軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

春の風物詩

レゴールを拠点とするパーティーは、春を境に活動を活発化させた。

弓使いパーティー「アルテミス」はバロアの森で狩猟だ。

冬眠から目覚めた動きの鈍い魔物をターゲットに、通常よりも深い場所へ潜っているらしい。早めの間引きのようなもんだな。

統率のとれた「大地の盾」は何班かに別れ、よそから来たギルドマンをレゴール近郊の狩場候補地に案内したりだとか、馬を使って少し離れた地点のクエストをこなしている。

マイペースがモットーの「収穫の剣」は人それぞれだ。団長らの班は早速どこか離れた場所に遠征に出かけたし、近場で任務を受けてる奴も結構多い。

その他少人数のパーティーたちも、自分らに合った依頼を受け始めている。

意外なところでは以前ギルドで俺をパーティーに誘ってきたルーキー、「最果ての日差し」なんかも意外としぶとく生き残っているな。

リーダーのフランクが独特な性格してるせいかちょくちょく対人関係で危ない目に遭っていたらしいが、持ち前の空気の読めなさというか図太さでここまでやってこれている。驚くべきことに最果ての日差しのメンバー数は他の弱小パーティーを吸収合併し、今では6人になっているそうだ。

冬の間は食いつなぐだけでいっぱいいっぱいだったそうだが、これから任務も増えるし、チョイスを間違えなければ今年も乗り越えられるだろう。

俺? 俺は適当にやるよ。

まぁ基本的には春の美味しい野草を摘むために森や川辺の任務をこなすのが一番かな。

ちょっと癖のある野草ほど天ぷらにすると美味い。

そんな感じでいつものように賑わうギルドで目ぼしい依頼を受け、バロアの森へとフィールドワークに出てきたのだが……。

「そこのブロンズのおっさん、ちょっといいか?」

「おー?」

森に入って少ししたところで、二人組のギルドマンに声をかけられた。

見ない顔だ。多分よその街からやってきた連中なんだろう。

だったらまだ歩き慣れない森の案内をお願いします~っていう流れは自然ではあるのだが、二人の人相を見るに用件は違うらしかった。

“人は見た目が9割”という残酷な格言が前世ではあったが、似たような法則はこの世界でも適用されるようで、オブラートに包まず表現すると二人組の男はいかにも“俺たち犯罪者やってます”といった人相だった。

そんな凶悪な顔した人たちが剣の柄に手をかけて“これから犯罪やります”みたいな笑みを浮かべていたらさすがの俺でも警戒はする。

年齢は二十かそこらだが人相の悪さで老けて見える。

得物はどっちもショートソード。あと投げナイフかな。

首元の認識票はブロンズだが、本物かどうかは怪しい。

……ギルドから尾けてきたらさすがにわかる。

まさかこいつら、森の近くで待ち伏せでもしてたのか? 結構慎重な盗賊だな。

「穏やかじゃねえな。俺に何の用だよ。金ならつい最近稼いだ分が結構あるぞ」

「おっ、話が早いなおっさん。剣を捨てて金を寄越しな。そうすりゃ命だけは助けてやるぞ。おっと、逃げられると思うなよ? 俺は“抹殺のロキール”で通ってんだ。背中を見せたら生かしちゃおけねえ」

「俺は“瞬殺のカルロ”……てめぇが怪しい動きをしたその瞬間、俺の投げナイフが脳天に突き刺さるぜぇ……」

いやまぁ怖いよ顔は。

でも武装がショートソードで盾無しってことはそこまで強くないんだよなこいつら。

これまでも武装のショボいソロのギルドマンを相手に金をふんだくってきたのだろう。

つまり、この俺のバスタードソードを見て侮ったってことである。

許せねえよなあ?

