軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

狩人の豪華な晩餐

ずぶ濡れになった服を乾かしつつ、もう火を焚いて調理することにした。まだ昼過ぎだが鍋の方は時間も掛かるし、他の料理も漬け置きしなきゃならん。弓の練習はまぁ、火にかけてからだ。

今日は胸肉はなんちゃって唐揚げに、脚肉はシンプルな塩串焼きに、そして残った骨を使って鳥ガラスープを作ってみる。他の身はほぐして棒々鶏モドキかな。

なにぶんタレらしいタレがないものだから思っていた味になってくれん。けどまぁ味付けがハルペリア風になるだけで、素材そのものは美味いからマシだ。少なくとも宿屋で出される飯よりはずっと美味い。

パフ鳥を切り分け、必要部位ごとに皿に入れる。

胸肉は繊維を断つように削ぎ切りにして調味液にドボン。ああ、醤油が欲しい。

脚肉は適当に切りつつ、骨は鍋へ放り込む。皮がグニグニしてて切りづらい。いや、皮は別に串焼きにすればいいか。一気に剥いだれ。

あとは市場で買った香味野菜と、行きで摘んできたくっせぇ野草を鍋にぶち込んでひとまずこれでよし。

「……自分でファイアピストン作っといてなんだけど、こっちのが早いんだよな」

この世界の着火は火打ち石のようなものの他、マッチに似た使い捨ての着火具もある。

俺が作ったファイアピストンはそれらと同じくらい便利な代物だったが、肝心の俺はあまり使ってない。

何故か。俺の馬鹿力できりもみ式火おこしをやった方が早いからだ。

きりもみ式ってのはあれな、木の棒を窪みに押しつけてスリスリ回転させまくる奴。

俺がやるとあまり疲れないし手も痛まない。強引に摩擦熱で発火するとこまで持っていけるから楽なんだ。文明もクソもないがパワーが全てを解決してくれるのだから仕方がない。

「あとはまぁ適当に燃やし続けるだけだな」

薪は近くで立ち枯れていた細い木を丸々切り倒して使わせてもらっている。

バスタードソードと俺のパワーによる蛮族薪割りだ。マジで文明を感じない。けどこの世界で夜営するギルドマンはわりと似たようなことしてるんだよな……。

「鳥ガラスープなんて作ったことないけど、上手くいくんかなこれ」

前に一度マルッコ鳩でやった時は骨が少なくて断念した。

しかし今回なら上手くいくはずだ。クレータートードの大きな骨も一緒にぐつぐつ煮てるからな。

「晩飯までに間に合えば良いんだが、さて」

煙突付きかまどの入り口に魔物避けの香木を置き、魔除けの煙を辺りに充満させる。

この香木から発せられる煙は魔物が嫌がる効果を持ち、なんとなく近づきたくないなーくらいの……まぁお守りくらいの影響力を発揮してくれる。俺が今まで使ってきた体感では安物の蚊取り線香くらいかな。微妙なとこだ。

「俺も弓の練習でもやってみるか」

しばらくはゴツい骨を煮続けるだけの待ちの時間だ。

それまでは俺もライナと同じように、弓で狩りごっこでも楽しむとしよう。

ライナは比較的近くにいて、水場に近いところで新たに2羽のパフ鳥を仕留めていた。

「……モングレル先輩、なんで上インナーしか着てないんスか」

「さっき濡れたから火の近くで乾かしてるんだよ」

「ああ……こっちはもう潮時っスかね。拠点の周りからは鳥も消えたっぽいっス」

「いやーもう充分だろ。よくそんなたくさん仕留められたもんだ」

「えへへ」

俺もしばらく鳥を狙っていたのだが、惜しいところまではいっても命中までいかない。躍起になって近くから狙おうとしたら逃げられるし、散々だった。ほとんど撃った矢を拾いにいく罰ゲームを続けていたようなものだ。

