軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十九話 御自らの特攻

王国歴500年9月10日。

この日クレインは土産物を積んだ車列をずらずらと引き連れて、外交に出かけていた。

「ここからの護衛は二、三人でいい。大勢で行って刺激したくないからな」

「しかし本来のご予定では、これから南伯と――」

ランドルフ隊とマリウス隊、他数名の役人を供にして行軍しているが、彼らは元々「ヨトゥン伯爵家へご機嫌伺いに行く」という名目で連れ出されていた。

関係が悪化すれば経済危機と食料危機が同時に訪れるので、関係を深めるために、ヨトゥン伯爵家へ贈る特産品などを積んで南へ向かっている。

少なくとも随行している配下たちは、その認識で行進を続けていた。

「ああ、その予定は嘘じゃないけど、実のところ本来の予定はこっちなんだ」

「ええ……」

しかし山賊が跋扈する地域を通りかかった段階で急遽予定を変更し、山賊を口説きに行くと言われたのだから周囲の人間は仰天していた。

唯一事前に話を聞いていたマリウスは既に説得を諦めているが、他の配下たちは総出でクレインを引き留めている。それが今の状況だ。

クレインの本命はヨトゥン伯爵領――の手前にある――山賊の拠点となる。

言わずもがなグレアムらをスカウトしにいくためだ。

「クレイン様、お待ちを!」

「何もクレイン様がお出にならずとも!」

見どころのある山賊がいるから召し抱えに行く。

それも領主が直々に。

大物だとか礼を尽くすだとかいう前に、こんなことは狂気の沙汰でしかない。

無茶を言う領主を周囲は強く引き留めたが、クレインの意志は固かった。

「いいや俺が出る。これが一番早いし確実だ」

「しかし相手が山賊では!」

「交渉ならば我らにお任せを!」

今までに五回やり直したが、毎度毎度何故か包囲網を潜り抜けられ、何をどうしてもグレアムの再獲得に失敗していたのだ。

もう多少強引でもいいかと思い、手下の分まで旅費を渡すから来いと言っても。

「そんな怪しい誘いに乗るかよ。それにな、俺らは地主のジジイに恩があんだ」

「うぇーい」

無駄な義理堅さを発揮したグレアム一行は、そんな風に断ってきた。

そこで適当な理屈を捏ねて、彼らが恩を感じているという地主を経由してみても。

「頼むぜおやっさん! ここまできたら俺たちは、農家で成り上がりてぇんだ!」

「うぃーっす」

「……こいつらを子爵家に寄越したら、大問題になりそうな気がする」

伯爵家と子爵家の関係悪化を恐れた先方が難色を示した上に、グレアム一派が移籍を拒否していた。

貴族の強権を発動して無理を通すことはできたが、それで雇っても彼らにやる気が無くては意味が無い。

というわけでグレアムたちは、梃子でも動かなかった。

しかしその返答を受けた二ヵ月後に山賊となっている未来は、どんな内容の連絡を送っても変わらずではある。

だからこれにはクレインも微妙な顔をしていたが、何はともあれ切り替えていった。

「いいや、重要な案件だ。俺が行くことで本気度の高さを見せつけてやる」

これで失敗するならまだ真面目に働いているうちに、ヨトゥン伯爵家経由で正式に仕官の打診を送ろうかと思った五回目のやり直し。

つまり前回の人生の最後には作戦を変更して、山賊のグレアムを配下に加えようとしてみた。

中央から派遣されてきた役人でも上昇志向が強そうな者たちに、子爵領への仕官と出世をチラつかせ、交渉役として送り込んではみたものの。

「交渉したけりゃ誠意を見せろ、責任者を出せや」

という返答付きで、けんもほろろに追い払われている。

一度農家になってからは動かないし、山賊化すれば話を聞いてくれないという面倒な状態だ。

5月末に王都から領地へ戻る際に、南を経由して拐っていくことも検討したクレインだが、内政の準備や商会の受け入れを考えればその余裕は無い。

領主不在では回らない部分がどうしても出てくるので、グレアムたちのために経済政策を遅らせることは流石にできないという判断だ。

しかしグレアムが不在だと東伯戦での防衛作戦に支障が出るどころか、各地から集った荒くれ者の統率が取れるか不安なところが出てくる。

軍の統率を考えれば、彼を確保しないという手は無い。

そこで伯爵家を通す前に、間違い無く最高責任者であるクレインが直々に乗り込むと決めた。

山賊のグレアムを配下に引き入れるという方針で、クレインの中では既に決着がついている。

これが最も確実な方法ではあるし、よくよく考えてみれば普通に仕官させるよりも、グレアムが山賊化してから雇う方が遥かにメリットが大きいからだ。

「南伯との交易に不安は残したくないし、これは好機なんだよ」

「……と、仰いますと?」

クレインが一度全部を諦めかけた時、山賊と遭遇してやり直したこともある。

子爵領から王都へ続く街道の治安は悪くないが、それほど良くもない。それは南方面も似たようなものだ。

「盗賊が一か所に集まっているんだぞ? 彼らの長を説得できれば、南方面の治安が一斉に回復できるじゃないか」

「理屈の上ではそうですが……」

「危険過ぎますッッ!!」

現在のアースガルド領はどうしても仕官したい者たちが山狩りを行い、それでなくともランドルフ隊が徹底的に見回りをしている。

しかし領地と周辺が落ち着いても、南方面には長い街道が続くだけで、どの勢力も治安維持をしていない空白地帯がある。

グレアムが拠点を構えた山もこの空白地帯の中にあった。

だからこそ情報が出回らず、しかも醜聞を回避したいヨトゥン伯爵家から 緘口令(かんこうれい) が敷かれていたためグレアムの発見が遅れたという事情もあるが。

何にせよ手を出しにくい地域なので、一度で治安維持が完了するなら効率はいい。

「近隣の賊を全部抱え込むような大所帯ができているんだ。これを逃す手は無い!」

ランドルフやハンスらの説得も何のその。

武官の募集が一段落したらこうすると決めていたので、クレインの中で決行の日は随分前から決まっていた。

「さあ、気合を入れていこう」

「クレイン様、お考え直しを!」

「ご乱心、ご乱心じゃあ!!」

部下たちはその後も代わる代わる、クレインの暴挙を止めようと奮戦する。

しかしクレインは断固として言うことを聞かなかった。

やがて全員が折れたので、総大将が御自らが山賊の根城に乗り込み、説得して配下に引き入れるという――無謀な説得が幕を開ける。