいじゃねぇか」

「収穫期が終わったら食料なんて輸送しないし、少し中央側に迂回されたら終わるぞ」

今は春先に運んだ寒冷地対応種の中で、実りの早い作物が運ばれているだけだ。

メインは保存のきく穀物や芋だが、それも秋の終わりには運び終わる。

そして討伐が上手くいかないなら、子爵領までの最短経路を取らなければいい。

一旦北上してから東へ進めば輸送時間のロスは五日もかからずに済むので、彼らの手が届かない地域から配送すればそれで完了だ。

それらを前置いた上で、クレインは指を二本立てた。

「お前たちが有利なところは、攻めにくいところに拠点があること。それから面倒な土地にいること。この二つだ」

山中に砦を築き、防御力が上がっているのはもちろんだ。

しかし討伐難易度を上げている主な要因は、アースガルド領とヨトゥン領の中間――領主がいない空白地帯――に陣取っているところが大きい。

伯爵領からは距離があるので、討伐隊を送るには手間がかかる位置だという点。

それが討伐隊を組むのに時間がかかった理由だ。

しかし討伐されにくい位置にいるとは言え、グレアムたちも遠出はできない。

拠点を出れば簡単に討伐されるし、そもそも長期行軍できるほどの物資や輸送体制が揃っていないからだ。

「まあ伯爵家は、やろうと思えばいつでもできるんだよ」

詳しい手段までは調べ切れていないが、事実としてヨトゥン伯爵家は醜聞が漏れる前に派兵を決定している。

このままいけば討伐作戦が成功すると知っているクレインからすれば、グレアムたちが討伐されるのは時間の問題でしかなかった。

「伯爵側には、いざとなればいくらでも打てる手はあるんだ。このままいてもジリ貧なのは分かるだろ?」

「どうだかな」

冷静に考えれば、明るい未来が待っているはずもない。それは憎まれ口を叩いているグレアム自身が既に理解している。

クレインもそうと見て、より踏み込み、強く提案を仕掛けた。

「俺のところに来てくれれば、伯爵にはいいように言っておく。もう生活の心配だってしなくていいんだ」

クレインがそう言えば、「雇ってもらえるなら子爵領へ行こうか」という顔をした山賊もちらほらと見られるようになった。

この様子では伯爵軍がやって来た時、何となく集まってきた流れ者が離れていくどころか裏切り者が出るだろう。

グレアム一派の首を差し出し、褒美を貰おうとする人間が出てくるかもしれない。

生活に困って何となく集まった者が多いのだから、裏切り者には常に警戒が必要となるのだ。

かと言って、戦うのを諦めて今すぐ離散しても、ここから生活を再建できるはずがない。

考えてみれば考えてみるほどに、状況は詰んでいた。

これを解決できる唯一の道がクレインからの誘いに乗ることだ。

「それがいい話だってのは分かる。騙して領地に連れて行って、そこで殺されるって線も十分に考えられるが。……まあ遅かれ早かれだしな」

ここでグレアムは今の状況を再確認するが、クレインが騙そうとしている可能性は低い。

おびき寄せるなら側近でも派遣すればいいからだ。

クレインの手紙を持たせて寄越すだけで良く、本人が直接来る必要は無い。

自分たちが何の役に立つのかは知らないが、彼もクレインが本気で雇いに来たのは理解できた。

「それなら提案に乗ってくれるな? ああ、そうだ、具体的な条件をまだ伝え――」

「いいや。まだ乗るとは言ってねえ」

助かる道が、クレインの提案の中にしか無いことは明白。

グレアムもそれが分かった上での発言だ。

「……なんで?」

穏便に配下へ加えられそうだったのに、ここに来て何故。

そんな考えが頭を掠めて、今度はクレインが戸惑っていた。

しかしグレアムには退けない理由がある。

――というのも、これはメンツの問題だ。

「ここで簡単に乗ったらよォ。……カッコ悪いじゃねぇか」

「は?」

グレアムは勢い勇んで、盗賊として一旗揚げたのだ。

その末がたったの三か月で、保護を求める形での従属となる?

これではガラの悪いお友達と一緒に粋がり、夏休みにキャンプかピクニックをしていただけだ。

こんなもの彼の美学からすれば到底許容できないほどみっともない行動だった。

だから彼は容易に話へ乗れない。

「俺たちみたいなのはな、ナメられたら終わりなんだよ。俺たちがこのままアンタの下についたとして、俺の下にいる子分どもはどう思うって話だ」

口先だけの男で、実は大したことがない。

そんな見方をする者は一定数出るだろう。

とは言え彼は、別に地位や賞賛を求めているわけではない。

お山の大将になりたいわけでもない。

しかしそれでも、子分に軽く見られるのはプライドが許さない。

言ってしまえば子どもじみた我儘であっても、彼からすれば命と引き換えでも構わないほど、メンツの問題は大きかった。

「なるほどな」

不良(アウトロー) には 不良(アウトロー) の世界があるのだ。

それは何となくクレインにも理解ができたし、グレアムからの忠誠を受けるにはその点への配慮が必要なことも察した。

グレアムとて、その場の勢いで南部の重鎮に喧嘩を売ったのはまずいと思っているし、部下を抱え過ぎたので、このままでは討伐隊が送られてくることも分かっている。

しかし彼の個人的な心情を抜きにしても、ここまで来たら子分たちの手前、退くに引けない状態だ。

彼のカリスマ性が失われた瞬間、この集団が崩壊し無秩序になるだろう。

組織を率いるという立場ではクレインも同じなので、求心力に関する悩みだと言うのであれば、まだ理解できるところでもある。

「……どうすれば解決できるだろうな、その問題」

「……それを俺に聞くかよ」

しかしこの問題の出口はどこか。

突然の提案に、グレアム自身が取り立てて結論を出せていない。

というよりも、それ以前の問題だ。

彼は行き当たりばったりでここまできたので、ここから先の着地地点や見通し、未来のビジョンといったものは一切持っていなかった。

だから、どうしたらいいか分からない二人の間には、十数秒の沈黙が流れる。