軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十七話 この二択はあくまで最終手段

「……本格的にどうしよう」

再び朝に戻ってきたクレインは、本気で悩んでいる。

アースガルド領で働いている人間とメーティス男爵家、又はマリウスとの間に何かの繋がりがあれば、それを辿るのがベストな方法と考えていた。

そして聞き込みを始める前は、すぐに関係者が見つかるだろうと楽観視していたものの。

しかし身近にいた者たちは誰一人として有力な縁を持たず、結果は空振りに終わっている。

「出向役人たちの実家に頼ってみるか? いや、でも片手落ちだしな……」

どこかの中央貴族家に借りを作って、男爵家との仲立ちを頼む道もある。

しかしそれで交渉のテーブルに着いてもらえたとしても、何故マリウスを名指しで確保したいのかという理由は説明できない。

どこかに仲介を頼み、ある程度の信頼感を持って話を持ち掛けたところで、肝心の提案内容に疑いを持たれては意味が無いのだ。

この点はどう足掻いても解消できない問題だった。

「いっそもう少し前からやり直して、採用数を減らすとかはどうだろう。北部から招く人材の数を削って、マリウスが自分から仕官しに来るギリギリを見極めるとか」

訪れなかった武官たちの背後関係を確認する。

それだけを目標にするなら、マリウスの確保さえできればいい。

人を集めたことそれ自体が問題なのだから、人数を抑えればマリウスも来るだろうか。

クレインはそうした場合の未来に考えを巡らせる。

「一度マリウスの再獲得だけを目標に動いて。確保できた瞬間に急拡大を始めて――人材差し止めの裏側を調査させる?」

そうしてから再び同じような道を辿ればどうだ。

と、そこまで考えて気づく。

「マリウスが来る時点で、人材差し止めの動きが起きていないことになるか。そこから動き出しても同じ結果にはならないだろうし……ダメだな」

最終的には、再雇用したい貴族の子弟も何名かいるのだ。

根本的に言えば正攻法で、全員採用できる道を探さなくてはならない。

そのためには大筋を変えずに同じ流れをなぞりながら、問題だけを解決する必要がある。

「やっぱりここは個人のツテか。となると確実なのはあの二人なんだが……」

社会的な信用があり、メーティス男爵家を動かせそうな人物。

それでいてクレインと個人的に親交がある人物ならば、有力候補は二人に絞られた。

話をつけられそうな人間と言えばアレスかビクトールのどちらかだが、しかしどちらも動かしにくい状況ではある。

「どっちに頼んでもどこかには情報が漏れそうな上に、扱いが難しいな」

アレスは影響力に乏しいものの、中央貴族のメーティス男爵家になら王家の威光で何とか説得できるかもしれない。

実家の当主が認めれば、三男のマリウスも仕官しに来るだろう。

「でもアレスの周囲には間者が潜んでいるだろうし、動けば敵勢力に話が伝わるのは確実だ」

しかも自分から呼びつける形になるので、「どうしてアースガルド領へ来ようと思ったのか」という質問はできない。

王家からの要請という強制力を使った上でそんな質問をすれば、間抜けもいいところだ。

「仮に首尾よく運んだとしても、仕官動機を聞き出しにくい状況ができる。次回にきちんと繋げるなら、早いうちに聞いておきたい部分なんだが……ここをクリアできないのも問題か」

更に言えば自発的に動くことと、国の命令で動くことへの意識の違い。

モチベーションの高さがどうなるかも分からない。

そしてアレスを政治的に動かすだけでも、計算しにくいリスクが出てくる。

何がどう繋がるかは不明にせよ、後々デメリットが発生する可能性は高いと言えるだろう。

「回り回ってアクリュース王女を刺激するかもしれないし、王女の居場所が分かるまでは変に動かさない方がいいような気もするな」

時間を巻き戻せば年齢も巻き戻るので、いくら回り道をしてもいいと思っているクレインだが、王女が絡むとなれば話は別だ。

第一王子の不穏な動きによる、反乱計画の前倒し。

彼もそれが起きることだけは警戒している。

やり直しによる優位性が一気に崩れる恐れもあるので、動きが何かと大事になりそうなアレスは、使いどころの難しい大駒だった。

諸々を考えると、アレスに頼むという選択肢の優先順位は落ちる。

「じゃあ先生に頼むかと言っても、無理を言って手紙を書いてもらったばかりだ。しかも先生の場合は追手がどうなっているかも分からない」

次にビクトールを思い浮かべたが、確かに貴族への面識という方面であれば右に出る者はいない。

中央で顔が知れていないとしても、北部貴族のどこかを紹介してもらい、まっとうな交渉の道が開ける。

しかし彼には、実家からの追手が掛かっている、

しかも彼には、ヘルメス商会の件で派手に働いてもらったばかりだ。

彼を歓待して留めおきたい領地など、いくらでもある。

あまり酷使するといつでも出て行かれるので、頼み事はしにくい立場だった。

「しかも北寄りの家を頼るだろうから、この時期に北侯と接触するかもしれない。結構危ない賭けだ」

彼の影響力は北部を中心としたものであり、頼れば彼個人ではなく、どこかの家を経由する可能性が高い。

余計な借りを作ることや、情報漏洩へのリスクもやはり高まる。

そしてラグナ侯爵家との関係に、早いうちから動きが出ることへの懸念もある。

「先生の人選なら間違い無いだろうから、詳細不明の中央貴族を利用するよりは確実だけど……問題はその後なんだよな」

アレスの周囲からは間者と思しき者を多数引き剝がしたが、ラグナ侯爵家の内部へ潜んでいるであろう、東西の密偵にはまるで対処していない。

ビクトールを使えば、北経由で 怪しい(・・・) 動きを捕捉される恐れがあった。

「強引に仕官させる道を選ぶならやり直しが前提だけど、そうなれば仕官動機だけでも聞いておきたいところだ……となると、この二択ならビクトール先生を頼るのがいいか」

多少強引な勧誘をしたところで、「移籍を呑んでくれたのは何故か」と聞けば、魅力に感じた部分は教えてくれるだろう。

マリウスの前歴――現在の所在地――と仕官の決め手だけ把握しておけば、直接誘い文句を送り付けるという道も開ける。

それを聞くことを目標に置くなら、ビクトールの方に聞いた方が無難とは推測できた。

「はぁ……まあ、どうしても東側の影が見える。あの二人は最終手段として、頼ることだけは視野に入れておくか」

効果が大きそうだが、別な問題がセットで付いてくるのだ。

二人のどちらかに頼むと、最悪の場合はやり直し自体を封印される危険まで冒すことになるかもしれない。

この二択はあくまで最終手段だ。

そう考えたクレインは溜息を吐いてから、別な案を考えることにした。

つまりはリスクの少ない、まともな方法をだ。