「良い度胸だ……俺の名前はモングレル。お前たちをレゴール衛兵に突き出す者の名だ」

「ハハッ、こいつやる気だぜロキール。……剣を抜いたな? もう引き返せねえぞ」

「仕方ねーな、やっちまおうか。行って来いカルロ」

街中で素手で喧嘩をふっかけてくるゴロツキ相手だったら俺も素手でなんとかする。

だが街の外で、それも武器持ちで殺し有りきで襲いかかってくるような盗賊相手ではバスタードソードを使わざるを得ない。

けどまぁ俺の装備だけ見て襲撃を仕掛けてくるような連中なんて大したことはない。

春は変な奴らが湧く季節だ。臨時収入とでも思って相手してやろう。

「死ねいっ!」

弱そうな雑魚敵が好んで使いそうな掛け声と共に、投げナイフがこちらに放たれた。

「投擲物に強化無し」

それをバスタードソードの剣先でぺいっと弾く。

まぁ軽い刃物はこの程度ですわ。

「あっ……」

軽々と飛び道具をいなした俺を見て、ロキールとやらは何かを察したらしい。

いや運が悪かったなお前たち。許すつもりはないけど同情はするぞ。

「ショートソードってことは簡単な自分への強化も使えないんだろ。春先の素人ギルドマンをターゲットにするならアイアンを狙っておくべきだったな。俺が普通のブロンズでも怪しかったと思うぜ」

「く、来るな……」

「ああ勘違いするなよ。次に活かせって意味じゃないから。お前たちは豚箱行きだ」

「うわぁあああっ!」

反転しようとしたカルロの脳天を、バスタードソードの刀身の腹でぶっ叩く。

べいーんと鋼の良い音がして、一人の悪党は土の上に転がって気絶した。さてあともう一人。

「……な、なあ。俺はまだ誰も殺しちゃいないんだ……見逃してくれ……」

「お前さっき“抹殺の”とか名乗ってたろうがよ。……ていうか、あれか。そのマジっぽい反応からして殺しもやってたのか……ハッタリだけだったら良かったんだがな」

こんなしょうもない悪党どもに殺された人がいる。

まあ命の軽い世界だから悪党といえばそんなことも珍しくはないにしても、胸糞悪くなる話だ。

「み、見逃してくれぇーっ!」

男は気絶した味方を置いて逃げ出していった。

人殺しかつ薄情。まぁその方がこっちとしても気兼ねせずに済むんだけどさ。

「天誅!」

「ぐえっ!」

逃げて距離を置かれた相手をどう仕留めるか。

答えは簡単だ。相手より速く走ってぶん殴れば良い。

相棒と同じ方法で頭を強打され、二人目も土の上に転がって気を失う。

さて、あとはこいつらをレゴールにお届けするだけだ。

「縛ったら天秤棒の前後に一人ずつ吊るして、ってとこだな……重くなりそうだ」

こういう時、仕留めた魔物だったら内臓を抜いて軽くするんだが、人間相手はそうもいかない。

面倒だが子豚の丸焼きを2つ吊るす感じで、街まで連行していくことにしよう。

いつもは軽口を叩き合うフランクな門番だが、さすがに人間二人を棒に吊るしてやってくる姿を見せれば対応も真剣なものになる。

「森で待ち伏せか……卑劣な連中だ。認識票も自分たちの物ではないんだろう。誰かを殺して成りすまし、レゴールに入ろうとしたのか……」

「すまんなモングレル。こいつらはこちらで尋問にかける。追ってお前には報奨金を出そう。額は余罪次第だな」

いつもは門の休憩室でダラダラしている連中も姿を見せ、縛られた二人組に厳しい視線を送っている。

これから異世界クオリティの尋問という名のほぼ拷問にかけられ、二人のならず者は余罪を追及されることになるだろう。犯罪奴隷として使えるギリギリのラインで振るわれる暴力だ。ここからは正直関わりたくもない。

「じゃあ俺はまた森に潜らせてもらうよ」

「大丈夫か? 怪我はなかったのか」

「無傷で制圧できたしな。浅いところで春の野草だけ採取したら戻ってくるさ」

「そうか……気をつけろよモングレル。街の外ともなると俺達衛兵では守ってやれんからな」

「心配してくれるのか、嬉しいね。でも野草の分け前をプレゼントできるほどの時間はなさそうだ」

「なに、今度また肉を持ってきてくれればそれで良いさ」

「それ結構図太い要求してるぞお前ー」

「ガッハッハ」

春は人も物も金も動く季節。それに合わせて悪い連中もカサカサ動き回るのは仕方ないことだ。

こればかりは風物詩ってことで納得するしかない。悲しいことに、珍しいもんでもないのだから。