軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

罠の狩人

翌朝は明るくなってからすぐに撤収作業を始めた。

荷造りして肉を運んで、帰り際に獲物がいればそれも仕留めてってところだな。

「モングレルさん、それは何してるの?」

「天秤棒だよ。適当な細木を切って、両端に溝を作る。んで中央には肩当て用の窪みも作っておく。するとこの棒で、荷物を吊るせるわけだ。溝の位置を調整すれば重さの違う荷物でも運べるから便利だぞ」

「あー、そうなってるんだこれ」

「見たことないか?」

「街でたまーに? 深く考えたことはなかったよー」

天秤棒というと江戸の時代劇とかで野菜とか売ってる人を思い浮かべる人が多いかもな。

でも世界的に色々な国で発明された道具で、別にアジア限定ってわけでもないんだぜ。

こいつの長所は血の滴る獲物を吊るしてても服に触れないから汚れずに済むってところだ。適当に獲物を吊るして血抜きしながら歩けるのはなかなか便利だ。

俺は討伐とかで帰り際に荷物が増えた時なんかはよくこういう天秤棒を作っている。

手軽に現地で作れるからな。要らなくなったら適当に売っぱらうなり燃やすなりすればいいからお手軽な道具だ。

「ごめんねー、結局全部持たせちゃって……帰りも弓の練習したかったのに……」

「良いのさ、俺の本分は剣士だしな。荷物持ちといざという時の接近戦に備えとかなきゃシーナに怒られちまう」

「あはは、シーナ団長怒ると怖いからねー」

「普通にしてる時ですらなんか目が怒ってるもんな」

「それ言ったらもっと怒るからやめなよー?」

「言わない言わない、酒の席以外では」

帰りは場所の模索もないので真っ直ぐ帰り道を歩ける。

道中ではウルリカが樹上の鳥をバスッと撃ち落とし、その度に俺の天秤棒に追加することになった。重くはないけど滴る血が足元に垂れないかどうかだけがやきもきする。

「あ、モングレルさんここちょっと良い? 結構いー感じの通り道だから、これ埋めさせてほしいんだ」

「これって? なんだそりゃ、石? いや鉄鉱石か?」

「ううん、スラグ。鍛冶屋で時々欠片をもらうんだー」

「そんなのどうするんだよ」

スラグというと、製鉄で出る不純物の塊だ。石と金属が混じったような質感をしている。俺の知る限り、使い道はほとんどないんだが……。

「こうやって土に埋めておくとね、魔物が金属の匂いを警戒するんだよ。特に鼻の利くクレイジーボアなんかは鋭くてねー」

「まぁ長く生きてる奴なんかは剣も鏃も危ないもんだって理解してるかもしれないが。その匂いのするスラグを埋めると何かいい事あるのか?」

「罠に掛かりやすくなるんだよー。ほら、正式くくり罠って金属の部品があるでしょ? あの匂いって結構わかるみたいでさー。普通に仕掛けるとクレイジーボアなんか器用に避けちゃうんだよねー」

「金属の匂いなんてわかるもんなのか」

「みたいだよー? だからって金具がないと強度に不安があるしねー。こうやって匂いに慣れさせて……別の日に罠にかける! って感じかなー」

「はー……気長なもんだなぁ罠ってのは」

「罠なんてひたすら準備、準備だよー。でもおかげで少ない労力で大物を仕留められるからねー。これも準備の一環、ってね」

最後にスラグを埋めた土をブーツで踏みしめて、ウルリカは笑った。

「ちょっとずつ匂いを覚えさせて、慣れさせて……気の緩んだところでガシッて捕まえるの。……こういうのも狩人の知恵だよ? モングレルさん」

「すげぇなぁ、狩人は」

ライナも相当に博識だったけど、ウルリカはさすがその先輩と言うべきか、色々と濃密な知識を持っているのだった。

……けど弓の教え方についてはライナのが上手かったな!

ウルリカの弓はなんか感覚的なアドバイスが多くてわからん部分が多いわ。感覚派っていうのかね、こういうのを。

肉はウルリカと分け合い、とはいえ仕留めたのは全てウルリカだったので向こうが多めの配分でまとまった。

今回の俺は設営と解体の手伝い、あとは荷物持ちって感じだったな。近接なんてそんな役割ではあるけども、なんとなく一匹も仕留められなかったのは消化不良なところがあるな。せめて弓で一匹でも仕留められていればな……。

「ウルリカ先輩、おかえりなさい。あ、モングレル先輩も。……大猟っスね!」

「おう、ウルリカ送るついでに肉も運んで来たぜ。すごかったよ、ウルリカの弓」

「っスよね。尊敬するっス」

「えー? もうやめてよー、二人してさー」

クランハウスで肉を渡し、ここでウルリカとはお別れだ。

実りの多い野営で良かったわ。こういうことがあると毎度毎度、現代知識無双なんてそう簡単にできるもんじゃねーなと思わされるわ。

「じゃあまた機会があったら弓のこと教えてくれよ。酒奢るからよ」

「うっス! だったらこっちもちゃんと工夫して教えなきゃだめっスね!」

「じゃあねー、モングレルさん。また一緒にやろうねー」

こうして俺の野営は終わったのだった。

……あとは肉を適当なとこに売っぱらわないとな。冷蔵庫がないとこういうところが辛いぜ。

「……あー、やっぱりお風呂は良いなぁー……」

夜になると、ナスターシャさんの沸かしてくれたお風呂で一日の汚れを落とすのが日課になってしまった。

ああ、私は昨日モングレルさんと野営したから2日分の汚れになっちゃうのか。

……モングレルさんが入れないのに、私だけ入れちゃうのは少し罪悪感。かといって入浴をやめたくはないけどね。

今日はもう誰も入らない最後のお湯だ。おかげでゆっくりと浸かれちゃう。サイコーだねー……。

「……身体、ゴツゴツしてたなぁ……」

思い返すのは、天幕で一緒に寝た時の……モングレルさんのがっしりとした身体。

私も女の格好をして今までやってきたし、アルテミスに所属してからも男の人の身体なんてほとんど触ってこなかった。

そういう意味ではモングレルさんは一番身近な男の人かもしれない。

ライナにとってもそれは同じで……うん。私も出会った時はライナに近づく悪いやつだと思ってたけど、話してみればすぐに優しい人だってことはわかったし、今ではすっかりあの人の事を気に入っている。

弓の腕前はへっぽこだけど、料理は上手だし、色々と……私の知らなかったことも、詳しいし。

手も私と違って骨ばってたな……。

「ん……」

モングレルさん……もうすぐ30歳って言ってたけど、全然そんな風には見えないな……。

他のギルドマンの人と比べたら清潔だし、親切だし……やらしい感じも全然ないし。

ライナ、大変だよ。あの人ちゃんと見てないと、誰かに取られちゃうよ。

急がないとほんと、誰かに……。

「っ……」

う、あ……駄目だ。これ以上湯船の中では……のぼせちゃう。

慌てて湯船から身体を起こすと、身体を伝ってお湯が流れ落ちてゆく。

服で着飾っていないと平坦な身体を、前までは女の子っぽくなくてあまり好きになれなかったけど……。

最近はそれも良いかなって、思っている。

「……やっぱりこれ……モングレルさん、思い浮かべちゃうなぁー……」

今回の野営は良い成果だったから。

また次も一緒に、行けたら良いなぁ……。

あ、だめだ。また、立ち眩みしそう……。