「弓使いって大変だな」

「弓使いの苦労、わかってもらったっスか」

「すげーよくわかった。日頃の練習大事だな」

「そうなんスよー。いきなり実践だと本当に大変っス。こういうのも大事なんスけどね」

森の日暮れは早い。俺たちは川辺で鳥を捌いたり、水を補給したりして、今日はもうベースキャンプに戻ることにした。

「うわ、なんか色々作ってるんスね」

「おう、そうだぞー。まぁ既にある程度進めてるから、座ってゆっくりしててくれ」

「……なんか拠点が豪華になってるっス!」

ライナは主に、俺の三角テントを見て言っているようだった。

「……この内側で寝るんスね」

「ああ。普通の雨くらいなら凌げるぞ。ちょっと風があると厳しいけどな。上から虫が落ちてくることもないし、安心安全だ」

ピラミッドの四面ある三角形のやつ。あれを隣り合う二枚分だけ用意すれば、ちょうど俺が今使ってるテントの形になるだろう。

頂点の部分を長めの木の枝で支え、布の隅を小さめの枝で地面に固定している。半分オープンしてる状態のテントだな。

マントを背にゴロンと夜営するのもこの世界では珍しくないが、寝返り打てないのが地味に辛いしたまに雨に降られた時がしんどかったので、夜営覚悟の任務の時は少し嵩張るが簡易テントを持ち歩くようにしている。

