軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十二話 少し反省しよう

「いい方向に転がった、か。ふっ……ふふ、ははは! これだけ暴れて、その結論になるか!」

王子は笑いを嚙み殺せずに、初めて笑顔を見せた。

口を開けて笑う王子を見て逆に恐怖を覚えたクレインだが、王子の笑顔は晴れやかなものだ。

「ヴィクター・フォン・アマデウス・ラグナも、陛下と殴り合ったことがあるらしいが」

「え?」

「それも友となるのだから、分からぬものだ」

殴り合って友情が生まれることなどあるのか。

クレインはそう疑問に思うが、王子の挙動は徐々に不審になっていった。

「あー、つまりだな。そういうこともある、ということだ」

そう言って横目でチラチラとクレインの方を見る王子だが、何が言いたいのかは彼も薄々察した。

「散々殺してきた男と、友人になれと?」

「……王都にいる人間は誰も、 仲良く(・・・) という言葉の意味を、はき違えているのでな」

仲良くしましょう。

そう言って擦り寄る人間には確実に何か狙いがあり、その裏を読み間違えれば、最悪の場合は死ぬ。

周囲にいるのが、何を考えているか分からない人間ばかりだったこと。

それも王子の人間不信に拍車をかけていた。

「大いに問題があるやり取りだったが、それくらい真っ直ぐな人間の方が信頼できる」

その点クレインなら、気に入らないことは気に入らないと言うだろう。

何より、どのような暴言を吐いてもやり直せるという利点があるため、王子が納得するギリギリまで過激な 諫(いさ) め方もできる。

王族から見れば、遠慮なく物申す家臣というものは貴重だ。

王家に忠誠を誓う人間は大勢いても、それは彼個人に向けられた感情ではない。

とりわけ同世代では初めての信頼できそうな人物で、しかも人生で初めて、自分を救ってくれそうな存在が現れたのだ。

アレスとしては単なる家臣以上の関係。友情や友誼を結びたがったが――悲しいかな。

人生で友達がいたことの無い王子は変な誘い方をした上に、クレインからすれば何度も己を殺害した実績があるのだから、経過を見るまでは警戒を解けなかった。

「こちらはまだ信用も、信頼もしていないのですが」

「……ブリュンヒルデを呼んで、無礼討ちにするぞお前」

そこを出されてはクレインもお手上げだが、何にせよ、王子の洗脳を解きつつ友好的な関係を結ぶという目的は達した。

「余計なボロは出さないこと、それが条件です」

「私が殺されることを防ぐというか……殺されても生き返れるのであれば、健やかに暮らせる。体調さえ戻れば、何も問題は無い」

アースガルド領が発展してもしなくても、第一王子暗殺事件が起きるのは502年の1月だ。それまでは死なないと、ほぼ確定している。

この事実は恐怖で蝕まれたアレスの精神を癒す材料になった。

「くく……今日からは、枕を高くして寝られそうだ」

そして死の恐怖から解き放たれ、彼は今日からまともに眠れるようになった。

睡眠不足による肉体の不調も徐々に回復していくだろう。

精神と肉体が回復して、病んだ部分が薄れていけば。

能力は高水準で、しかし人望が無い王子が味方になるのだ。

「クレイン・フォン・アースガルド。頼れるのは、お前だけだ」

「まあ、精々しっかりやりますよ」

「本当に、頼むぞ……」

クレインからすれば彼の力で何かをプラスにするというよりも、抱え込んでマイナスを消せるという方が大きい。

だが、何にせよ王女の遺臣や子飼いよりも頼りになる存在になり、全部を暴露したことによる信頼関係もできた。

王子が希望を見る目をしているところを見て、クレインは――

「……もしかしてこれ、別な解決策に入ったか?」

「どうした」

「いえ、何でも」

結果として、依存先がこちらに変わったのでは。

そんな考えが頭を過った。

これはこれで厄介ごとのような気がしているクレインだが、ともあれ二人は握手を交わした。

そこでもう一つ気づく。

「あれ? そう言えば」

「今度はどうした」

「話を始めて、2時間は経ったかなと」

要点を掻い摘んだとは言え、最初の人生から話していったのだ。

実際には3時間ほど経過している。

「それがどうした?」

「いや、過去ではすぐに、宰相が呼びに来たはずだったものが……」

前々回までは王子の派閥に入ると決めて、支援策を話し合った直後に宰相は来た。三十分も経たずに現れた彼が、3時間経っても来ないのはどうしたことか。

少し不安になったクレインだが、アレスが先に動く。

「ブリュンヒルデ、もう開けてよい。宰相をここに案内せよ」

「宰相でしたら、既に」

「え?」

輪廻の話は普通のトーンだったので、耳を立てても外には漏れないはずだ。

しかし待機者の様子を確かめる覗き穴のようなものがあり、話を聞かれていた可能性は否定できない。

焦ったクレインが立ち上がると、廊下には宰相が 立てかけて(・・・・・) あった。

「……え?」

「殿下とアースガルド子爵が怒鳴り合っている声を聞き、押し入ろうとしましたので――気絶させておきました」

豪奢な文官服を着た白髪の老人は、少し白目を覗かせた状態で壁際に座らされている。

どのタイミングで現れたかは不明だが、状況はクレインたちにもすぐに分かった。

門番のブリュンヒルデは、強引に入室しようとした宰相をノックアウトしたらしい。

そうと知り、クレインとアレスはそれぞれの方向に目を逸らす。

「……ブリュンヒルデは貸し出す。上手く付き合え」

「……この状況で言われても、嬉しくないのですが」

クレインは王族を殴ったのだから、忠誠心が高めの宰相は声高に処刑を要求するだろう。

秘書官が就任直前に宰相を殴ったのだから、その責任は当然追及されるだろう。

その処理を考えたクレインは、ここで慌て始めた。

「ど、どうしようかなこれは」

「目覚めたら私が取りなすから、一度置いておけ。それよりこれから宰相と共に事務方へ行くのだろうが。終わったらもう一度ここに来てくれ」

話すべきことは話したし、もう用事は無い。

そう思ったクレインだが、王子は自信満々の顔をしていた。

「安全策を取らないなら、私の方が貰い過ぎだ。その礼に、お前の弱点を少し埋めてやろうと思ってな」

「と、言うと」

「書面にしたためるから、帰り道で読むといい」

そう言ってそっぽを向いた王子は、気恥ずかしそうにしていたが。

頬を朱に染めて、明後日の方向を見て言うには。

「そ、それではな、く、クレイン」

「え? はい」

「私のことはアレスと呼べ特別だ」

名前を呼ぶのに緊張して、恋する乙女のような顔をしたまま去って行った。

が、これはもちろん、本来の計画から外れている。

「……俺、そっちの気はないんだけど」

紆余曲折はあったが、王子の修正には成功した。

ついでに何やら策を授けられ、トドメに第一王子の寵愛を受けたらしい。

そうと認識して、クレインは呟く。

「ま、まあいい。作戦は成功だ、作戦は」

勢いに任せて進んだ結果、予想よりも上の結果は出てきたようだ。

しかしどうやら薬が効き過ぎた。

少し反省しようと、クレインは固く誓う。