「チャージディアのラグマット敷いてるから寝心地良いぞー」

「おお……おおおー……」

ライナがテントの底に敷かれた鹿皮に吸い寄せられ、ゴロンと転がった。

気持ちはわかる。滑らかで気持ち良いよなそれ。

「そうやって布で壁を作っておくと焚き火の熱を受け止めてくれるから、結構暖かいんだよな」

「あー確かに、そうっスね。……モングレル先輩って色々と便利なものも持ってるっスよね」

「“も”ってなんだよ“も”って。俺は便利なものしか持ってないぞ」

「っスっス」

「ライナもたまには市場を見て回って、これだと思ったものを買ってみると良い。レゴールには発明家が大勢いるからな、掘り出し物も多いぞー」

「掘り出し物っスかぁ」

「駄目だぜライナぁ。若者なんだから俺より新しいものに飛びついていかなきゃよー。レゴールのギルドマンはそういうところで他所と差を付けていかなきゃな」

「うーん、新しいもの……新しいもの……」

ライナは素直で真面目だから、人の言うことやアドバイスを良く聞くし、実践する。

けどその反面で、革新的な何かに触れるという経験は薄いようだった。それはちょっと損な性格だと思う。

まぁ、偏見があるわけでもないし少しずつ変わっていけば良いだろうけどな。

「ほーれライナ、昼飯に鳥の塩串焼きあるぞ。食え食え」

「わぁい」

「レバーとハツも美味いぞー」

「あー、良いっスねぇ」

「これで酒が飲めりゃなぁ……」

「少人数の夜営っスから……今日はやめときましょ」

「だな……」

段々と薄暗くなる森の中、二人で串焼きを楽しんだ。

ライナは弓の扱い方や手入れの仕方を俺に教えてくれたが、俺の持ってる弓剣の剣の部分が着脱不可能で普通の手入れが難しいことが発覚する。

ライナとしてはもっと普通の弓の方が良いと言ってきたがそれは断っておいた。俺はこいつと一緒にハルペリアいちのハンターになるからな。

「いやまずは一匹仕留めてからっスよ」

「確かに」

「……そういえば魔法はどうなったんスか。あれから練習続けてるんスか」

「あー、まぁやってはいるよ。寝る前にちょっとだけな」

「あ、そうなんスか。てっきりやめちゃったのかと」

「でもなー……どうもあの練習方法だと、途中で眠っちゃってさ。最近は睡眠導入として重宝してる」

「ええ……」

「ベッドに寝っ転がりながらやってるのが悪いのかもしれん」

「いや間違いなくそのせいっスよ……」

指導書が言う魔力がなんなのかを掴むって段階からもうよくわからんからな……。

身体強化に慣れきった奴は魔法の適性が落ちるとはよく言うけど、多分俺なんかはバリバリそのクチだと思ってる。

「まぁそれより、串焼き食ってから結構経ったしそろそろ今日のメインを作るとするか」

「マジっスか。なんスか」

「そうだなぁ。名前をつけるならパフ鳥の衣揚げと、パフ鳥とクレータートードのガラスープってとこか」

「おー……?」

「まぁ見てな」

俺は調味液に漬け込んでいたパフ鳥に小麦粉をまぶし、煮立たせたラードの中にぶち込んでやった。

喫水はちょっと浅めだがギリギリ入る。パチパチと爆ぜる油の音がなかなか良い。

「焚き火で直に鍋やると火の加減が難しいんだけどな、この薪ストーブを使ってやると結構楽になるんだ」

「はえー……」

獣脂の唐揚げ。胸肉に染み込んだ調味液とラードの風味で悪くはないはず。この調味液が醤油だったら言うことなしだったんだが、まぁ仕方あるまい。

「ほれライナ、食ってみ」

「わぁ……え、これいいんスか」

「遠慮するな。どんどん食え……」

「……ざっス。んむんむ……んーっ!」

美味いかライナ……美味いだろライナ……お前が獲ってきた鳥だからな。どんどん食え……。

「ザクッとしてて超美味しいっス! いつもはこのお肉、パサパサしてるのに……中はふっくらしてるんスね! 最高っス!」

「だろー? どれ、俺もこのデカいのいただいて……はほひひひ」

「めっちゃ熱そうス」

「はひ……はひ……」

「……一口でいったけど熱すぎて噛めない奴っスね」

パフ鳥も小さくはないが、ニワトリほど歩留まりがいいわけでもない。

二人で食っていれば案外すぐに唐揚げも無くなってしまった。

まぁ物足りないって量ではないし、丁度いい塩梅だったかもな。

「こっちも酸っぱい液があっさりしたお肉に合ってて良いスねぇ」

「だろー。あ、野草も茹でといたから食べなさい」

「はぁい」

棒々鶏モドキはこれはこれとして悪くない。おつまみに丁度良いかな。

あー酒飲みたい。ウイスキーの販売まだっすかレゴール伯爵。王都と外国に売りつけるのも良いけどレゴール内の需要も満たしてくれよな……。

「あとはこっちのガラスープだが……」

「……さっきから気になってはいたっス。匂いが……」

「良い匂いだろ。骨を煮詰めると髄液が出て、旨味になるんだ」

「髄液……クレータートードもそのために入れたんスね」

「まぁうん多分。あれ入れてどうなるかよくわからなくなったけど」

「ええ……」

鍋の中を見ると……正直、お世辞にも綺麗とは言えない。

ぶっちゃけ生ゴミだ。煮立った生ゴミ。しかしここから漂う濃厚な香りは、確かにこれが食事であるのだと主張している。

「ひとまずここから骨を取り出しましてー」

「うわっ、モングレル先輩その棒? 二つ持つの上手っスね!」

「あー? まぁなー、最近黒靄市場で見つけたんだ。慣れたら食い物とか掴むのに便利だぞー」

「はえー……」

「で、あとはこのスープを煮詰めたり塩を足して味を調えて……」

手の甲に汁を垂らし、味見。……うん、塩入れないとな塩。

「どうスか先輩。どうなんスか味の方は」

「まぁお待ちよ。……うん、この塩味だ。あとはスープに野菜入れて少し煮込んだら……」

ほどほどに切った蕪と貧相な人参と余ったパフ鳥の肉をぶちこみ、ついでにコショウっぽい辛味スパイスを加え、煮込んで完成だ。

「さあ飲んでみろライナ。モングレル特製ガラスープだ」

「さっき別の料理名だったような……いただきまっス」

すっかり辺りは暗くなり、夜になった。

薪ストーブの他にも新しく増設した焚き火の灯りは心もとないが、それでも互いの顔を見るくらいは問題ない。

「んく、んく……んっ! 美味しい!」

「だろう? さて俺も……うん、美味え」

鶏ガラの味はやっぱ正義だな。今回のはポトフっぽい感じだが、中に麺を入れて食いたい気分だ。

鶏の殻とか使って中華麺作ってみるか……? また専用の金具を発注するか……いや包丁で切ればいいかな。でも丸い麺食いたいしな……。

「はふはふ……鳥の美味しさが詰まってるっていうか……良いっスね、これ……お店とかで食べるものより、ずっと美味しいっス!」

「だろう? 俺は美味いものに関しては妥協しないからな」

「……いや本当に。お店開いたら儲かると思うんスよね」

「飲食店は大変そうだからなぁ。俺はこういうところで料理するのが好きなんだよ」

自分で魔物を狩って、人目憚ることなく料理して、食って寝て……。

本来なら他人に見せるようなものでもない。ここから何がバレるかわかったもんじゃないしな。

けどライナ相手だとどうしてもな……食わせてやりたくなってしまった。

姪っ子オーラに負けたよ。前からだけど。

「これはアルテミスの連中には秘密な。バレたら俺がアルテミス専属料理人にされちまうから」

「……それ、良いっスね」

「おいおい」

「冗談っスよ」

ライナは笑い、おかわりのスープをよそいはじめた。

そこそこ量があるから、明日の朝も楽しめるだろう。

問題は面倒臭いこの後片付けだが、それは明日の俺が苦労してなんとかしてくれる筈だ。頼むぜモングレル。揚げ物の始末はお前に任せた。

……いや待てよ。

「せっかくだしスープにラード入れてみるか」

「えー……まぁ少しなら」

「脂っこさが足りないからな。これで結構……うん、悪くない」

「……おー、ほんとっスね。あっさりしたスープも悪くないっスけど、これも良い味してるっス」

まぁこれでも全部の油を処理できるわけじゃないが、結果として美味くなったからいいか。

飯も食い終わり、夜もふけた。とはいえ時計があるなら多分、9時かそこらだろう。森の夜はとりわけ長く感じるものだ。

それでも明日朝早くの狩りもあるので、夜ふかしはできない。異世界の夜はさっさと寝てやり過ごすに限る。

「なんか、悪いっスね。モングレル先輩のとこにお邪魔しちゃって……」

「ああ良いよ。二人くらいならギリ寝られるしな。それに寝る時は暖かい方が良いだろ」

「……はい」

俺とライナは三角テントの中で寝ることにした。

さすがに手狭だが、ライナは小柄だし布の張り方を工夫すれば入れないことはない。

恒温動物が二人近くにいれば、その分暖かくなるしな。

薪ストーブの中で静かに燃える薪と、天板の上で炙られ煙を発する魔除けの香木。腹一杯で眠くなってきた。

「……私、あんま料理できないんスよね。モングレル先輩って、料理苦手な女ってどう思うっスか」

「んー? なんだ、結婚とかの話か」

「あ、まぁ、はい。……レゴールの街の人って、女の人は家事やるじゃないスか。でも私は狩りばっかりで……そういうの、変なのかなぁ……と」

「あー、町住まいの連中からしてみると少し変わってはいるかもな」

「うちのパーティーはほとんど、そういう家事とか……得意なんスよね……でも私、弓の練習とか手入ればっかりで。女らしくないのかなぁって」

なるほどそういう悩みか。

「ウルリカ先輩も最近は進んでお風呂掃除とかやってるし、ポプリを作ったりして……私は女なのに、なんかウルリカ先輩のが女の人らしくて自信なくしそうっス……色々やろうとはしてるんスけど、気が回り切らないっていうか……」

「……そういうことを意識できるだけ、ライナは偉いと思うけどな」

ガサツな奴は自分の行動を全く気にしないからな。

改善の意識があるなら充分だろう。

「それに、俺は別に良いと思うぞ。弓に熱中する女っていうのもな」

「……そう、スかね」

「俺の故郷では、あー……男も女も仕事してたからな。あまり男だからこう、女だからこうっていうのは無くて……いや、あったんだろうけど、なるべく男女同じにしようって気持ちが強かったんだ」

「……それはそれで、大変そうっスね」

「まぁな。正直それが結果として村として良い影響を与えていたのかどうかはわかんねぇけど……でも俺は、男も女も好きな仕事して好きな夢を持てるっていう……村の気風? みたいなのは、そうだな。気に入ってたよ」

男女平等。前の世界でも色々と公には言えない不都合があったし、綺麗事と言われればその通りだったかもしれない。

でも男女が一人の人間として生き方を選べて、それをあまりとやかく言われなかったのは、良い時代だったなと思っている。

「……モングレル先輩にそう言ってもらえると、私は嬉しいっスよ」

「そうか」

「ありがとうございます」

「つーか眠いわ。もう寝ようぜ」

「……はぁい」

真面目な考え事をしてると眠気がやばいわ。ライナほど若くもないしな……悲しいけど。

俺はもう寝るぜ……スヤァ。

「……暖かい」

俺の背中側にライナが身を寄せる感触を最後に、俺は眠りに落ちた。

日課の魔法の瞑想をすっぽかすのは、これで連続二日目になる。明日から頑張ろう。